君は魅力的(モブ視点の蜘蛛ケー)
花屋にとって春は掻き入れ時である。そこかしこで人の出入りが発生するこの時期、別れの場面に欠かせない花束を求めて多くのお客様が店に訪れた。
店頭にはいつ送別会の場に出されても立派に役目を果たせるように、準備万端の花束が並んでいる。けれど手に取るお客様は、来店する方のうち半分くらいである。もう半分の方々は、相手の好きな花を選んで贈りたいからとオーダーメイドを所望されるのだ。用意するのにもちろんそれなりのお時間を頂く。
元々花が好きで仕事場を決めた店員がほとんどだから、忙しいのを苦痛とはまったく思わない。ただ悲しいことに人間の体力は有限である。早朝から仕入れにディスプレイにブーケの制作にと忙しなく立ち働いていた店長は、お客様が途切れたタイミングでとうとう限界が来たらしい。「ごめん、ちょっと休憩してくるわ……」と言うなりふらふらとバックヤードへ引っ込んだ。後には女性が外国語で歌うのほほんとしたBGMとバイトの私が残された。
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