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    ya_so_yan

    @ya_so_yan

    9割文章のみです。勢いで書いたものを置いておきたい。後でピクシブに移すことが多いです。

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    ya_so_yan

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    夏のコルキャン/キャンコル。
    テーマは海(最初は緑だけど)
    ※コルさんがピュアボーイ
    新書メーカーでTwitterに投稿したのと同じ内容です。

    青を蹴散らして「あーっもう、最悪だよッ!!」

     キャンティがフロントバンパーを蹴飛ばした。愛車のバイパーが相手なら、絶対にしない所業だ。
     哀れな車はあちこちべこべこに凹み(これはキャンティの仕業ではない)、エンジンもやられて完全に沈黙しているので、いまさら細い脚に蹴られたところで追い打ちにもならない。
     それでもまだ気が済まないらしく、尚も車体を足蹴にするキャンティを、コルンはどう止めればいいのかわからず、口を開きかけては閉じ、手を伸ばしかけては引っ込めていた。
     しばらくしてようやく、キャンティ、と呼びかけた。

    「体力、消耗しない方が……いい」

     脚を下ろしたキャンティは、息を切らし、額の汗を拭って、きっと険しい顔でコルンを振り向いた。

    「フンッ! 体力なんか温存したってどうしようもないじゃないか。しばらくはこっから動けないんだからねッ!」

     しなやかな腕を振り回すようにして周囲を示す。
     天高く伸びる木々に両脇を挟まれた道路。
     その真ん中で力尽きたように停車した車。
     キャンティとコルンはここに足止めを食らっている。



     いつも通り、コンビでスナイパーとしての仕事をこなしたまでは良かったが、運悪く所在がバレてしまい追われることになった。
     バイパーの元まで辿り着けなかったので、適当な車を奪って逃避行と洒落込んだ。
     キャンティが運転を務め、コルンと愛銃レミントンが追っ手を片付けたまではよかったが、数だけは多い相手にかなりの追撃を食らった。互いに怪我こそしなかったが、車は再起不能。更に、街中から郊外へと逃げるうちにどこともわからない林の中で身動きがとれなくなった。
     もちろん、GPSを辿り迎えに来るようジンに連絡を取ったが、すぐにとはいかない。

     夏の暑い日中に立ち往生する羽目になり、キャンティの苛立ちは最高潮に達していた。せっかく獲物を仕留めた高揚感もどこへやら。
     青々と茂る木々のおかげで日差しは和らぎ、周囲は薄暗いほどだったが、代わりに湿度が高く感じられて、快適とは言い難い。おまけに虫も飛んでいる。
     車内で過ごそうにも、完全に沈黙した車はクーラーも効かず、却って蒸されるだけだった。

    「ちくしょう、酒でもありゃいいのに……あーっ、今すぐシャワー浴びて冷たいビールが飲みたーい! っていうかもう泳ぎたーい!」

     ボンネットに乗っかったキャンティが喚いている。
     機嫌は悪いが元気な彼女に対して、コルンは気落ちしていた。コルンにはキャンティの願いをひとつも叶えてやることができない。
     何かしてやれないかと、周囲に意識を向ける。
     林の中の、広くない道路。コンクリートが所々ひび割れているのを見る限り、あまり使われていない道のようだ。ここまで来る間、民家もろくになかった。引き返しても意味はなさそうだ。
     となると……と、車が生きていれば向かうはずだった先へ鼻先を向けたコルンは、気づいた。

     潮の匂いがする。

    「……? どこ行くんだい」

     ボンネットで胡座をかいていたキャンティは、歩き出す相棒に気づいて声をかける。

    「この先、見てくる。確認して、すぐ戻る」

     立ち止まらずに答えたコルンは、キャンティはここで待つのがいい、と判断していた。暑い中、もし無駄足だったらもっと体力を消耗するし、もっと機嫌を悪くするだろう。往復するのはコルンだけでいい。
     ところが、キャンティは車から飛び降りた。

    「ばか、アタイも行くっての! こんなとこに置いてくんじゃないよッ」

     傍らに追いついてくるキャンティの、口を尖らせ拗ねたような表情を、コルンはサングラス越しに見て。
     ごめん、と呟いた。


     ――そうだ。俺はキャンティのすぐ傍にいるべきだ。




    「ヒューッ! コルン、でかしたよ!!」

     キャンティが歓声を上げて駆け出した。
     コルンは、キャンティの体力が有り余っていることに安堵するのも忘れ、彼女が駆けていく先の景色を呆然と見つめていた。

     アスファルトはいつしか砂地に変わり、木々が途切れて、視界が一気に開けた。
     遮るものがなくなった空は、太陽に照らされてどこまでも青い。空の色を映す海面は、けれどもう少し色濃い青に見える。砂浜に打ち寄せ泡立つ波は、澄んだ透明で。
     どこもかしこも眩しく、どの色彩もあまりに鮮やかで、サングラスが無ければ目も開けていられないかもしれない、とコルンは思う。

     眩しい景色の中、キャンティの髪もまた鮮やかに映えていて。
     しかし、その赤毛に見惚れそうになったコルンは、彼女がブーツを脱ぎ捨てたところでハッと我に返る。
     続けてライダースーツに手をかけるのに気づいて、ぎょっとして駆け寄った。

    「キャンティ……なんで脱ぐ?」
    「なんでってそりゃ、濡れるだろ」

     コルンが戸惑うのも構わずに、キャンティは嬉々として、胸元のジッパーを下ろしていく。

    「キャ……キャンティ、待て……待っ――」

     辿々しい制止など、何の意味もなさず。


     蝶が蛹から抜け出すのに似ている、とコルンは思った。


     スーツから両腕を抜き、腰まで引き下げたキャンティの姿は、クロップド丈のインナーで胸元は覆われているものの、肩も腕も腹も、白い素肌が露わになった。
     更にジッパーが引き下げられようとしたところで――

