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    ya_so_yan

    @ya_so_yan

    9割文章のみです。勢いで書いたものを置いておきたい。後でピクシブに移すことが多いです。

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    ya_so_yan

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    たまさんの「許しキャンセル」イラストを元に書かせて頂きました。
    銀ニキと喧嘩した弟分&巻き込まれる金ニキの金銀ウォです。

    ※ウォカさん萌えキャラムーヴしててすみません
    ※大人気ないニキたちですみません
    ※金ニキと銀ニキにそれとわかる差異がなくてすみません

    キャンセル失敗「おい」
    「……」
    「何やってんだ」
    「……」

     ジンが何度呼びかけても、背中に張り付いた温かくゴツゴツした質量と、腹に回された太い腕は離れる気配がない。

    「……ウォッカ?」

     いよいよ不可解になり、呼び掛けながら振り向くも、頭が引っ張られて首がろくに回らない。長い金髪が、自身の背とそこに押し付けられた体に挟み込まれているせいだと、すぐにわかる。辛うじて背後に届いた視界の端には、自身と揃いの黒いボルサリーノハットの天辺しか見えない。背中でくぐもった呼気が熱い。
     うんともすんとも返ってこない返事を待ちくたびれて、ジンは別方向へ首を巡らせた。自身と同じ高さにある、自身と同じ顔に向き直る。

    「どうなってやがる」

     問うても、やはり返答はない。姿形も、名前すら同じ、髪の色だけが違う男は、ひどく渋い表情を浮かべたまま黙りこくっている。


     珍しく、非常に珍しいことに、片割れと弟分が仲違いしているようだ、ということだけはわかった。


     ジンとその片割れと弟分、三人で使うことの多い広めのセーフハウス。今日はそこで落ち合おうと示し合わせていた。片割れと弟分の仕事の方が早く終わるというのは事前に聞いていたので、後から戻ったジンがリビングに足を踏み入れてみれば、いきなり後ろからウォッカに抱き着かれた――というわけで、今に至る。
     傍から見れば、2メートル近い大男に、身長こそ及ばないが筋骨隆々とした男が後ろから甘えるように抱き着いているという、あまりにむさ苦しい状況だ。
     しかし、抱き着かれているジンはそう悪い気がしなかった。両手は抵抗することなくポケットに突っ込まれている。

     ウォッカは基本的にジンたちを敬愛し、畏怖しているが、気安いところもある。敏い弟分であるから、兄貴分の機嫌を鋭く読み取って、三歩下がって何とやらとばかりに控えている時もあれば、調子よく軽口を叩いてくるような時もある。
     しかし……いや、だからこそ、機嫌如何いかんに関わらず、警戒心の強いジンの背後に無遠慮に回り込んで断りなく抱き着いてくるというのは、そうそうあることではない。
     不躾であるとか、鬱陶しいとか、暑苦しいとか、そういったことより、弟分がこのような行動に出ている理由に興味が湧く。
     元から体温が高いにしても、背中に密着した体は妙に熱く、何より漂ってくる酒の匂いから、酔っているゆえの大胆さもあるらしい。

    「いったい何やらかした」

     しがみついてきて離れないウォッカの腕をあやすように軽く叩きながら、ジンは片割れに問いかけた。ニヤニヤと底意地の悪い笑みを浮かべながら。
     片割れは、目を逸らしたまま聞こえよがしに舌打ちするだけだった。
     その無言の返答で、ジンは推測が正しいことを知る。

     ウォッカが片割れを怒らせたという線はない。そこだけは、ジンは確信していた。
     何故ならその場合、弟分は今にも死にそうなくらい真っ青になって何としても許してもらおうと尽力しているだろうし、ジンの方は暴君のごとく苛烈に――あるいは女王のごとく高慢に振舞っているはずである。実際にそういう現場に居合わせたこともあれば、自身がそのようにウォッカを参らせることもある。
     しかし片割れは、不機嫌そうだが、暴挙を働いている様子はない。そう振る舞える立場にないということだ。

     ならば、片割れが弟分を怒らせたというのが確実である。
     やはり珍しいことだ。ウォッカは大抵、二人の兄貴分に対して等しく寛容で、たとえ思うところあっても「しょうがねえですねぇ」と困った顔をして結局受け入れるのが往々のパターンだった。
     そんな弟分が「しょうがねえですねぇ」で済ませないとは、はてさて片割れは具体的に何をやらかしたのか。そこまではどちらかの口から語られない限り定かではないが、ウォッカの気質を考えれば――注意と心配に耳を貸さずに無茶をして危ない橋を渡ったとか、本来は協力すべき仕事を無理に一人でこなして弟分の立場を奪ったとか、そんなところだろうと当たりをつける。
     兄貴分に暴挙をやり返すことはおろか口答えもできない弟分が、それでも、怒っているという意思表示をせずにはいられない程度に腹を立てたゆえの、せめてもの主張。それがこの子どもじみた行動というわけだ。
     ジンは愉快だった。その矛先が向けられているのが自分ではないという点が特に。


