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    じろ~

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    じろ~

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    「きらきらひかる」の後の話です。フィン君に惹かれたモブが圧倒的マシュフィン(まだ付き合ってない)に敗北するSS第二弾です。
    いろいろと捏造しているので、ご注意ください。

    #マシュフィン
    marshmallow
    ##マシュフィン
    #モブ主人公
    minorCharacter

    王子様には彼がいたその笑顔を見た時、運命だと思いました。

    学校のロビーの端っこで、私は手持無沙汰に掲示板やら装飾やらを眺めていました。お友達が教室に忘れ物をしたと言うので、一人で待っていたのです。
    眺めるのにも飽きて足をぶらぶら、何とはなしに靴先を見ていたら、足元にハラリと何かが落ちました。それは近くのテーブルに置かれていたこの学校のパンフレットのようでした。
    学外に配っているこの広告を、そういえばちゃんと見たことがありませんでした。そう思い何気なく中を開いてみると、一番に「彼」が目に飛び込んできたのです。
    彼は大きなまろい瞳にきらきらと光を湛えて、手前に見切れている黒髪の人物に笑いかけていました。黒に金が混じった特徴的な髪が風に靡き、その柔らかくも相手を虜にするような魅力を持つ笑みをさらに色鮮やかに彩っています。散らばるそばかすが幼さを加え、少年と青年の間にいる彼の線の細さを強調しておりました。
    瞬間、耳元でドクンと大きな音がしました。何の音かと思ったら、それは私の心臓の音でした。脈打つ鼓動に合わせて顔の温度が上がっていくのを感じ、それでようやく私は気が付いたのです。
    彼に一目で惹かれてしまったのだと。


    〇 〇 〇


    その人の名はフィン・エイムズと言いました。
    どこかで聞いたことがある名前だと思ったら、私と同じ内部進学生。しかも、あの神覚者レイン様の弟さんだそうです。何回か聞いたことがあるのは当然のことでした。当時の彼は、優秀な兄と違って劣等生だと口さがない人たちに陰口を言われていましたから。
    しかしそんなことは、彼の虜になってしまった私には関係が無いことでした。
    聞けば、かの無邪気な淵源(イノセント・ゼロ)との全面対決の日、世界が絶望に包まれそうになったあの大事件で、彼はお兄様やご友人の方々と前線で戦っていたそうです。あの日、私は恐怖のあまり呼びかけられるまでただ震えることしかできませんでした。私に限らず、多くの人がそうであったと記憶しています。
    そんな中、彼は親友だというマッシュ・バーンデッドくんたちと初めから戦っていた。なんて勇気に溢れた行動なのでしょうか。もし彼がただの劣等生なら、そんなことができるはずがありません。彼は間違いなく選ばれし方なのだと、私は一人酔いしれました。

