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    しゃろ

    @syaro_ENTK

    BL二次創作小説だけ。今は宿虎メイン。

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    しゃろ

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    ・怪異宿儺×非術師オカ研虎杖
    ・二人の先輩と一緒にある噂がある廃屋に入った虎杖と、それを招く手

    #宿虎
    sukuita
    #ホラー
    horror

    招く手 #宿虎怪奇譚「本日のー……オカ研研究課題! 謎の声が聞こえると噂の廃屋の調査!」
    「「いえ~!」」
    「よし! さて……いくのよ虎杖!」
    「頑張れ虎杖!」
    「はいはい、結局こうなるんだよなぁ」

     虎杖は自分の後ろに隠れて正面の廃屋を指差す先輩二人に苦笑いを浮かべた。

     虎杖は所属している心霊現象研究会の先輩でもある佐々木、井口と共に今日、活動の一環で街外れにある寂れた廃屋を訪れていた。
     今日は金曜日、時刻は午前2時。草木も眠る丑三つ時。高校生だけで行動していい時間帯でないことは理解していたが、佐々木の「幽霊が出る時間と言えば丑三つ時!」発言により、虎杖達三人は翌日が休みである金曜日のこんな時間にこの廃屋を訪れたのだった。

    「それにしても心霊現象が起きる廃屋って言うより……普通の家じゃねぇ?」

     心霊現象が起きるとの噂を聞いてやって来たが、その家はごく普通の一般的な二階建ての家だった。確かに人は住んでいないが別段人が住まなくなってから何十年も経ったボロ屋ということもなく、壁にツタが生えていたり穴が開いていたりということもなければ屋根に穴が開いている様子もない。
     強いて言うならば住人がいなくなってから手入れをされなくなった庭に乱雑に雑草が生えているだけの、ただの空き家にしか見えなかった。

    「雰囲気はないけど……でも大丈夫! 近所の人に聞き込みしたら噂は本物だったから!」
    「それはそれで先輩らが大丈夫じゃないんじゃ」
    「「頑張れ虎杖」」
    「はいはい」

     オカ研究なんて研究会を設立したにも関わらず怖がりな二人の先輩に背中を押されるまま、虎杖は呻き声が聞こえると噂の廃屋、には見えないただの空き家へと近付いた。

     敷地の出入り口にある柵には錠前も無ければ針金のようなもので出入りを禁じている訳でもなくキィ、と少し錆び付いた音を立てて開いた。本当に怪しい噂がある廃屋なのだろうか。こうして近付いてみても虎杖の目には電気が点いてなくて庭が少し荒れているだけの、普通の一軒家にしか見えなかった。

    「さて、と。……んで、どうやって入ります?」
    「え?」
    「え⁉」

     あっさり玄関ドアの前まで着いてしまったので、発案者である佐々木を振り返って聞くと。佐々木はポカンとした声を出した。その声につられて井口も驚いた声を出す。

    「……えっ、もしかして入り方まで考えてなかったり?」

     虎杖が思い当たったままに聞くと、佐々木は静かに頷いた。確かに『声が聞こえる』という噂の内容からして家の中で体験したという訳でもない。わざわざ家の中に入る必要はないのだから〝どう入るか〟なんて簡単なことがすっかり調査の中から抜けてしまったのだろう。

    「じゃあ外で声が聞こえるまで待って――…えっ」

     それは、何となくだった。何となく好奇心で虎杖は玄関ドアの取っ手に手をかけ、何となく引いただけ。開かない、開くはずがないから。だというのに。

     ――ガチャ、と音を立てて玄関ドアが何の抵抗も無く開いた。

    「開いてる」
    「えぇぇえええ⁉ なんで⁉」
    「え⁉ 実は噂の廃屋と別の家だったとか⁉」

     後ろで何やら慌て出した先輩二人をそのままに、虎杖は玄関ドアを少しだけ開くと中を覗き込んだ。ごく普通の玄関にシューズボックス。玄関を上がって直ぐに階段と一階の奥へと続く廊下がある。暗くてよく見えないが、廊下を進むと直ぐ右手にどこかの部屋の入口らしいドアも見えた。
     見えた範囲でだけだが、何故か家具や壁に飾られた絵などがそのまま残されているせいでどうしても空き家というより他人の家という感じがして。それが何故か虎杖に違和感を抱かせた。

    「……めっちゃ普通の家っぽい」

     虎杖が振り返って家の中を覗いた素直な感想を報告すると、佐々木と井口はお互いの顔を見合わせた。口にこそ出していないがそれぞれの顔にはどうするか、と書かれているのが見えるようだった。

     ――…二人とも入りたくないんだろうなー、怖いの苦手だし。

    「俺見て来ますよ」

     明るく言うと二人が驚いたように虎杖を見た。

    「だ、大丈夫か⁉ 危なくないか⁉」
    「私達も入るって! てか後輩だけ行かせる訳にいかないから!」
    「平気平気。じゃあいってきます」

     虎杖は必死に止めたり一緒に入ろうとする二人をその場に残して一人、再び玄関ドアを開くとその中にするっと入り込んだ。


        ◇


    「やっぱ普通の家だよなぁ――…と」

     玄関に入りとりあえず靴を脱いで上がろうとして、懐中電灯で照らされた廊下に埃が積もって白くなっているのが見えた。少しだけ悩んだ虎杖は靴は脱がず、そのまま廊下に上がった。

    「二階は後だよな、よしっ」

     探索ゲームの感覚になっている虎杖は二階を後回しにし、まずは玄関からも見えた廊下を進んだ直ぐ右手にあるドアのところまで行くとゆっくりとドアノブに手を掛けて、開いた。

