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    いつか半サギョになるヒヨサギョ

    Xに書いたもののまとめ。

    #半サギョ
    #吸死腐
    suckTheRotOutOfYou
    #ヒヨサギョ

    セロリサンド半サギョになるヒヨサギョ

    仕事が充実していると、ついプライベートが疎かになる。最近、特定の彼女も作くらず、下の処理もビジネスライクな店で事足りてしまってる。
    昔は仕事も色恋も、欲しいものは全力で取りに行ってたのに、俺も歳かのう…

    自分がそうだから、他人もそうだとは限らない。という事を、部下を見ていて気付いた。

    元々スナイパーの彼は飲み込みも早く、色々教えてやりたくなる。最近は不得意な接近戦も「僕、苦手なんだよな…」と言いながら、時間を見つけては1人道場で練習する姿を度々見かけた。勤勉で真面目。だが上司と軽口を叩ける度胸と場をよむ力も心得ている。周りと連携し、携わる任務の数も増え、仕事が楽しくなってくる頃だ。
    一番の新人という事もあり様子をよくよく見ていた為、気付いた。
    コイツ、恋をしとる。
    しかも厄介なやつに。

    仕事がうまくいっているからと言って、プライベートがうまくいくとは限らない。
    サギョウが半田を見る目が語っていた。

    半田の頭は今ほぼ満席と言っていいくらい、仕事と母親とライバルで埋め尽くされている。果たして生きている間にサギョウの視線に気づくのか?
    サギョウはサギョウでその察しの良さ故に、敗戦確実な恋を諦めようとしてる節がある。そんな恋心引き摺りながら合コン行ったって、何も釣れんぞ。
    ここは一肌脱ぐべきだろうが、果たしてサギョウと半田を結んでいいのだろうか?

    「サギョウ、行くぞ!」
    「まってください先輩っっ」

    今日もお決まりの流れ。
    名前を呼びながら振り返らない半田。
    それでも嬉しさを噛み殺すサギョウ。
    きっと、それは2人の関係が変わっても、変わらないのでは?
    それでサギョウは幸せなのか?

    「サギョウ、今日夜空いとるか?」
    「はい、特に予定は…」
    「飲みに行かんか?」

    半田が泊まりの夜、サギョウを飲みに連れ出した。
    めんどくさい酔い方をするが、合わせていつも以上に口が軽くなる。いつまでも心の中で止まらせては、可愛い恋も生き腐れする。吐き出させて少しは楽にさせてやるつもりだった。

    「ぼくねぇ、snyk来るまえからぁ、せんぱいのこときいてて、あこがれてたんすよぉ」
    「うんうん」
    「実際あったらあれだけど、それでも仕事できるしかっこいいし強いしかっこいいし時々優しいしかっこいいし…」
    「そうじゃの」
    「それにいつも僕の名前呼んでくれるんです。勘違い、しそうになりますぅ…」
    「…」

    「負け戦って分かってるんですよ⁉︎先輩の脳内メーカー作ったら母親!ロナルドさん!仕事!で詰まってますもん。入る余地ない…でも、名前呼ばれると嬉しくなっちゃう…」
    目の端に、うっすら涙が浮かんでいる。普段弱音は見せないサギョウのソレが、綺麗だと思ってしまった。
    「俺じゃ、ダメか?」

    え、と声が漏れる唇を唇でそっと塞ぐ。
    離し、ぶつかった視線が戸惑っている。
    安心しろ、俺も戸惑ってる。


    ーーーーーーーーーーーーーーー
     

    「…なんで僕なんですか?
    俯き頬を赤らめながら呟く
    「理由は必要か?」
    「うわぁ、プロがいるナンパの」
    「凹むのう。軽い気持ちじゃないんじゃが…」
    「…その綺麗な顔でそんなこと言って、今まで失敗したことないでしょ」


