教えてほしい ゆるゆるとお腹を撫でられるうちに、くすぐったさにむにゅって歪んだ俺の口から、くふ、って声が漏れた。
あ、と思って塞いだ時にはもう遅くて、目の前の綺麗な顔がめずらしくわかりやすく曇ってく。眉が下がって唇がきゅっと真っ直ぐ結ばれて、俺は慌てて起きあがった。
「……ここ、なにも感じないか?」
お腹の、お臍より下のところにそっと触れた手はあたたかい。皮膚が薄くてデリケートなところだから、慎重に触ってくれてるのがわかる。けど、くすぐったいな、と思うばっかりで、今のところはそこで何かを感じることは出来なかった。
丹恒は俺が気持ちよくなれるところを探ってくれてるみたいなんだけど、今までにそういう触れ合いを経験したことがないからか、俺の体はそこでの変化を拾ってくれないみたいだ。
「……うーん、くすぐったい?」
「そうか……」
あまりにも俺がくすぐったさで体を捩ったり笑ったりしたうえに、正直に感想を口にしたせいで丹恒はこれ以上進めることを諦めたらしかった。胸元まで捲ってた俺の部屋着を丁寧に下ろして、整えてくれる。
「……無理に急ぐ必要はない。またの機会にしよう」
そう言った丹恒は、俺の髪を撫でて「おやすみ」と言って背を向けると布団に体を預けた。いつもならもっとくっついてから俺を抱きしめて、つむじにキスしてから眠るのに。今夜はしないんだ、って不満で眉が寄ってしまう。
布団にぺたりと座り込んだまま丹恒の背中をじっと見てた俺は、ふと部屋着の上からさっきまで撫でられてた場所に、丹恒がしてくれたように手をあてがってみた。
ゆっくり撫で下ろして時々さすってみても、不思議なことに自分の手ではくすぐったいとすら感じられない。
(やっぱりだめか……)
気持ち良いがわからなきゃ、関係を次に進めることができない。俺じゃよくわかんないから丹恒に手伝ってもらってもう一週間も経つのに、こうも変化がないとさすがの俺にだって焦りが出てくる。丹恒にずっと我慢を強いてる自覚があるから尚更だ。
だけど、何も感じないのはどうしようもない。感覚がお子様なんだろうか。恋人なんて、俺にはまだはやかったってことなのか。
ぐるぐると悩んで、じゃあ丹恒はどうなんだろう、と思う。俺はだめだけど、丹恒はこれで気持ちよくなれるんだろうか。俺よりも歳上だから、感じ方も全然ちがうのか。
そんな好奇心がふつふつとわきあがった。気になった以上は試したくて、後ろから丹恒にそっと抱きついてみる。
そのまま前にまわした手でお腹に触れてみたけど、俺のとは違って、全然柔くない。さすが鍛えてるだけあるなぁ胸筋もすごいもんな、なんて思いながら手を動かしたら、何かかたいものが手に触れた。
「ん?」
何だこれ、ってもっとよく確かめようとしたところで手をがしっと掴まれる。そのままゆっくりと丹恒が肩越しに振り返った。珍しく怒った表情を浮かべて。
「……何をしてるんだ」
「えーっと、その……俺はまだわかんないけど、丹恒は同じことされたらどうなのかなぁ、って……」
「…………まったく」
恨めしげな眼差しは呆れたやれやれ、に変わって、最初は強く拘束するみたいに俺の手を掴んでた力も緩んだ。大きな溜息を吐き出した丹恒はゆっくりと起き上がって、ついでに俺もひょい、と起こされる。なんだか猫みたいな扱いだ。
「それで、どうなるかは理解できたか?」
あまり聞いたことのないぶっきらぼうな物言いで訊くと、丹恒は自分の頭をくしゃくしゃにかき混ぜた。首から上はほんのり赤みがまだある。
さっき、試しに触れた丹恒のお臍の下あたり、そこをぺたぺた触ったら、ほんの少し擡げてるものが手に触れてしまった。それが何かわからなかったなんて言うほど、俺だってデリカシーが欠如してるわけでもないし、ウブじゃない。
布越しだったけど初めて触ってしまった、って今更実感して、あれがそうだったんだ、って俺の頬がぶわっと熱くなる。そりゃ普段クールな丹恒だって赤くもなるよな、と反省した。
「……うん、できた」
「そうか」
「無遠慮に触ってごめん……」
でも知りたかったんだ。そう言った俺に何を思ったのか、丹恒がずい、と距離を詰めた。怒られるんだろうかと思ってたら、おもむろに俺の手を取ると自分ボトムのウエスト部分から中に入れさせる。
「何してんの⁉︎」
「俺はどこが弱いのか、それを知りたいんだろう?」
唐突な行動に声が裏返るくらい驚いた俺に比べて、冷静すぎる丹恒は何を言ってるんだ?て不思議そうに首を傾げた。勝手にお腹と急所近くを触っておきながら言えた分際ではないけど、ワンクッションが欲しい。
「俺はこのあたりに触れると、ぞくりとする。感覚としてはそうだな……腹の奥が重くなる感じだ」
丹恒の下生えの際あたり。そこにダイレクトに触れて、ひゅっと喉が鳴った。緊張と興奮がぞわりと背筋を駆け上がる。ばくばくと脈打つ心臓の響きが丹恒に伝わってしまいそうだ。
俺の手に理解らせるようにゆっくりとそこをなぞらせた丹恒は、固まってしまった俺にふ、と笑みを浮かべると、やんわりと抱き寄せた。
「先程も言ったが、急ぐ必要もないし、焦らなくていい」
自分から知りたいって言っておきながらキャパオーバーしてる俺を宥める声音は優しい。たぶん、滲んだ涙を見たからだ。
でも丹恒は誤解してる。これは未知の行為へのおそれからじゃなくて、丹恒の熱や欲に触れたせいで興奮したからだ。さっきまでわからなかったぞくぞくする感じを、理解できてしまった。
「あ、あのさ、丹恒……」
「……なんだ?」
「……俺も、ここで気持ちよくなりたい、丹恒と一緒に。だから……」
俺の中には僅かにともる何かが間違いなくある。生まれたばかりのそれを消したくない。
俺には受け止めきれないかもしれないけど、とても言葉にできないようなことも、丹恒に教えて欲しい。
「もう少し、触って」