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    モブ視点けあきの波に乗り切れなかった何か。
    ※モブ(まりちゃの友だち)視点
    ※けあき未満というかこれからけあきになるところ

    ##K暁

    私が伊月暁人さんのことを知ったのは小学校の入学式の時。入場する時に手を繋いでくれた六年生が彼だった。
    後から同じクラスで前の席の麻里ちゃんのお兄ちゃんだと知って、兄妹で手を繋げたら良かったのにねと言ったら出席番号順だから仕方がないし、いつも手を繋いでくれるからいいよと麻里ちゃんは笑って言ってくれた。それから麻里ちゃんと友だちになった。麻里ちゃんは明るくて優しくてしっかりものでとってもいい子だった。通学路が違うから登下校で会うことはないけれど六年生は給食の時間とか手伝いにきてくれたし、総合の時間に遊んでくれたりして、一人っ子の私はすっかり暁人君が好きになった。麻里ちゃんは家ではいばってるとか宿題忘れてお母さんに叱られてるとか言ってたけど、他の六年生でもっと乱暴だったり相手してくれない子もいたから、転んだら足を洗って保健室に連れていってくれたり、食器のカゴを高く持ってくれたり、鬼ごっこの時に手加減してくれたりする暁人君は特別に思えた。
    麻里ちゃんの家に遊びに行っても暁人君は六年生同士で外に遊びに行ってたりして会えないことが多かったけど、会うと名前を呼んでこんにちはって言ってくれて、それだけで一日ハッピーだった。
    でも一年はあっという間で、私は六年生を送る会でも卒業式でも号泣した。本当のお兄ちゃんになって欲しいとお願いしたけどごめんねって困った顔で言われて先生にもお母さんにも無理だよって言われて諦めるしかなかった。
    それからも麻里ちゃんとはいいお友だちで、遊びに行くとたまに中学生になった暁人君に会えて、制服が大人に見えてよりかっこよかった。
    麻里ちゃんのお父さんとお母さんが立て続けに亡くなったと聞いたのは中学生になってからだった。落ち込む麻里ちゃんを励まそうと誕生日パーティーとかみんなでできることをした。暁人君には会えなかったけど心配で、思いきってバレンタインチョコを一緒に食べてと渡したりした。ホワイトデーのクッキー缶は今も大事にとってある。
    それから私と麻里ちゃんは違う高校に行ったので会う回数も減ってしまったし家に遊びに行く事もなくなった。でもスマホでやりとりはしていた。麻里ちゃんは暁人さんの愚痴を時々言っていて、私はそれとなくお兄さんにも事情があるのかも、なんて擁護してた。
    麻里ちゃんの家が火事になったと別の友だち伝てで聞いてすごくビックリした。私が遊びに行った家ではもうないけど、とにかく不審火で全焼して……麻里ちゃんは意識不明の重体だって。
    神様はなんて残酷なんだろう。麻里ちゃんも暁人さんもお父さんお母さんも悪いことしてないのに。中学生の時に心ない人が麻里ちゃんの家は呪われてる、なんて陰口を言っていたけど呪われる理由なんてないはずだった。
    お見舞いに行った時に久しぶりに暁人さんに会った。大学生になって成人した暁人さんはすっかり大人になっていて、でも当たり前だけどひどく疲れた様子だった。
    麻里ちゃんの大好きなお菓子を持っていった私にありがとうと微笑んでくれて、喜んだ自分を恥じた。
    「あの、麻里ちゃんは絶対良くなります!私、神様にお祈りします!だから、暁人さんも無理しないでください……!」
    「うん……ありがとう」
    それから、それからとても不思議なことが起きた。私は霊感とかないし、幽霊とか特別信じてなかった。でもあの夜、たまたま渋谷にいた私は不思議な霧に包まれて、私は多分幽霊になった。幽霊になってもふわふわ浮いているだけで呪うとかそんな力もなく、意識もぼんやりしていてこれって死んだのかな、直前まで何をしていたか思い出せない、これからどうしようとぼんやり困っていた。それからどれくらい時間が経ったのかわからないけど、ずっと夜で、でも人が来る音がすると思ったらなんと暁人さんだった。
    暁人さんは幽霊になってなくて、でも黒い霧を右側にまとっていて、その黒い霧はぼんやりとだけど知らないおじさんの形をしていた。
    暁人さん、と呼んでみたけど声が出なかった。でも暁人さんは大丈夫、と頷いて人の形をした紙を出した。それに吸い込まれるようにして私の意識は途切れた。