    「ウォッカてめぇ、つまんねぇ当てつけもいい加減にしやがれ。ガキでもあるまいに」

     弟分を怒らせた方のジンは、痺れを切らしたように吐き捨てる。腕組みをして、二の腕を人差し指で繰り返し叩くペースの速さに、苛立ちがよく表れている。
     なるほど、自分にはそっぽを向いておいて、ほぼ同じ姿をした相手に甘えるような素振りを見せているのは、当てつけというのが相応しいかもしれない。もし同じことをされれば、今は機嫌のいいジンも不機嫌になっていたことだろう。

    「言いたいことがあるんなら、こっちを見てハッキリ言ったらどうだ、え?」

     常の弟分であれば、ここらで音を上げているはずだ。怒気を含む兄貴分の低い声に震え上がり、生意気な真似して申し訳ありやせんでしたと、へこへこ頭を下げることだろう。
     しかし、今のウォッカはそうしない。変わらずジンの金髪に顔を埋め、頑なにもう一人のジンを見ないまま、ぼそぼそと、しかしきっぱりと答えた。

    「……嫌でさぁ」
    「?」

     腕をタップする指が止まる。銀髪で隠れて見えないが、こめかみに青筋でも立てていそうな片割れの反応に、ジンは笑いを堪える。しかしクツクツと喉を鳴らす音は抑えきれず、ギロリと睨まれた。だが自身と同じ目つきに睨まれたところで臆するわけもなく、ちょっと肩を竦めて見せる。

    「あーあ、こりゃ相当怒らせたな。素直に謝ってやったらどうだ?」

     勧めてみるも、火に油。片割れの苛立ちがむしろ高まっていくのが手に取るようにわかる。
     弟分や自身に対して本気の暴力を働くようなことは滅多にない片割れだが(そこはどちらのジンにも共通している)、さすがにこれ以上は面倒なことになりそうだ。そう思って、そろそろ弟分を宥めにかかろうとした、その時――


    「兄貴の顔見たら、許しちまうんで……」

     ウォッカは力ない呟きと裏腹に、抱き着く腕にグッと力を増した。ヤワな者なら軽く息を詰まらせそうな力加減だが、ジンは全く動じない。
     その代わり、徐々に――しかし確実に、面白くない気分になっていく。
     逆に、片割れは一瞬軽く目を見張った後、その唇の端にじわりと微かな、しかし確かな笑みを滲ませる。
     弟分のただ一言で、二人のジンの機嫌は入れ替わりつつあった。

     兄貴分を抱きしめる力の強さは、もう一人の兄貴分を許したい、という気持ちの表れに他ならない。
     ジンたちにはどこまでも寛容になれてしまう弟分のことだ、本当ならいつだって、二人がどんな理不尽や無体を働いても受け入れて許したいのだろう。けれど時には、意地だとか矜持とか、あるいはそんな兄貴分たちへの想いの強さそのものとか――ウォッカなりにも譲れないものが邪魔をしてしまうだけなのだ。
     許したいけれど、簡単には許したくない。けれど、面と向かったら許してしまう――弟分は葛藤の中にいる。
     顔を埋めているのは金髪だが、今、その頭を占めているのは銀髪なのだろう。
     そう思うと、抱き着かれている方のジンは面白くない。片割れと弟分のダシにされているような気分になってきた。実に、面白くない。

    「ウォッカ」

     己と同じ声が弟分を呼んだと思ったら、いつしか気配もなく背後に回り込んでいた男が、己ごとウォッカを抱きしめた。長く力強い腕は、弟分の分厚い体も、同じだけ背の高い体も、まとめて包み込んでいる。
     同じ体積の隙間にグッと挟み込まれて、息を呑む音が金髪に伝わった。

    「嗚呼、悪かった。俺が悪かったさ……なァ、機嫌直せよ」

     つい先程までウォッカに負けず劣らず子どものような態度で不貞腐れて居たくせに、あっさりと非を認めてみせる。いっそ薄気味の悪いほど甘ったるい猫撫で声で、弟分だけでなく自分をも宥めにかかっている……そんな気がした。そんな片割れの態度が、ますますもって面白くない。
     面白くはないが……

     背中には弟分の熱い体が、そのすぐ後ろからは自身と同じ体温の腕が伸びてきている。
     困ったことに、それが心地いいと認めざるをえない。

     ジンでさえそうなのだ。間に挟まれた、どちらの兄貴分も心から愛している弟分が、これ以上、強情な態度を固持していられるはずもなく――


    「……あ、兄貴ィ~……」

     野太い声が、か細くへろへろとした声で鳴いた。
     直後、まったく同じタイミングで、二人のジンは噴き出した。
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