    「おっ、やっぱりあんたも泳ぐ気になったかい?」
    「違う……これ」

     コルンは、急いで脱いだ自身の黒いシャツをキャンティに向かって突き出した。彼女から顔を背けて。

    「スーツ、脱ぐなら……これで……隠せ」
    「は? せっかく脱いでんのに、こんなの着てどうすんだい」
    「違う、下……巻いて、隠して」

     意図を悟ったキャンティはきょとんとして、上はタンクトップ一枚になったコルンをしばらく見つめていたが、やがてニヤニヤしながらシャツをその手からひったくる。

    「なんだいなんだい、そんなにアタイの裸見るのが恥ずかしいって?」
    「違う……ここ、隠れる場所、ない……誰かが見てるかも」
    「アハッ、下手な言い訳しちゃってェ」
    「違う、本当に……無防備。危ない」

     そう、無防備で心配だから。理由はそれだけ。
     やけに心拍数が速いのも、周囲を警戒しているだけだ。
     誰かに見られて困るのも……見せたくないのも、本当だし――

    「アタイが下着まで上も下もぜーんぶ脱いだら、大して意味ないと思うけど?」
    「…………」
    「キャハハッ、嘘ウソ! わかったから拗ねるんじゃないよ」

     キャンティが笑いながら、腰に引っかかるスーツに再び指をかけたので、コルンは背を向けた。
     あまり汗をかかない体質のはずが、いつのまにか、額がびっしょりと湿っていた。



    「ほぉらコルン、これで文句ないだろ?」

     衣擦れの音が止み、キャンティが促すように呼ぶので、コルンはそうっと振り返る。
     まず、丈が短く腹を隠せていなくても、インナーを脱いでいなかったので、ほっとする。
     そして、彼女のへその下から太ももまでは、コルンのシャツで覆われていた。袖を腰骨より少し上で縛って、不恰好なパレオのようになっている。
     安心、とまではいかないが、ひとまずいいか、とコルンは納得する。

    「パンツもちゃんと履いてるよ。見るかい?」
    「キャンティ」
    「ごめんごめん、怒んないでよ」

     呼びかけた低い一声でコルンの機嫌を察知し、キャンティは指先で摘んでいたシャツの端を手放した。

    「さあて、やっと涼めるねぇ!」

     身軽になったキャンティは、嬉しそうに波打ち際へと駆け出した。
     コルンは彼女の姿を目で追いながら、なんだか疲れてしまって、砂地に腰を下ろす。

     眩しい。

     空と海。少し前までは青が支配する静謐せいひつだった景色を、キャンティが掻き乱している。
     燃えるように赤い髪を揺らし、艶かしい白い足で波を蹴散らして、ケラケラと子どものような笑い声を上げている。

     ほうっ、とこぼした自身の溜め息が、思いのほか熱くて、コルンは驚いた。
     体を外から火照らせる日差しのせい、だけとは思えない。

    「何やってんだい!? あんたも来るんだよ!」

     足首まで海に浸したキャンティが振り返り、大きく手を振り上げるようにしてコルンを手招いている。
     来るのが当然というように。

     コルンは別に、それほど海が好きというわけではないけれど。
     キャンティが呼ぶなら、行くべきだと思った。


     ――キャンティの傍にいるべきだ。
     ――俺は、キャンティのものだから。


     コルンは座ったままブーツを脱いで、ズボンを捲り上げ、膝下の辺りで几帳面に裾を折る。

    「なにモタモタやってんだよ、あんたも全部脱げばいいじゃないか! 素っ裸でもアタイは構わないよ!」

     キャンティは急かしながら、またバシャバシャと飛沫を立てて――

    「うわぁっ!?」

     甲高い悲鳴が上がって、コルンはハッと顔を上げた。
     直後。

     ざばん、と大きな波が弾けた。

     コルンは跳び上がるように立ち上がり、走り出した。ざぶっと波に踏み入った途端に、足を取られて重くなる。早く駆け寄りたいのに、ままならない。絡みついて、引き止めるかのようで。
     やはり、海はそれほど好きになれそうにない。

     キャンティは既に、一度全身浸かった海水から上体を起き上がらせて、呆然と座り込んでいた。
     やっとその傍まで辿り着いたコルンは、キャンティ、と呼びながら長身を屈め、手を差し伸べる。
     キャンティはコルンの手を、しばらくじっと見つめて――

     ふいっ、とそっぽを向く。髪の先から雫が散った。
     コルンは、サングラス越しにじっと、キャンティの様子をうかがう。
     彼女はそっぽを向いていたが、コルンを横目に見上げている。
     少し考えて――どうやら、“これ”は違うのだとわかって。

     コルンはいったん、もっと低く身を屈めると、キャンティを波間から抱き上げた。

     ざば、と掬い上げた体は、普段より重い。
     まるで海の水が絡みついて、キャンティを引き止めているようだった。
     なんだか腹が立って、腕に力を込める。


     ――俺のものだ。


     コルンはしっかりとキャンティを抱き寄せ、立ち上がる。濡れるのなんて構わない。
     しなやかな素肌の腕が、素肌の首筋に絡む。

    「わかってんじゃないか」

     機嫌良く目を細めたキャンティは、濡れた指で帽子のひさしをつまみ、コルンの頭から奪った。
     それを、青い空へ向かって高く放り投げる。


     汗で湿った髪に、潮風が涼しく感じて。
     直接頭に降り注ぐ日差しは、より眩しくて。
     そして――

     キャンティの濡れた唇は、押し当てられたコルンの口が火傷しそうなほど熱かった。

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