    ーーーーーーーーーーーーーーー

    「自分はこの可愛い部下に恋愛感情を抱いてる」と覚悟してから、俺は早々に気持ちをサギョウに打ち明けた。自分の気持ちを伝え、しかし相手からの見返りは求めず。ただ、君を想う事を伝えた。
    はじめ、サギョウは冗談いってと笑った。
    次に、冗談はやめろと怒り、その内ぐっと言葉を飲み込むようになり。
    今、顔を赤ながら「何故」と聞いてくるようになった。

    色々経験して、一番の武器は「素直な本心」だと気づいた。雨垂れ石を穿つ。

    もちろん、気持ちを伝えながらも行動でも示す。仕事中は手を抜かず、今まで通り。
    たが私生活では甘やかす。そして積極的に連れ出し、好きな物や事を探り、サギョウの心地いい距離感を測り…
    徐々にサギョウの雰囲気が和らいでいく。それが、たまらなく嬉しかった。

    サギョウはオンオフを切り替えた方が落ち着くタイプのようで、仕事で張っている気を家では緩めまくっていた。
    隣で無心にプチプチを潰す姿が可愛い。

    「…なんで僕なんです」
    「嫌か?」
    「いや…じゃないけど…」
    「半が、忘れられんか?」
    「!」
    「見とればわかる、それにその気持ちを忘れようとしとる事も」
    「…」
    「月並みだが、忘れさせてやる。今の辛い状況から俺が助けてやる。俺の手を取れ」
    「…やっぱ隊長はすごいや。…不束者ですが、よろしくお願いします。」
    「なんじゃそりゃ(笑」


    ーーーーーーーーーーーーーー

    「サギョウ!今度の休み空いてるか?ロナルドの事務所でセロリ祭りをっ」
    巡回から戻った先輩が、まっすぐ僕の席に向かいながら言ってきた。
    「あー、すいません、その日は…」
    「休みだろ?」
    「えっと、あのですね。僕、恋人ができまして」
    「!!」
    「で、付き合って初めての休みなんで、出かけようって言ってて…」
    「そ…それは、無理だな」
    「そうですね、無理ですね」
    「…わかった」

    期待してなかったと言ったら嘘になる。
    先輩が、僕に恋人ができたと知ったら何か変わるんじゃないかって卑怯な考え。
    でも、結果は『わかった』だった。
    だよね。
    何にも変わんない。
    僕に恋人ができても、先輩の世界は。

    署の裏でひっそり泣いてた僕の背中を撫でてくれた隊長の手が暖かかった。


    ーーーーーーーーーーーーーー

    セロリ汁を落としにシャワーを浴びた俺は、やけに大人しくソファに座る半田に言った。事務所に微かに残る忌まわしい匂いに、思わず眉間に皺がよる。だが今はそれ以上に、友人の様子に心配が勝った。
    「いやな、俺は積極的にやって欲しいわけじゃねーんだよ、半田。」
    「…」
    「でもよ、なんつーか、心ここに在らずじゃねえか?」
    「…」
    「セ何フォンデュ、セ何プール、今着てるそのセ何スーツ、サギョウ君が着てたやつだよな?サイズ合ってなくて股ギューンなってんぞ」
    「…」
    「全部、一回やったやつなんだよなぁ」
    「それに最近緑君連れてこないしね」
    ドラルクが会話に混じってくる。確かに、最近サギョウ君の姿見ないなぁ。
    「…あいつは恋人ができたから、誘っていない。」
    「え、」
    「あ、」
    ………
    「…貴様ら、その間は何か知ってる間だな」
    ロ「は、な、何も知らねーし!噂とか!」
    ド「あ、バカ」
    半「噂?」
    ド「…噂というか、よく見かけるのさ。緑君が君以外の人と仲良さそうに出かけているのを」

