悪夢なんて蹴散らせて夢の中で俺は泣いていた。
夢だと分かっているのに。
目の前で消えゆくウィットに、俺はどうすることもできなくて、このどうしようもない感情を叫び声に変換することしかできなかった。
「やめてくれ!!!」
(いくなウィット!!!)
上体を起こし伸ばした手は空を切る。
滲む汗を拭う。
夢から覚めたはずなのにまるで夢の続きを見ているようで怖かった。
「っはぁ、はぁ」
呼吸を整えたいのにさっきのシーンが何度も頭の中をフラッシュバックして上手くいかない。
そこへ
「クリプちゃん?」
昨日も沢山聞いたはずなのに、もうずっと待ち望んでいた声が聞こえて俺は声の行方を辿る。
「ウィット…」
「どうしたよクリプト。嫌な夢でもみたのか?」
ベッドに腰掛け汗でくっついていた前髪を優しく払ってくれる。
ウィットが俺の前で笑っている。
それがいかに幸せなことか今の俺には痛い程分かる。
ウィットの手を取り祈るようにぎゅっと握る。
「どこにも行くな」
「あぁ、行かねぇよ。もうお前がいないと生きられない身体になっちまったからな」
「夢の中では俺を置いていった」
「ほんとかよ?それなら夢の中の俺を叱らねぇとな。愛する人がこんなに悲しんでるんだ。でもなクリプト、俺を見ろ」
視線を合わせたら実はこれも夢でしたって、消えてしまいそうな気がしていた。
「テジュン。俺はここにいるよ」
優しい声色と頬を撫でる暖かな掌におそるおそる顔を上げる。
「やっとこっち向いてくれたな。全然俺を見ないから夢の中の俺に妬いたぞ」
こつりとぶつかり合うおでこ。
「俺はここにいる。なぁ、そうだろ?」
「あぁ…生きてる。お前は俺の目の前で今、笑ってる」
「あぁ、だって幸せだからな。お前がいる」
「もう一度名前を呼んでくれ」
「何度でも呼ぶさ。テジュン」
「っ、ウィット」
今度こそその存在を確かめるためにぎゅうぎゅうに抱きしめる。
「愛している。怖いくらいにな」
「俺も、愛してる。なぁ、確かめてくれよ。俺がちゃんとお前の前に存在しているのかを」
そう言って薄く開かれた唇に我慢することなく貪った。
朝食を作ってくれていたのだろう、俺があげたエプロンを勢いよく脱がす。
俺の足に乗り上げ我慢できないのか腰を揺らす姿に息が荒くなっていく。
「悪いが今日は一日中離してやれない」
「ばぁーか、一日だけじゃ足んねぇよ、おっさん」
煽るように笑ってみせる恋人の姿に、俺は今度こそ理性を吹き飛ばした。
「その言葉、後悔するなよ。小僧」