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    えくれあ

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    えくれあ

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    実はさくらとぴぃすのおはなしでした。

    SSソムリエ企画第1弾寄稿作品 もう、何年前やったかな。この時期になると、あの子の勘違いを思い出すんだ。あれは紫陽花の光る朝で、二度と戻れない時間で……せやけど夏の足音はすぐそこまで聞こえてきとった。
    「この時期、こっちでは愛を伝えるシーズンなのよね?」
     なんて、あなたがいうものだから
    「……バレンタインデーなら2月だけど?」
    ウチはそう聞き返したっけ。目をキラキラとさせながらそういうあんたはめっさ眩しうて、夏の空のようやった。ウチの返事が気に食わへんかったんか、まるで今の空みたいに顔を曇らせたっけ。
    「向こうで友達が教えてくれマシタ。古い時代からそう呼ばれているシーズンなのヨ!何だか恥ずかしくてこっちで育ったママには聞けていないのだけど…チェリーになら聞けます!」
     そんな浮ついた話題なんて、なかなか親には聞けへんだろうからうちに聞ぃたのかな。この雨の多い嫌な時期に愛を伝えるなんてどういう気持ちやろう。どんよりとしぃ、薄暗うて、なんなら頭痛もするっちゅう時期に。
     ……あ、わかったかも。ジューンブライドのこと?6月の花嫁は幸せになれるとかいう。せやけどそれってこっちの発祥やったっけ。
    「だって、テレビでも言ってマシタ!台風もいっぱいで、もうこのシーズンです〜って。あ、この前いつもの紙芝居の先生も言っていましたヨ。」
     ちゃうみたいや。
     先生からそんな浮ついた話聞ぃたっけ?……あ、そういえば先生(たしか旦那さんはおらへん)が「6月の花嫁なんて!」とかぶつくさ言うてた話かな。それも愛を伝えるとはちゃう物だし何の話なんやろう。考えてみてもよく分からんかった。
    「愛を伝えるシーズンってだけ?どんな名前が着いてるかとか教えてもうてへんの?」
     ぼちぼちその曇り空がこの梅雨の季節によう見る雨空に変わりそうだから聞いてみる。
    「『to you』デス。」
    「……ん?」
    「こっちの言葉になおすと、たしか『あなたへ』って相手に何か送る時の言葉デス。」
     わかった気ぃする。さっきその不貞腐れ気味のあなたの顔のようだって思うた言葉。
    「梅雨やね。」
    「そう!ツーユー!……ちょっと『to you』とは音が違いますネ。」
    「だって、全くちゃう言葉だもん。」
    「えっ!?」
     目を丸くして驚いた顔からみるみる赤くなっていった。勘違いに気づいたみたい。
    「じゃあ、そのツーユーシーズンが明けるのはどのくらいなのですカ?」
    「7月くらいかなぁ。梅雨の後に夏がくるからそれまで我慢やで。」
    「この雨が降る時期に名前がついてるなんて素敵デス。でも、私の気持ちも空もジメジメ。恥ずかしくなってマス。私も雨を振らせてしまいそうデス。」
     しょんぼりしてんのが面白ぉてちょっとからかってやろうっちゅう気持ちになってしもた。それに彼女のジメジメした曇り空な顔よりも
    「向こうに戻ったらお友達に教えてあげて。あとね、はよジメジメ治さへんと、空に負けちゃうからわろてや。ぴぃちゃんの笑顔は晴天なんやから2人だけではよ夏を迎えに行かなきゃ。」
    よぉ晴れた空のような笑顔がむっちゃ好きやねんから。
     むっちゃ好きなんて素直に言える、単細胞な人になれたらどれだけ楽やろう。こんな梅雨の時期でもあなたの笑顔が近くにあれば、雨粒を反射させて、虹を作ってくれる。ウチの心も明るくなるんだ。夏を迎えに行くだなんて素敵だってちょっと恥ずかしそうにわろてくれたけど、ウチはそれが来て欲しくない。今はずっと梅雨でもええ、その夏空はウチとあなただけの二人占めにしたかった。だって夏が来たらあなたはいなくなってしまうんやろ?
    「故郷に帰るまでに、夏をお迎えすることができるカナ。」
    「……ツーユーの気分次第かなぁ。」
    「もう!普通にツユって言ってホシイノ!」
     あぁ、ほんまに帰ってしまうんだって思うてからのあなたとの会話はあまり覚えてへん。だって、その1週間後には帰ってしもたから。辛くてしょうがなくて、何も考えられんくなってしまって……それが悔しい。
     今年の梅雨は短かったから、あともう1週間ここに居てくれれば一緒に夏を迎えられてん。あの時の空と雨、そしてあなたがくれた言葉を胸にして生きていくから……どうか、向こうでもその眩しい笑顔でおってな。
    「I know this sky loves you.空はつながっています。」
     あなたに貰った言葉を呟いて、雨空の見えるカーテンを閉じた。
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