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    yama

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    yama

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    現パロ、教師×生徒な丹穹。
    捏造設定しかない。

    🆕💚💛「おくりもの」「ねぇ、丹恒先生の腕、見た?」
    「見た見た〜!」
    「「「腕時計」」」
    「それ〜!」

     綺麗にハモった大きな声にびくっとした俺は、手元が狂って自販機から取り出したばっかりの熱いレモネードを勢いでぐびりと半分くらい飲み込んだ。まだふーふーし足りないっていうのに。
     くちのなかと喉を襲うじんじんとした痛みを涙目で堪えてるあいだに、声を張り上げた女子たちのもとには、我も我もと好奇心旺盛な女子がわらわら集まってきてた。
     隅っこの席で精一杯目立たないように背中を丸めて息を潜める俺のことは、ありがたいことに視界に入ってないみたいだ。このままひっそりと存在を消しておこう。
     でも耳は女子たちの噂話に傾けておくけど。
    「うっそ、ほんとだぁ」
    「今まで一度だってピアス以外でアクセサリーやあんなお洒落な時計着けてなかったよね?」
    「前の腕時計だって雑貨屋で買った適当な物だって聞いたことあるし、いつもジャケットのポケットに突っ込んだままで時間なんてろくに見てなかったもんね」
     一人が隙を見て隠し撮りしたらしい画像を覗き込みながらの『丹恒先生』に関する情報は、詳細かつ豊富だ。真偽はさておきよく見てるなあ、なんて俺は感心する。隠し撮りは駄目だけど。
     ちなみに、彼女たちの情報に補足をすると、丹恒先生が所持してる腕時計はとっくに電池が切れてて動いてない。ポケットに突っ込んだままなんじゃなくて、壊れてるけど肌身離さず持ってるんだってことも訂正したい。
     何故そんなことを知ってるのかって?だって、その腕時計をあげたのは他でもない、俺なんだから。
     とは言っても、ブランドの模倣品だし、待ち合わせの暇な時間にゲームセンターで獲った安物だ。
    「そんなおもちゃの時計、いつまで持ってんの」
    「お前がくれたものだからな」
     安物なのに。そう言っても、丹恒先生は柔らかな笑みを浮かべるばっかりだった。
     けど、その腕時計は物理的に完全な死を迎えた。
     丹恒先生が手違いで洗濯物に混ぜて洗ってしまったから。当然だけど防水機能のない腕時計は文字盤に水が入って、持ち歩くのを泣く泣く諦めた。
     さすがに諦めた方がいいって、って俺が言った時の丹恒先生は、見た目ではわかりにくいけどひどく落ち込んでた。
     そんな先生とは裏腹に、俺は内心両手を天に突き上げて喜んだ。
     だって、今年のクリスマスにちゃんとした腕時計をプレゼントしようと決めて、一年かけて貯金してたから。予定してたクリスマスにはまだ少し早いけど、善は急げと俺は大学の帰りにショッピングモールに向かった。
     スタッフの人に丹恒先生のイメージを伝えていくつかチョイスしてもらって、あれこれ悩んだ末にシルバーのボディに文字盤のカラーがグリーンの物を選んだ。予算を少しはみ出したけど、絶対に妥協はしたくなかった。
     内心ドキドキで、昨夜泊まった時に綺麗にラッピングされたプレゼントを渡したら、俺の手に触れて「一生大切にする」なんて真剣に告げるから、大袈裟だなあ、ってなんでもないように笑ってみせた。
     本当はすごい照れ散らかしてたのに、暴れなかった俺を褒めて欲しい。
     丹恒先生の言葉や表情を思い出してにまにましてた俺は、「えーっ!」て声にまたしてもびくっとして、我に返った。にやついてひくひくする頬を軽く揉む。
    「私さ、先生にね、誰からもらったんですか?って聞いてみたんだよね」
    「チャレンジャー過ぎない?」
    「勇者現る」
    「先生、詮索されるの苦手だから教えてくれなかったんじゃないの?」
    「そう思うでしょ……だけどね……大切な人にもらった、って言ったんだよね。腕時計見てさぁ、微笑んだんだよ〜……!」
     ここだけの話だからね、ともったいつけて提供された大スクープをきっかけに、あちこちから嘆きを含んだ悲鳴が上がる。
    「腕時計見ながら微笑んだとか何ごと……?」
    「大切な人……」
    「絶対に恋愛に興味ない人だと思ってたのに!」
    「ショックすぎる〜!」
     丹恒先生の想い人探しに夢中になる女子たちをよそに、俺は予想してなかった情報のリークを受けてスマホをテーブルに落とした。
     実際に詮索される事を嫌う性格だから、きっと誰かに訊かれたとしても適当な言い訳で躱すと思ってたんだ。今までの丹恒先生ならそうしてたと思う。
     けど、違った。
     大切な人って。
     腕時計を見ながら?微笑んだ?
     腕時計を通して俺を愛おしそうに見つめる姿を、脳内で変換するのに時間は必要ない。
     スマホを引っ掴むと、まだ興奮さめやらぬ女子たちの声が反響するラウンジを俺は飛び出した。
     行く先はただ一つ。多分、いつもの場所で腕時計を眺めてる人のもとへ。
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