    「そうか、」
    「まぁ、その話は本当みたいだね。でも君はそれでいいのか?」
    「何がだ?」
    「今日の全部、緑君とやった罠ばっかだぞ」
    「!」
    「確かに」
    「大切なら繋ぎ止めないと」
    「たかが友人が邪魔できないだろう」
    「え、でもお前ら両思いじゃねぇの?」
    「は?」
    「え?」
    ドラ公と半田が間抜けな顔になってる。え?え?
    「あえ、間違えた?」
    「…いや、正解だから驚いた」
    「なっ!?ば、バカな!俺が!?は!?」
    「うーん、やっぱり無自覚だったか。猿科最強でも気付いたのに」
    「ゴリラっていいたいのか?それはごりらなのか?」
    「サギョウが俺を好き⁉︎いや、その前に俺がアイツを…⁉︎」
    早口で話す半田が徐々に赤くなる。これは多分知恵熱か?
    プシュー…
    とうとう顔から湯気が出る。
    「あ、知恵熱」
    「一旦休憩か?コーヒー飲も」

    「そろそろ、大丈夫そうかい?話せる半田君?」
    「…まさかゴリラに自覚させられるとは」
    「可哀想に…」
    「やめろよ家主が泣くぞ」
    「サギョウも俺が好きに見えてたのか?」
    「うん」
    「ヌン」
    「ヌンまで言われては、認めなくては…だがアイツは心変わりしたのだろう。恋人ができたんだ。俺も、心の整理をせねば…」
    「なんで?」
    なんで…なんで?今一番ふさわしくない単語を、ドラ公がさらりと言ってのけた。
    「なんで自分の気持ちに蓋するのさ?自覚したなら言ってしまえ!何故心に嘘をつく?そんな簡単に諦めきれないから、無意識でもギッチギチのセロリスーツ着てるんだろ」
    「…伝えて、いいものなのか?」
    「言ってスッキリフラれてきなよ。そしたらパーティー開いてやる」
    「お前マジ、人出無しだな!」
    「人外ですから」 


    ーーーーーーーーーーーーーーー

    「隊長、家でも仕事するタイプなんですね」
    「あまり持ち込みたくないんじゃが…」
    「コーヒー、置いときますね」
    「ん」
    キーボードのカタカタとプチ…プチ…だけが部屋に響く。サギョウの膝の上でゴビーがうたた寝をしている。手元には、ちょうどいい濃さのコーヒー。
    あまり他人を家の中に入れないタチだったが、サギョウはすんなりと馴染んだ。ソファの上で、可愛くちょこんと座っている。
    「…よし、こんなもんか」
    「終わりました?そしたら映画でも見ます?気になってたヤツ配信始まってたんですよね」
    「酒でも飲むか…そうだ冷蔵庫見てみろ。前にヌンスタで美味そうって言っとった酒、買っといたぞ」
    「ひぇっ、できる男だ。」
    こわいねぇ、ゴビー。なんて、軽口を叩きながら冷蔵庫から2人分の酒を持ってくる。
    つまみはスナック菓子やチーズ、冷蔵庫にある物を適当に
    「適当に、でおしゃれなおつまみ作っちゃうから。やっぱりモテる男は怖い。」


    「…いっつも、気づくとエンドクレジットですよ!隊長と映画見ると…」
    「すまんすまんw映画見とるお前の横顔可愛くての」
    「あ、謝る気ないでしょ///」
    素肌にかけた毛布を手繰り寄せ、照れた顔を隠す。
    かわいい、かわいい年下の彼氏。抱き寄せ緑の髪にキスをする。
    「サギョウくんの顔が見たいなー」
    「うぐぅ///」
    「後、隊長ではないじゃろ?」
    「…ヒヨシ、さん///」
    まだ呼び慣れない名前に胸の底がくすぐったくなる。”恋人”になって一カ月。進展は順調。色々経験はしとくもんだ、後ろの解し方を教えてくれたあのお姉さんには感謝だ。こんなに可愛い彼氏のカワイイ姿が見れたのだから。
    「なんじゃ、名前なんぞベッドの中で何回も呼んどるじゃろ。今更照れんでも」
    「…むしろ思い出すから恥ずかしいんだよ」