    目が覚めたら朝になっていて、自分のベッドにいた。昨日の夜のことはお父さんもお母さんも知らなかったしニュースにもなっていなかった。友だちに昨日の夜どうしてた?って聞いてみてもそれぞれ普通の答えが返ってきて、知ってるのは私だけだとわかった。って言っても幽霊になってぼんやりしてただけで、何が起こったかなんてわからないんだけど。覚えていることと言えば暁人さんと黒いおじさんだ。そうだ、麻里ちゃんのことだって心配だ。私は前回と違うお菓子を買ってお見舞いに行った。
    「麻里ちゃん……!?」
    意識不明の重体だった麻里ちゃんが普通に起きて看護師さんと話をしていた。私の名前を呼んで、頭には包帯を巻いたままだったけれど笑顔を見せてくれた。
    「奇跡的だって、朝から色々検査してて、ちょうど休憩になったところ」
    「お兄さんは?」
    「もちろん朝イチに連絡がいって来たけど、今は何かバタバタしてるみたい」
    「そっか」
    火事の直前までお兄さんの文句を言っていたのに麻里ちゃんはスッキリした明るさがあった。
    「お兄さんと何かあったの?」
    「うん、まあ色々……ごめんね愚痴っちゃって」
    「ううん、いいよ。私に気を許してくれてるってことでしょ」
    麻里ちゃんが誰にでも言う子じゃないってわかってる。高校で仲のいい友だちができただろう、私もそうだ、でもお兄さんのことをよく知っているのは付き合いの長い私だった。だから私に甘えてくれた。そりゃあ毎日だったらやめてって返してただろうけどね。
    「麻里ちゃんにまた会えて嬉しい」
    「私も」
    長居すると良くないので私はまた来るねと次の約束をして病院を出た。少なくとも夏休みは入院で潰れてしまうって嘆いていた。病院を出ると目の前にガソリンスタンドがあって、その裏にお地蔵さんがある。前に来た時に気づいてお祈りしていた。だから今日はお礼をしようと思って、そうしたら暁人さんがいてビックリした。
    どうしてここに、と尋ねるとお礼参りにと返ってきて更に驚いた。
    「私もです。あの、麻里ちゃんを、助けてほしいって」
    「そう……ありがとう」
    暁人さんも前と感じが変わっていた。もちろん小学校の頃と違うのは当たり前だけど、カッコいい大人の男の人なんだけど、でもあの頃に戻ったようだった。少なくともあの黒い服じゃなかった。
    どうしよう、あの時のことを聞いてもいいのかな。
    「おい、まだか」
    後ろから低い声がして飛び上がった。多分ぎゃ、とか悲鳴が出たと思う。
    「KK、驚かせるなよ」
    「悪い、オマエしかいないと思ってた」
    反射的に振り返ると黒い服を着たおじさんが立っていた。知らないおじさんだけど知ってる。暁人さんにまとわりついていた黒い霧のおじさんだ。あの時の暁人さんと同じ服を着ている。
    「し、知り合い……ですか?」
    少し下がって暁人さんに尋ねると肯定しつつちょっとねと苦笑した。
    「怪しいおじさんっぽいけど悪い人じゃないから大丈夫」
    「ヒデエ言い草だな、おい」
    おじさんはさすがに女子高生に近づくつもりはないらしく細い道の端を通って暁人さんの近くに行くとまた私を見た。
    「麻里の友だちか?」
    「よくわかったね」
    心から感心してる様子の暁人さんにおじさんは元刑事を舐めるなと鼻で笑った。刑事さん、元。確かに怖そうな人だけど悪い人ではなさそうだ。少し安心すると暁人さんも微笑んだ。やっぱり雰囲気が変わった、いい方にだと思う。それから多分、このおじさんが関係しているんだと思う。
    私は霊感はないし、幽霊も特別信じてないし、運命なんて夢見る子どもでもない。
    「私は麻里に会えたので帰ります」
    「うん、良かったらまた麻里と仲良くしてやって」
    もちろんですと返事をして、おじさんに一応お辞儀をして、お地蔵さんにも手を合わせてその場を去った。きちんとしたお礼はまた今度来た時にしよう。今は暁人さんとあのおじさんと一緒にいるのが嫌だった。
    きっと私の初恋は終わったんだ。
    妙な確信を抱きながら大きな通りに戻るといつも通りの渋谷がそこにはあった。
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