    さて、私は早速彼と仲良くなるために行動に出ることにしました。まずは授業で近くの席にさりげなく座り、たわいない話をするところから。
    そう思っていた私の前に立ちはだかったのは、外ならぬフィンくんその人でした。
    なんと彼は寮に引きこもり、部屋から出てこなくなっていたのです。私がそれを知った時、すでにあの広告の話が学校中で話題になっていました。
    「なぁ、お前見た? あの写真」
    「なんでもレイン・エイムズがアイツを推薦したって話だぞ。本当かなぁ」
    「でも実際よく撮れてるよね」
    「ね~! 雰囲気良い感じ」
     密やかに交わされるそれらの会話に、私はグツグツと何かが煮えたぎるのを感じました。
     私が先に彼を見つけたのに。恥をかなぐり捨てて、思わずそう叫びそうになります。
     落ち着いて、と自分に言い聞かせ、深呼吸を一つ。私だってあの写真を見るまでは、彼のことをほとんど知らなかったのです。むしろこの状況は、彼がそれほどまでに魅力的だという証だと言えましょう。
     私は生徒たちの間をすり抜けて、寮へと急ぎました。私も彼もアドラ生、なんと運命的なのでしょう。そう胸をときめかせ、寮部屋302号室を目指します。
     するとそこに人影が見えて、私は思わず廊下の曲がり角に隠れました。こっそり顔だけを出し様子を伺うと、彼らはフィンくんのご友人の方々のようでした。
    「フィン、いつまで駄々をこねているつもりだ」
     そうはじめに言葉を発したのは、水色の髪と整った顔立ちが特徴的な二本線の男子でした。確か、名前はランス・クラウンくん。お友達が彼のお顔や成績優秀さに黄色い悲鳴を上げていたので、はっきりと覚えています。
    「フィーンー、いい加減出て来いよ! 今日お前の好きなサラマンダーのから揚げだってよ!」
     次に声を上げたのは、赤毛にヘアバンドを付けた男の子。ドット・バレットくんと言ったでしょうか。荒っぽい口調に反して丁寧にドアをノックしているのが意外でした。
    「なぁ、マッシュ。お前ならフィンのこと担いで来れるだろうが。なんでそうしなかったんだよ」
     話を振られたのは、黒髪の男の子。私はその姿を見て、アッと声が漏れました。あの時世界を救ってみせた、魔法が使えない少年——マッシュ・バーンデッドくんです。
     彼はドットくんに、律儀にこう答えました。
    「強引なことして嫌われたくないし」
     その回答に、マッシュくん以外の二人は呆れた顔をします。
    「今更嫌う要素ねえだろ」
    「無理にでも出席させた方がフィンのためだぞ。お前らは相変わらず成績が悪いんだからな」
     そう返され、マッシュくんはズーンと沈んだ顔をしました。
     このイーストン校は、言わずと知れた名門校です。世界が壊滅しかけたあの日から各地の復興に尽力し、そしていち早く元通りの生活を営めるようにした功績がありました。
     それが意味するのは、私たち生徒はすでに今まで通りの授業に戻っていること。そして、たとえ彼らのような神覚者候補生であっても、容赦なく期末テストや課題が襲い掛かるということです。
    「……フィンくん。一緒に授業出よう。恥ずかしいとか、気にすることないよ」
     マッシュくんは扉に向かってそう声を掛けました。中からもぞもぞと音がして、同時に泣きそうな少年の声が聞こえました。
    「うう……だって、あんなに噂になるなんて……兄さまのバカ……!」
    「噂してえ奴にはさせとけばいいだろ。てゆーかお前、すげー良く言われてるぞ! 主人公のオレを差し置いてな!」
     ドットくんが頭をガリガリ掻きながらそう言うと、扉の向こうの声はますます悲痛なものになりました。
    「それでも嫌だよ! こんなの見世物だよぉ……」
     そう言って泣き声を上げるフィンくんに、私は胸が痛みました。
     こんなに弱っている彼に、見知らぬ私がしてあげられることなんてない。今はせめてそっとしておいてあげよう、そう思って身を翻しかけた私の耳に、とんでもない轟音が響き渡りました。
     ギョッとして振り返った先には、さっきまで固く閉じられていた扉が捻りつぶされた形跡だけが残っておりました。ありえない形に抉れた扉は、無残にも廊下の隅っこにポイと捨てられております。
     なんで?
     私の頭が疑問符で埋め尽くされたのと、ドットくんランスくんが揃ってため息を吐いたのは同時でした。
    「あーあ、またやったよこいつ」
    「マッシュ、あとでちゃんと直しておけよ」
     二人の心底慣れ切った態度に、私の中の疑問は加速していくばかりです。
     と、その間にマッシュくんが部屋へと足を踏み入れていきました。
    「フィンくん」
    「……マッシュくん」
     見るとフィンくんは、ちゃんと制服を着て立っていました。どうやら部屋を出る勇気が無かっただけのようで、彼は赤い目と頬を隠すように俯きました。
    「ごめん、僕……本当に意気地なしで……」
     マッシュくんは一歩、フィンくんに向かって足を踏み出します。
    「フィンくん達のおかげで、僕はここにいられるんだ。だからそんなに自分を過小評価しないでよ」
     そうキッパリ言った彼は、フィンくんの手を取りました。
     え、と思っているうちに、マッシュくんはフィンくんの耳元に顔を寄せます。あまりの出来事に、私にはそれがスローモーションのように見えました。
     近づいた彼の口がゆっくりと動き、私の耳と目はその言葉を敏感に拾い上げます。

    ——でもそういうちゃんと反省できるところ、好きだよ。

    呆けた表情のフィンくんがワンテンポ遅れて顔をボッと赤らめると、マッシュくんはあろうことか彼をそのままヒョイと抱き上げました。
    その姿勢に、固まっていた私は今度こそ悲鳴を上げました。
    お、お姫様抱っこ! 
    「うぇ⁉ ま、マッシュくんおろして! 自分で歩くよ‼」
    「ダメ。また逃げちゃうと良くないから」
     暴れる彼を軽々と抱えて、意気揚々とマッシュくんが出てきます。ポカンとした私たちを置いて、颯爽と廊下を歩いていくところで……私の傍らを通り抜ける時、マッシュくんの小さな声が聞こえました。
    「悪いけどフィンくんは渡さないから、そのつもりで」
     再びビシリと固まった私を少しも気を留めず、今度こそ彼は去っていきました。フィンくんを腕に抱いたまま。
     背後で見ていたらしき二人の声が遠くから聞こえます。
    「……オレは何を見せられたんだ?」
    「あー、ドンマイっていうかなんていうか」
     心底不思議そうな声と、可哀想なものを見たような声。
     それらを聞きながら、私はあの写真を思い出していました。見切れていた黒髪の人物、あの素敵な笑顔を向けられていた相手は——。

    そこまで考えて、私は廊下を一人でふらふらと引き返しました。
    ぽきりと折れた心は、しばらく癒えそうにありませんでした。


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