    普段隊服で隠れる肩まで朱色になる。日に焼けないからか、若さか、透き通るような白に刺す朱色は目に毒だ。
    「…僕、そろそろ帰りますね」
    「泊まってけ」
    「僕はいいけど、ゴビーのご飯家にあるんで」
    一ヶ月、交際は順調だと思っているが、二つ気掛かりなことがある。
    一つ、情事は必ず酔っている時。
    二つ、私物を部屋に置いていかない。
    まだどこか一線引かれている。だが、まだ一ヶ月。徐々に蝕んでいけばいい。半田の事など思い出せないように。
    「なーんじゃ、一緒におてて繋いで出勤したかったのぉ」
    「もう、どこまでが冗談なんだかこの人…それじゃ、また明日」
    目を瞑り、唇を「んっ」と突き出してくる。
    意外と甘え上手なサギョウが可愛く、このままこの部屋に閉じ込めようかと考えてしまった。
    こわい、こわい。



    ーーーーーーーーーーーーーーーー


    課の扉をあけ、朝の挨拶をする前に飛び込んできた半田の声。
    「サギョウ、今日の夜時間を作ってくれて」
    「え、やですよセロリは。僕暇じゃないんで。」
    「違う、話がしたい!」
    「…話って」
    嫌な流れを感じ、割って入る。
    「何じゃ職場で喧嘩なぞしおって。」
    「む、隊長。おはようございます。」
    「…おはようございます///」
    「俺はただ、サギョウと話がしたくて」
    「だから今日は用事が」
    「そう、俺と飯食いに行くんじゃ」
    「え、恋人と行くと…」
    「た、隊長っ」
    「…あー、すまん。俺じゃ、それ」
    僅かな焦りと微かな後悔を含ませた表情で、慌てふためくサギョウ。まだ、心残りがあるのか?なら尚更。断ち切るため、そして牽制も込めて。
    「その恋人は、俺じゃ」


    ーーーーーーーーーーーーーー


    隊長といると、恐ろしく自己肯定感が上がる。初めのうちは「何で僕なんかを?」と思っていたが、今は自分が自分のまま愛されていて、必要とされてると感じる。
    職場でも、恋人だからって仕事の手は抜かない。でも時々ちょっかいはかけてくる。その辺の匙加減がうますぎて、手の上で転がされてるみたいだ。それがまた、心地いい。

    プライベートでは甘々だけど、仕事では線を引いてくれる。必要な人員を最適な場所へ。隊長の仕事はいつも完璧だ。

    「新設された商業施設周辺の避難経路見直しについて、警らしとるお前らの意見を聞きたい」
    「そうだな、この横道は障害物が多いから経路から外したほうが…」
    「こっちの道も、辻斬りが出没するのではと予測している場所であります!!」
    「先輩ここ、表にゴミだか何だかが溢れてるって苦情きた店じゃないですか?」
    「あぁ、だか最近その店は閉店し、今は清掃業者が入ったと聞くぞ」
    「よかった、汚い臭い煩いで、当直の夜に苦情の電話よく来てたんですよね」
    「サギョウ」
    隊長が、少し離れた席から声をかけてくる。
    「なんです、隊長?」
    「スナイパーの意見を聞きたいんじゃが」
    先輩の隣を離れ、隊長の隣に駆け寄る。気のせいか、背中に先輩の視線。あの日の「話したい事」は何だからわからないままだ。あれから先輩は、ずっと何か言いたそうな視線だけを向けてくる。僕は、なんだか怖くて視線の理由を聞けずにいる。
    「サギョウ、時間ができてからでいいんじゃが、狙撃手の最適配置を警らしながら確認・報告してほしい」
    「わかりました。今日この後警ら予定なので確認しておきます。この地図、お借りします」
    「うむ、頼んだ」
    「でもまあ、この避難経路案が使われるのもまだまだ先でしょうからね」
    「…やめとけ、フラグ立てるの」

