どうしようもなく乱れていて セプティミウス・セウェルスの息子たちときたら、とんでもないものでございます。つまりはユリア・ドムナの息子たちということでもございます。
ルキウス・バッシアヌスの噂を耳にしたことがありましょうか? 彼は人々の間ではカラカラの名で通っております。
プブリウス・セプティミウス・ゲタの振る舞いを目にしたことが? 彼は一番短くゲタと呼ばれております。
彼らは歳を同じくした兄弟として生まれ、まさかあのユリア・ドムナのもとで育まれたとは思われないほど残忍で、愚かで冷酷で、心の底から大事に思うものなどこの世にほとんどないという態度を、ちらとも隠さずに育ちました。
彼らが齢にして十と二十の間に差し掛かった頃のことです。
兄のルキウス・バッシアヌスが級友を陥れた時、弟のゲタは、兄の被害者をさらに罰しました。彼らと違って家の名前で守られてもおらず、財産の鎧で包まれてもいない哀れな人物を、ゲタは取り巻きに命じて引き倒し、二度とその土地では生きていたくなくなるような仕打ちをして、痛めつけました。
ゲタは、兄が罪を犯すのは、罪が兄に近寄るからだと信じているのです。
弟の自分が、兄に最も近い自分が、罪を兄から決別させねばならないと信じているのです。兄に罪を犯させた人間を、兄の世界から追いやらねばならないと信じているのです。
弟のプブリウス・セプティミウス・ゲタが、虚偽の訴えで無辜の子どもたちに罪をなすりつけた時、兄のカラカラは弟に褒美を持たせ、辺り一帯に弟の振る舞いこそ正当だと噂を流し、弟を家屋敷に留め置いて自分の元から片時も離れないようにしました。
カラカラは、弟が策を弄したりして、享楽以外のことに神経を使わなければならないのは不幸だと信じているのです。弟にいかなる労苦でさえ近寄らせてはならず、彼は安楽に自分の膝下にいるのが最も自然だと信じているのです。
彼らは平然と人を欺き、罪を着せ、暴力と富と父母の名声による盾の後ろでひそひそと笑っています。カラカラとゲタの兄弟が生きている限り、この辺りに気の休まる時間が真の意味で取り戻されることはきっとないと思われていました。
彼らが齢にして二十と三十の間に差し掛かった頃、セプティミウス・セウェルスはすでに世になく、ユリア・ドムナは彼らに手を焼いていました。やっとのことで学校を卒業させた息子二人が、時に激しく反目し、争い合うようになったからでございます。
かのセウェルスの家屋敷からは絶えず金切り声が、叫び声が、怒鳴り声が、哄笑が聞こえてきました。ものが倒れ、窓が破れ、水が溢れて火が燃える有様でした。
事情なぞ聞かずとも、それがあの兄弟が起こした騒ぎだとみんな理解しておりました。
彼らの諍いは幼少の頃からの彼らの愛憎半ばした執着と反発の発露と見るのが正しいように思われましたが、さて、ユリア・ドムナの目にはどう映っていたものでしょうか。
いずれにせよ、ユリア・ドムナが彼らをありふれた兄弟のように手と手を取り合う仲にしようと、果てなく努力していたことは確かでございます。
ある冬の日だったのです。川縁にカラカラとゲタの兄弟の姿があったのです。彼らは手を握り合って枯れ草の残る斜面を歩いていました。ゲタがわずかに前に出て先導し、カラカラはその半歩後ろをついて歩いていました。
その背中には、一昔前の、この世に兄弟二人きりしか生きていないと思い込んだような閉塞の空気もなければ、ここ最近の、強い敵意と猜疑と未練の折り重なった淀のような気配もありませんでした。
まるで、幼い兄弟が初めて大人の庇護抜きに街を歩き始めたような、すっかり無垢な佇まいがそこにはありました。とはいえ、二人ともとうに大人でしたから、伸び切った枯れ草の隙間から突き出るようにしてその姿ははっきり見えるほどでした。彼らに揃いの橙の髪が、寒空の灰色の風景の中で、ポツリと鮮やかでございました。
彼らはやがて、腰の折れたイチジクの木の根本へ腰を下ろしました。
このイチジクの木というのは、昔は人の家の庭を飾っていたのが、ある年の暴風雨と水害で庭が崩れた拍子に川縁まで根ごと滑ってきて、この場所に植わり直してしまったといういわくのある木でございました。
まずゲタが腰を下ろし、その膝にカラカラが座りました。
彼らは同じ年に同じ母から生まれた兄弟でしたが、兄カラカラよりも弟ゲタのほうが体のつくりが立派だったのです。
ゲタは兄を横座りに己の膝にのせたまま、カラカラに何か話をしていました。するとカラカラもゲタに、何かを語って聞かせました。
二人は相手の話を聞く時には川面を見て、自分が話す時には相手の顔を眺め、顔と顔は近づき、頬と頬は触れ合うかと思われるほどでした。
川面が冬の太陽光を反射したものが、彼らの顔と顔の近づいた、わずかな隙間からするすると漏れ出て輝きました。
よほど親密な様子でございましたから、これはユリア・ドムナの苦労も報われたかと、目撃者一堂も夢想したほどでございます。
しかし夢は夢でございました。
彼らは程なくして、顔を掴み合い胸ぐらを掴み合い、金切り声を上げて争い始めました。
カラカラはゲタの膝の上から立ち上がると、何事かを叫んで走り出し、川面へと降っていきました。ゲタはそれを追い、とうとう二人とも冬の川に踏み入りました。
そうしてセウェルスの兄弟たちは水飛沫を上げて組み合い、蹴り付け、殴りつけ、罵り合うのでした。
嘘つき! 嘘つき! 嘘つき!
簒奪者め! 簒奪者め! 簒奪者め!
恥知らず! 凡愚! 堕落者!
私のもう半分のくせに!
ゲタの手がカラカラの首元を捉えました。カラカラは引き倒されて川底に沈みます。波が立ち、泡が浮かび、川の流れは銀に光ります。
遠くから緊急車両のサイレンが響いてございました。
すると乱れた川のおもてから白い手がぬっと出て、今度はゲタが川底に誘われて倒れました。
二人は浮きつ沈みつして、底の浅い川の中で絡み合い、もつれ合っておりました。
ああ、兄上! 兄上! 兄上!
ああ、ゲタ! ゲタ! 私の……!
ひとしきり川に戯れ、引っ掻き、噛みつき、罵声を浴びせ、名前を叫び合い、疲れ果て、最後には頬に口づけして、セウェルスの悪兄弟たちはやっと岸へ戻り、濡れそぼった体を抱えあって斜面を上がってきました。
そこには、騒ぎを聞きつけたユリア・ドムナの遣わした黒い車が口をあけて待っておりました。
二人は水で仕立てた人形のように全身たっぷり濡れたまま車へ乗り込み、姿が見えなくなりました。
この時に弟ゲタが、兄カラカラの身の具合を案じるようなことを言ったと、あとになって皆に申す者もありました。
ともかく、セプティミウス・セウェルスの息子たちというのは、一事が万事このような具合で、真実、とんでもない振る舞いばかりなのでございます。
どうしようもなく乱れていて、恐ろしく、危険なのです。それは周囲の我々にとってもそうなのです。そして彼ら双方にとってもそうなのです。