ストレスで胸痛おこすワースちゃん休暇で実家に呼ばれ、いつもの如く父親の叱責を浴びていた時のことである。
「お前は本当に価値のない人間だな」
「っ、…申し訳ありません」
急に胸のあたりが痛み息が詰まった。
ああ、まただ。
いつからだったかはもう覚えていないが、親からの叱責や蔑んだ視線に晒されたとき、ワースの体はきまって心臓のあたりが痛むようになっていた。
以前、こっそり病院に行き医師に言われたのが『心因性胸痛』。要するに、ストレスによる胸痛や不整脈である。そりゃこんな環境に居りゃあなと一人納得できるようになったのは、あのアドラの1年と闘ってからだった。
「もういい、部屋へ戻れ」
「_はい」
散々文句を言って満足したのか、父はこちらに背を向けワースに言った。
ワースは静かに自室へと戻り扉を閉めると、近くの壁にもたれた。
「っは、ぁ、」
刺すような痛みにズルズルと座り込み背を丸める。
親の前でこんな姿を見せられるはずがない。絶対に心配なぞしてくれないうえに、追い討ちの言葉まで飛んできそうだとも思う。自室で蹲るのは、胸痛が起こるようになる前から、いつもひとりで耐えていたワースの癖であった。
「ぅ、っハハ、痛ぇ」
目をつむると、生理的な涙が零れ落ちる。
ぐっと心臓の上を手で押さえ、震える息を吐いたときである。
「ワース?」
突然聞こえた兄の声にビシリと揺れた。
神覚者であるオーターは、多忙で実家に帰ってくることなどほとんどない。おそらく会ったとしても、優秀な兄は劣等生である自分に見向きもしないだろう。今回の休暇も、会うことはないとたかを括っていたらこれである。せめてタイミングを考えろ。
というかノックしてくれ。
「、兄さ、なんで」
「これはどういうことだ」
「あ、」
久々に兄の声を聞いて驚いていたワースは、この状態の自身を見られたことに気づくのが一歩遅れた。
「な、なんでもねぇよ」
いつの間にか痛みはおさまり、ワースは冷たい視線から逃れるように顔を背ける。
「言わないと今すぐお前を抱えて病院に連れて行くが」
「っ」
「…」
「…」
「…」
「……病院には、もう行った」
だんまり対決、勝者オーター。ワースに勝ち目などなかった。
ワースはぽつりぽつりと己の状態について話した。オーターは黙って聞いていた。
こんなに兄と一緒にいたのは久しぶりだなんて思っていると、オーターはゆっくり息を吐いた。呆れられただろうか、僅かに身をかたくする。
「理由はわかった、ワース」
「は、い」
「今度から長期休暇は私のところに来なさい」
「え」
「あの人(父)には私から話しておく」
「はぁ」
「質問は?」
「…なんで、そこまでしてくれんの?」
急な展開に困惑したままワースが問うと、オーターは首を傾げ眼鏡に触れた。
「その方が都合が良い」
「?何が」
「いつでもお前と会える」
「は?」
この後めちゃくちゃオタワスになる。