    無事、フラグが立ちました



    「避難経路に従って、一般人の誘導を!対象の現在地は?」
    「南側入り口近くのペデストリアンデッキ付近にいます!今日そこでイベントが開催されているので、障害物が多い状況です」
    「サギョウとモエギは引き続き一般人の誘導を、半田とヒナイチは現場にいるハンター達と合流、まずは対象の状況を確認じゃ」
    「ギルドより連絡、どうやら対象は前兆なく変身能力が発現した模様。吸血衝動も強まり、コントロール不能になってあるとの事です!」
    「半田、聞こえるか?お前の探査能力の出番じゃ。障害が多いが、ヒナイチやハンターと連携、対象を確保しろ。なるべく傷つけるな」
    「わかった!」
    「モエギとサギョウ、誘導完了しました」
    「うむ、サギョウは後方支援を予想し狙撃ポイントで待機、モエギは引き続き逃げ遅れた一般人がいないか周辺の確認をしろ」
    「はいっ」
    インカム越しに、先輩が血液錠剤を服用する音がする。僕は急いで確認したばかりの狙撃ポイントに向った。


    スコープ越しに先輩やハンター達が戦う様子を伺う。いつでも撃てるよう、じっと待つ。
    「サギョウ」
    耳に心地いい声
    「サギョウ、俺だけを追いかけてろ」
    先輩の声がインカム越しに響く
    「はい」
    理由は聞かなくても、きっと先輩を追いかけていたら理解できるんだろう。ブーストで動きが速くなっている先輩を懸命に追う。
    先輩が、なぜか椅子を抱え込み蹲った。
    「あし!」
    何も考えず、その椅子の脚に麻酔弾を放つ。途端、生き物のように暴れ出した椅子は姿を変え、人の形になっていく。
    「あ」
    人型は、剥き出しの先輩の腕を噛んだ。
    「先輩!!」
    距離ももどかしく、下へ駆け降りる。
    「サギョウよくやった!半田、そのまま対象を確保!半田?半田!聞こえとるか!?半田」
    耳のインカムに隊長の焦る声。
    ペデストリアンデッキにたどり着いた時、対象を抱き抱えた先輩は獣のような咆哮した。



    「半田、どうした!?」
    先輩を囲むように、皆たじろいでいる。ロナルドさんも先輩の気迫に近づけないでいた。
    「先輩、噛まれたんです!多分、ブーストと仮性吸血鬼化による力の暴走じゃないかと!」
    周囲の人間とインカムの向こうへ説明する間も、先輩の指が対象に強く食い込んでいく。
    「ロナルドさん麻酔弾お持ちですよね?副隊長は対象の確保と退避を。僕が先輩を抑えます」
    「サギョウ!?」
    誰かが止める声がしたが、振り切って走り出す。まったく、世話の焼ける先輩だ。対象が傷付いて一番凹むのは、あんたでしょーに。

    近づいてきた僕に、先輩は近くのテーブルを投げつける。しかしわずかに残った正気がそうさせるのか、大振りな動きは読みやすく、易々とテーブルを避ける。次に投げられた椅子を左手で受け、先輩の肩に手を、そのまま側転し背後に回った。肩と腰に手足を絡めて動きを封じる。同時に自由になった対象を連れ出した副隊長が視界の端に見えた。
    ガぅンっ!!
    被弾の衝撃は後ろの僕にまで響く。暫く後、先輩の体から力が抜けていった。


    ーーーーーーーーーーーーーーーー



    「反省は」
    「…してます」
    「…ハァ、結果、上手くいったからのう。今回は不問じゃ。だが次からは俺の指示を仰げ」
    「すいませんでした…」
    「お前に何かあったら、俺は…」
    「すいません…」
    幾度目かわからない謝罪。しかしサギョウの視線は無意識に電話に向いており、心ここに在らずといった感じだ。
    …タイミングよく電話が鳴りルリがとる。
    「隊長、今VRCから連絡が。半田君、意識が戻りました。いくつか診察があるのと、傷の手当てもあるので、一晩様子を見るそうです」
    「そうか」
    はぁ、と気の抜けた声がする。先程まで落ち着かずウロウロしていたサギョウの視線が、スッと定まる。
    「…サギョウ、この仕事をしてるなら考えたことあるじゃろ。」
    「?」
    「もし、今死んだら」
    「っ!」
    「お前は、何を残して死ぬ?」
    「…ゴビーとダンゴムツ」
    「…なんて?」
    「でっかいダンゴムツを見つけたって。ゴビーと3人で撮りに行こうって。」
    「…」
    「先輩と…」
    「…被害状況など、気になって仕方がない頃じゃろ。半田のとこに行って報告してやれ」
    「!!は、はい!」