     ドアの先はリビングだった。家族全員で観るのだろうテレビは虎杖の家にあるものよりも大きく、それがよく見える位置にL字型のソファーがローテーブルを挟んで置かれている。ソファーとローテーブルの下には埃の積もったラグマットが敷かれたままになっていた。
     人が出入りすることもできそうな程大きな窓ガラスに吊るされた花柄のカーテンは。外から見えないようにか僅かな隙間もなく、几帳面過ぎるほどピッタリと閉じられている。

     リビングの奥にある襖を開けると小さな和室があり、何となく目についた押し入れを開けてみたが中は空だった。和室には別の部屋へ続く襖があったのでそこを開けると、そこはダイニングキッチンになっていた。

    キッチンには何故か食器が並べられたままの食器棚や冷蔵庫が置かれたままになっている。キッチンの奥と横にはそれぞれドアがあり、おそらくは廊下の奥に繋がっているだろう。と思う方のドアの上から下に視線をやった虎杖は大きく目を見開いた。

    「……は?」

     ――手があった。

     爪が黒く、手首の少し上に黒い輪っか上の刺青のような模様が二本ある、男の手。それが開かれたままのキッチンの奥のドアから肘から下だけで室内に入り、虎杖を呼び寄せるように手招きをしていた。

    「人? 誰かいるんすか?」

     虎杖の問いかけには答えず、その手はドアの向こう側へ。すぅ、と消えていった。

    「ちょ、待って!」

     慌てて追いかけたが、ドアを開けても廊下には誰もいなかった。首を傾げて廊下の向かい側にあった二つのドアを開けたが、片方はトイレ。片方は洗面台と何故か置かれたままの洗濯機に風呂場の扉がある無人の脱衣所だった。

    「気のせい、な訳ないし――…あ!」

     脱衣所から出て一度玄関に戻ろうか、と廊下の先に視線をあると。今度は階段に続く壁から先程の手が手招きしていた。

    「居たっ!」

     ダンッ、と虎杖が廊下を蹴ったのと手が壁の向こう側へ引っ込んだのはほぼ同時だった。

     勢いがつき過ぎた身体を止めるために廊下に足をつけて踏ん張るとギュギュゥと靴が音を立てたが、気にせずにそのまま階段を駆け上がった。
     Lの字型の階段を一気に上がった先には一階と同じくいくつかドアが見えたが、奥からパタン、と扉の閉まる音が聞こえたので虎杖は他のドアには目もくれずに音のした方へと走った。

     二階の廊下の角を曲がった突き当りにあるドアを勢いよく開けると、そこはダブルベッドが置かれた寝室だった。虎杖は中に入ってぐるっと中を見渡したが、さっきの手も人影も、何もなかった。

    「……っかしいな。確かに入ったと思っ、うおっ⁉」

     部屋から出ようかと虎杖がドアの方を振り返ると、ドアの横にガムテープで封がされた押し入れがあった。

    「ここに隠れたとか? でもガムテープで止めらないしな」

     独り言を言いながら押し入れに近寄り、何の警戒もなくその取っ手に指を掛けて思いっ切り襖を開いた。

    「……空か。だよなぁ」

     がっくりと肩を落とした虎杖の視界に、指が映った。

     ――…えっ。

     視界の端に、ではない。視界にガッツリ、まるで。そう、まるで後ろに立った誰かが顔を覆おうとしているような。後ろから現れた手はそのまま覆った顔を掴むと、虎杖の身体をとんでもない力で後ろに引き倒した。

    「なッ、――づ⁉」
    「……ケヒッ、」

     床に頭を打ち付けて痛みに転げ回っていると、どこからか誰かの笑い声が聞こえた気がした。だが痛みに悶えながらキョロキョロを見渡した室内にはやはり誰もおらず。

    「……バカにされただけじゃんっ」

     ようやく見知らぬ手の持ち主に見事におちょくられた挙句、頭を打つ羽目に合ったと気が付いた虎杖は無人の部屋で一人叫んだ。


        ◇


     その後、後頭部にタンコブを作って全身埃まみれで家から出て来た虎杖に佐々木と井口は何があったのかと慌てふためいたが、虎杖が頑なに詳細を語らず。ただ。

    「アイツ絶対に許さねぇ……!」

     と主張する虎杖に首を傾げるしかなかった。

     それから学校やオカ研の活動中に突然全力で駆け出してはタンコブを作ったり水浸しで戻ってくる虎杖の姿が見られ、同級生やら先輩やら教師の間で『虎杖が何かに取り憑かれた』と一時期ちょっとした話題になった。
     だが、何故かその行動は授業中以外の時間に限られていたので特に注意をされることはなく、現在も続いている。

     ただ、ある日の授業中に教室のドアをチラチラを見ていた虎杖が授業終了のチャイムと同時に全速力で教室を抜け出し、珍しくどこにも怪我もなく戻ってきた時に訊ねた同級生に。

    「話つけてきた!」

     と満面の笑みで言っていたのと。同じ日に空き教室で虎杖が。

    「なー、追いかけんのはいいんだけどさ。授業中は追いかけられんから休み時間とか放課後だけにしてくんね?」

     と、誰かに話しかけている声を聞いた。という噂が同時に広まったために『虎杖はお化けと仲良くなった』という新しい噂話として広まっている。

     余談だが。いつも全速力で追いかけているので時折凄まじい音を立てている事もあるのだが、その場合は不思議なことに無傷で戻ってくる虎杖に理由を聞くと。

    「あー、これ? なんか治してくれた」

     と、答えたせいで一部に『虎杖は治癒ができるエルフと友達になった』という変質した噂になっている。
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