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    青井トマト

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    らくがき短文かべうち用の畑
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    青井トマト

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    ルカ誕生日のルカバン。
    イルカのオブジェを貰う話(イルカショーときめき会話バレあり)

    ##バンビ受け

    大きなイルカ 彼女の声で伝えられる「お誕生日おめでとう」には、いつもより湧き上がる悲しさを拭う力がある。毎年プレゼントとともに祝ってもらっていると、確かにそう感じるようになってきていた。
     今年も包みを開けてみると、出てきたのはかわいらしいイルカのオブジェ。デートのときイルカショーへ行った思い出が、喜びと一緒に湧き上がる。
    「やった、みんなに自慢してこよ!」
    「あっ、ちょっと待って琉夏くん!」
     ぴょいと駆け出そうとしたところを呼び止められて振り向くと、プレゼントの贈り主は、なんだか神妙な表情をして立っていた。こんなときにそんな顔する理由、なんかあったっけ。
    「前にイルカショー見たとき、クジラの話、したよね?」
    「……あぁ……したね」
     そういえば、そんな話をした。イルカの中に混じっていたクジラへ変に感情移入してしまって、妙なことを言った気がする。変な空気になったから忘れるようにしたけれど、少しずれた一頭の動きが思い起こされる。
    「……あのね! クジラとイルカって、大きさしか違わないんだって!」
     彼女は少しだけ言い淀んだあと、勢いをつけて言い放ってきた。大きな声での生物知識が屋上にいた生徒たちの注目を一瞬だけ集めるけれど、アイツの真剣な顔を見てか、誰も見続けてくる人はいなかった。
    「琉夏くんは、確かにちょっと、他の人とは違ってるなって思うこともあるの。良い意味のことも、悪い意味のこともあるけど。
     でもね、本当にちょっとだよ。そのちょっとの差が、琉夏くんにとっては大きいって感じてるのかもしれないし、わたしがこんなこと言っても、意味はないのかもしれないけど……琉夏くんは、わたしとか琥一くんとか、他のみんなと同じ、普通の高校生だと思う!
     だからその、ちょっと大きくてクジラっぽいのかもしれないけど、自分もイルカなんだって思ってほしくて、それにしたの」
     ゆっくりと言い聞かせるように、言葉を選びながらまっすぐ語られる。言い切ったあとの表情は、なんだか泣いてしまいそうな顔をしていた。同情や憐れみのような気持ちが全くないとは思えないけれど、それよりも、アイツ自身が俺になっているような、感情移入を強く感じた。
     自分は普通じゃない、という俺の中の意識は、こんな一言で片付けられるくらい軽くはない。それは向こうもわかってるんだと思う。それでも、誰も言ってこなかったその言葉を、彼女は俺に伝えてくれた。
    「『さくら〝いるか〟』、だもんな」
     まだ少し気恥ずかしくて、へらっと笑いながら言うと、アイツも少しだけ笑った。俺にとっては特別だけど、世界にとっては特別ではない〝普通の女の子〟の彼女は、俺のことを普通だと言う。彼女がそう言うなら、そうなのかもしれない、と少しだけでも思い始められるような気がした。
    「……ありがとう」
     俺の感謝に、いつもならキョトンとして、『何か変なこと言ったかな』と言いたそうな顔をされるけれど、今回は「うん!」といっぱいの笑顔が返ってきた。安心して、本当に嬉しそうな満面の笑み。
     あぁ、俺はやっぱり、この子が好きだな。すべての思い出を自分だけのものにしたくて、手にしたイルカのオブジェは、誰にも自慢しないことにした。
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