    「いいんですか、隊長」
    「…俺な、ダンゴムシ探し誘われたことにゃーのよ。それに、あんな連携見せられたら…」
    「あらあら…」
    「俺、負け戦じゃったのかのう」
    「諦めるんですか?」
    「…いんや、恋の駆け引きはこれからじゃろ?」
    「わー、しつこい!恋するイケメンは怖いですね!」
    「恋しとるのかの?」
    「えぇ、明らかに」


    ーーーーーーーーーーーーーーーー



    ぼんやり霞んだ視界は白かった。
    …ここはどこだ?
    「VRCです。とりあえず今日は一泊して様子を見るそうです。あ、対象者も無事ですよ。ちょっとアザは残ったけど、大きな怪我はないとの事でした。」
    「サギョ…」
    「僕も大丈夫。前に接近戦の練習で先輩の背後とった事、一回だけあったでしょ?アレで背後とってやりました。これで僕の二勝ですね」
    「あれは…」
    「えー、なしにはさせませんよ?どんなでも勝ちは勝ちです。」
    「…」
    「…さっさと、元気になってくださいよ。まだダンゴムツの穴場教えてもらってないし」
    「俺は」
    「…言いたい事、あるんですか?奇遇ですね、僕もです。でも、ちょっと待ってください。電話、入れさせてください。」

    でんわわわ…

    「…すいません、今、大丈夫ですか?僕、やっぱりダメみたいです。中途半端は嫌だから。明日から、また部下に戻ってもいいですか?あは、チャンスとかめげないですね。…はい。ありがとうございました、ヒヨシさん」
    「…なぜ、」
    「…先輩、僕、今死んだら後悔だらけです。」
    「…」
    「ダンゴムツも、昨日注文したプチプチも、もう直ぐ配信予定の映画見損ねるのも。でも、一番は、アンタに気持ち、伝えてない事。」
    「!」
    「僕、半田先輩が好きなんです。あんなに隊長によくしてもらったのに、結局戻ってきちゃう、気持ちが。ここに」
    「っ、」
    「あ、別に返事はいいんです。僕の気持ち、知ってもらいたかっただけなんで…」
    ポタポタと腕に何かが落ちる感触。
    「あれ…なんで、泣いてんだろ。…伝えたかったのはこれだけです。それじゃ、ゆっくり休んでください。」
    サギョウの立ち上がる気配を逃すまいと、手を伸ばす。触れた肌を賢明に掴んだ。
    「せん…ぱい?え、何で泣いてんすか!?」
    「はなし、させろ…」
    サギョウが枕元の椅子に座り直す。
    「母とセロリの編みぐるみを作ってる時も…ロナルドにセロリ汁をぶっ掛ける時も…隣が、ずっと…空っぽだった…お前の気持ちだけ、じゃなくて、俺の気持ちも、聞いてくれ…」
    「怪我に障ります、明日聞きくから」
    「やだ」
    「…わがままだなぁ」
    「お前の事は何でも…知ってると思った…知らないお前が、遠くに感じて…お前もずっと、こんな気持ちだったんだな…お前の気持ちにも、自分の気持ちにも、鈍感すぎて自分が情けない」
    「…そんなこと言うと、期待しますよ」
    「期待、してほしい。させて欲しい」
    サギョウの顔が近づき、唇に柔らかいものが当たる。
    「先輩は…僕のこと好き?」
    俺は大きく頷いた。
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