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    oritkrv0120

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    oritkrv0120

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    【完結してません】
    ※半稀の世界線です
    ※創作モブ出ます
    モブから見た稀の話の途中まで
    創作モブ視点で話が進む話発掘したので供養〜

    完結させられるかはわからない……
    続いた場合今後の展開によっては年齢指定入れるかも

    或るモブの独白他人と視線を合わせるのが苦手だった。
    卑屈で自意識過剰、根拠の無い自信ばかりが肥大化した肥えた身体付きに低い身長。いつもきょどきょどと落ち着かず、狼狽えてばかりいる。みっともない自分の姿を、誰かの視界が捉えているのだと認識することが怖かった。
    だからいつも背を丸めて、俯いて歩いた。
    大嫌いだった。自分も、そんな自分を取り巻く環境も。

    オレの両親は飛び抜けて裕福ではないけれど、急速に普及が進んでいたとはいえ高価だったパソコンを、子どものおもちゃにぽんと買ってくれるような人たちだった。子どもにはなるべく多くのことをしてやろう。今思えばそんな考えだったのかもしれない。数年自室に引きこもり、外の世界に恐怖しかしない、入ったばかりの中学には一度も行けていない、そんな自分にとって、その機械の箱から無限に広がるような世界は、唯一の外界との繋がりで、救いだったように思う。
    オレは毎日インターネットの海に飛び込んだ。その中では本当に沢山の喜びや悲しみが眠っていて、パソコンの前に座っている時だけは、オレが抱えている悩みなんてちっぽけで、こんな自分でもやろうと思えば何だって出来る。そんな全能感に浸る事が出来たのだ。
    半径数メートルの世界の中で、オレはただ一人の王様だった。

    その人を知ったのは、数ある掲示板の中。
    家が新宿に近かったこともあり、その付近に出没している、最早時代遅れとも言える特攻服を着た男たちの噂話は、当時オレの一番の関心の的だった。世の中がてんで読めていなくて、古臭くて、暴力が全てだと信じている。極め付きに頭が悪く、下劣で、オレは心底彼らを馬鹿にしていた。
    なのに気がつくと彼らの話題を追いかけているのだ。
    毎日毎日、飽きることなく。
    オレは彼らなんて心から馬鹿にしていたけれど、時代錯誤な装いで、誰にも縋らず、寄る辺なくとも己の拳だけで全てを切り開こうとするその有り様は、本当に悔しいことに、紛れもなく、オレにとってのヒーローそのものだった。
    当時のオレの一番のお気に入りは、新宿「愛美愛主」。それなりに歴史あるチームで、いつもそれなりに噂が飛び交っていた。そこに最近一人、とんでもなく賢い男が入ったのだという。しかもオレと同じ中学一年生のガキだというではないか。オレと同い年。一体どんな奴なんだ?
    強いのか?名前は?身長は?学校は?住所は?
    調べた。必死になって情報の海を泳ぎ、探りまくった。
    幸いなことにオレには人と違ってたっぷりと時間がある。そのほとんどを費やして、そのいるかいないかも分からない男について調べ続けた。昼も夜も朝もずっとずっと。にも関わらず、その男の情報は本当に全く入って来なかった。有名なチームの話には皆おしゃべりだ。愛美愛主程のチームとなれば、誰かしらが毎日話題にあげている。新参のメンバーすら、ちらほらと話題に登る。なのにその男についてだけ、この書き込みの無さ。
    もしやと思い最初にその男を知ったログを遡ってみれば、既にスレ毎削除されていた。
    オレの画像欄に保存してあるログのスクリーンショットだけが、オレが自由に見ることの出来る、確かにその書き込みが行われていたことの唯一の証拠だった。
    何故こんなことが?デマだから消されてしまった?否、デマなら尚更、わざわざスレッドごと消す必要なんてない。ネット上の話題なんて半分以上デマみたいなものなのだから。
    『いる』のだ。
    多分間違いない。
    新たに愛美愛主に加入した男は、インターネット上から自分の痕跡をあえて削除している。
    情報の価値と意味を知る人間が、不良界に現れた。

    オレの背筋にぞくりとしたものが走った。
    それは、根拠なんて無い無茶苦茶な期待。

    オレは情報収集が得意だ。
    不良界隈のことなら、そこらにいる実際の不良たちより余程詳しく知っている自信がある。
    オレと同い年の男…。情報の価値を正しく知っている男。
    そうだよ、オレならきっと彼の力になれる。
    こいつなら、この男ならオレを必要としてくれるんじゃないか?

    そこからは、もう執念めいていた。
    見た事も無い、名前も知らない、そんな男に近づきたくて近づきたくて、溺れるように情報の海を渡り、しかしそれにもすぐ不足を感じ、オレは何と数年ぶりに、外の世界に足を踏み出した。
    よれよれのスウェットと伸ばしっぱなしの脂ぎったぼさぼさ頭。身なりに全く気を使わない有様は、醜悪の一言。しかし当時のオレにはそんなこと、頭の片隅にも無かった。
    ただ真っ直ぐにある場所に向かった。
    大久保バッティングセンター。
    今日、そこで愛美愛主の大掛かりな集会が行われる。
    あの男が新人の下っ端であったとしても、そこにいる可能性は極めて高かった。
    会いたい。見てみたい。名前が知りたい。
    そして、オレに気づいて欲しい。
    オレの中にはその一心しか無かった。

    訪れた大久保バッティングセンター。
    しかしそこに足を踏み入れる直前で、オレは足を止めた。
    見てしまったのだ。
    足元に散らばる煙草の吸殻と割れた窓ガラス。
    ネオンに照らされ、きらきら光るそれに写った、醜悪な自分の姿を。
    吐きそうだった。
    猛烈な羞恥に襲われた。
    嫌だ。嫌だ。こんな、何故オレはこんな格好でこんな所に。ここには、もしかしたらあの男がいるかもしれないのに。
    みっともなくて、恥ずかしくて、オレはそこに蹲り、1歩も動けなくなってしまった。
    身体を丸め、必死にはあはあ気持ち悪い呼吸をし、吐き気を堪え、過呼吸を起こしかけていた。そんなオレに、背後から声をかけた奴がいた。

    「おい!そこで何してる!?」
    「……ひっ」

    心臓が飛び出る程驚いた。
    弾かれるように振り向き、何とか視線を向けると、そこに居たのはいかつい特攻服に身を包んだ、坊主頭の男。

    「……っ!ひっ、ひっ、ちがっ、オレ、お、ちがっ」

    オレは首がもげるほど横に振りたくる。何か言わなくてはと焦るのに、口から漏れるのはみっともない言葉にすらならない吃音で、その羞恥にオレはますますパニックになった。

    「……お前、体調でも悪いのか?」
    「……ひっ、いや、あ、ちが、あ、だ、いじょ、」

    蹲って呼吸さえままならないオレの異常な有様に気づいたのか、男は僅かに態度を和らげ、怪訝そうに訪ねてくる。

    「落ち着いて深呼吸しろ。息吸えるか?」
    「ひっ、ひ、ひ、あ……、」
    「慌てなくていい。ゆっくりな」

    坊主の男はそう言いながらオレの側で膝を折り、オレを安心させようとするかのように、ぽんぽんと軽く肩を叩く。
    その見た目にそぐわぬ柔らかな態度に驚いて、思わず目を見開いてまじまじと見つめてしまった。

    「おい!濱田」


    まだ完全に声変わりが終わっていない、ひび割れた硝子のような、少し神経質な少年の声が聞こえた。

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