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    mya_kon

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    何かがあります

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    昨日?一昨日?のもくりで「勇尾はどうなんですか?」と聞かれて「好きですよ?」と答えた結果の何かです。転生記憶あり勇と、記憶なし尾の現パロですね〜

    #勇尾
    Yusaku/Ogata

    運命だなんて 幼い頃、クラスメイトから聞く父親や兄弟の話を羨ましく感じて、何故うちにはいないのか、と母親や祖父母にしつこく聞いていた時期がある。もちろんあまり楽しくなさそうな話も聞いていたが、それを上回る楽しさがあった。単純に未知の存在と触れ合いたいとも思った。
     しかしそれはあくまでも幼い頃の話だ。ある程度大きくなれば、父親や兄弟など煩わしいだけの存在なんだろうと結論づけてそれらを欲しがっていた気持ちをすっかり忘れていた。
     母親も祖父母も立て続けに亡くなってもう何年経っただろうか。最後に墓参りをしたのはいつだろう。これといった趣味もなく、友達付き合いなんてものもない。毎日同じ電車に乗って出勤して、毎日同じ電車に乗って帰宅する。死んでいないから生きているだけだ。
     いつか王子様がお姫様が、なんて思わない。しかしいつか石油王が俺のことを気に入って毎月口座に五〇万円を振り込んでくれたら、とは思う。そう思いながら安酒で喉を潤した。
     適度な酔い具合で足取り軽く帰路に着く。明日は休みだが予定はない。来週も再来週もずっと予定はない。そういえば再来週はクリスマスで、その翌週となれば年末年始になる。何の変わり映えもしない一年が終わって、何も変わらないであろう一年が始まる。それでいい、それがいい。ハプニングもサプライズもいらない。何事もなく日々を過ごし、何事もなく死を迎えたい。
     そう思いながらアパートの階段を上がる。酔っ払いは足が上がらなくて困るな、と一人で笑った。軽くぶつけた脛の痛みも今は笑える。
     階段を登り切ったところで俺は動きを止めた。アパートの部屋は横並びで五室ある。その中の一番奥が俺の部屋だ。
     玄関の前に人がいる。誰かとの約束はないし、突然訪ねてくるような知り合いもいない。宅配を頼んだ記憶ももちろんない。そもそも玄関前に立つ人は宅配業者ではない。
     階段を上がる音が止まったことに反応したであろう人物がこちらを振り返る。
     目が合った。
     その瞬間、俺は踵を返して階段を駆け降りた。何故そうしたのか分からない。しかし本能が叫ぶ。アレに近づいてはいけない、アレから逃げろと。
     だというのにソイツは後ろから俺を追いかけてきた。
     知らない。誰だアイツ。全力で走りながら頭の中で一瞬だけ見えた薄暗い男の顔を思い浮かべる。知らない。だけど関わってはいけない。
    「兄様!」
     背後から刺された。
     あくまでも比喩だ。分かっている。俺はどこも怪我をしていない。しかし確実に刺された。そう感じた。
     刺されてしまえば足が止まる。俺はその場にへたり込んだ。
     追いついた男が優しく俺の肩に手を置いた。反射的に振り解こうとしたが、それができなかったのは男としっかり目が合ったからだ。街灯の明るさの下で見る男の顔に見覚えはなかった。しかし俺はこの顔を知っている。いや知らない。誰だコイツ。知らない。でも知っている。怖い。やめろ、近づくな。この不審者め。顔を覗き込むな。知らない。お前誰だ。知らない知らない知らない。コレと関わってはいけない。俺が間違うことになる。嫌だ、嫌だ。
    「兄様、お会いできて良かった。突然座り込みましたがどこかお怪我でも? よろしければ勇作の手をお取りください」
     俺の考えなんてお構いなしに勇作と名乗った男は立ち上がり、右手を差し伸べる。左手は俺の肩甲骨の間を優しく撫でている。嫌だ嫌だ、吐き気がする。楽しい気持ちが全て飛んだ。酔いなんて残っていない。頭の中はこの男から逃げることしか考えていない。
     だというのに。
     だというのに、だ。俺の体はこの男を求めていた、やっと会えたと泣くのだ。やめろ、知らないヤツだ。頭のおかしいヤツだ。勇作なんて知らない。顔に見覚えもない。知らない知らない。どっかに行け。
    「兄様、大丈夫ですよ。もう何も怖いことはありません。全て勇作にお任せください」
     そう言って穏やかに笑う顔を見て、俺は堪らずにその手を取った。知らないはずなのに何故か知っている手のひらの厚みに、俺は泣きそうになる。名前を呼ぼうとして、喉に何かがつっかえるのを感じた。
     お前は誰なんだ。どうして俺のところに来た。兄様なんて呼んで、兄弟ぶりやがって。
    「ふふ。兄様にお会いしたいと、ずうっと願っていたのです。やっと願いが叶いました。兄様、これからは兄弟仲良く暮らしましょうね」
     家族なのですから、と唇の端を上げた男の顔に背筋が凍った。この手を掴まなければよかった。そう思ったときには遅かった。手遅れだった。勇作に強い力で引き上げられて体を起こされる。背中に添えられた手は腰に降りてきた。
     足に力が入らずよろよろと歩く俺を、まるで子どものように扱う。ああ嫌だ、失敗した。間違えた。こんなはずではなかった。生きる理由なんて必要なかった。生きようなんて思わなかった。なのに、どうして。
    「兄様、勇作はとても嬉しいのですよ」
     太陽のような笑顔を向けるこの男を、懐かしいと思ってしまうのか。
     ずっと探していたと思ってしまうのか。
    「また家族になれるなんて、やはり勇作と兄様は運命なのですね」
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