ガウェインとラグネル(男)(拝啓、父さん、母さん、妹よ。息子は、兄ちゃんは、絶対絶命の大ピンチです!!)
冷や汗をダラダラ流しながら男は、ライオネルは内心でそんなことを叫んだ。叫んだ前の父も母も妹も焼却されたと思ったら今度は漂白されていないというのに。
とにかくそんな風にパニックになっている彼は元カルデア所属機械エンジニア(本来カルデアの規模の組織ならソフト、ハード、運用、維持と別れているべきだが、その関係のスタッフがほぼ全滅したため丸っとまとめて"機械"エンジニアと認識されていた)、そしてカルデア襲撃を生き残り現ノウム・カルデアシステム業務補佐(主にネモ・エンジンの手伝い)をしている、今となっては貴重な"汎人類史の人間"だった。
とはいえ人類最後のマスター・藤丸立夏と違ってマスター適正がない彼は、業務が昼夜逆転になりがちなこともあって一時百騎を越えたサーヴァント達とはほとんど接触を持たなかった。
そんな彼が、今、このノウム・カルデアの彼の自室のベッドの上で。
"円卓の騎士ガウェイン卿"に押し倒されていた。
「ええ、ええ。悲しいですが認めましょう。私は貴方がいうところの"世の中の男の八割はクソ"の中でも最悪な部類の男でしょうとも。ですが、逆に考えればこれ以上のクソにはなりえないともいえる。であれば、何を躊躇うことがあるというのか」
太陽の騎士と名高い騎士が、ガウェインが麗しい顔でそんな問題発言を連ねながら、ベッドに押し倒したライオネルの惰性で伸ばしていた髪を掬ってあろうことか口付けた。
そんな光景をベッドに倒され直視するはめになったライオネルはあまりのことにひょっ…!とわけのわからぬ呼吸のような悲鳴のような声を上げることしか出来なかった。
(わぁ、きらっきらな美形の太陽の騎士様(ついでに王族)がクソとかいうの解釈違いだぁ…いやそも野郎を押し倒して髪にキスとかないわぁ…巨乳年下美少女好きだろ、こっちはよぉぉく知ってんだよ。
じゃなくて。
どうしてこうなった!!!!!!)
なにがどうしてこうなったのか?
それを説明するためには、人理修復前後のライオネルの前後の行動から話さなければならない。
ライオネルは、そこそこ代を重ねた魔術師の家柄に生まれながらも、根元への到達を半ば諦め世俗の科学社会とうまく折り合いをつけた両親に恵まれたため子供の頃から何不自由なく理不尽なこともなく育ち、幸いにも妹が魔術師として才能豊かだったためそちらに跡継ぎを任せて悠々自適に興味があったエンジニア職(専門はハード、特にサーバー)を得て、結果マリスビリー元所長に出自と腕を買われてカルデアにスカウトされてやってきた。
多少魔術界隈では変わった経歴だが、特別というわけでもない。ライオネル自身の魔術適正は中の下で、人理修復中もシバやコフィンをはじめそれこそ命綱である電力供給源の発電機などなど物理面の維持運用に従事し…メンテナンスの関係から昼夜逆転での仕事が多かった。
つまりなにがいいたいかというと、ぶっちゃけ最終的に百人を越えた英霊達とはほとんど関わらず人理修復が終わった、カルデアでも珍しい人員だった。
例外は諸々を統括していたダ・ヴィンチちゃんくらいだ。
ライオネル
「いいかい、マシュ。人理が修復された今、カルデアは孤立した存在ではなくなり、外部から人の訪問が多くなる。だから、よーく覚えてほしい」
「は、はい」
「世の中の八割の男はクソ。いいね?」
「は…えぇ?」
「うんうん、わかるよ。君はこのカルデア生まれのカルデア育ち。見たことがある男はカルデア職員or英霊だからね。カルデア職員は前マリスビリー所長の選抜か国連の推薦だから世の中でもかなりの上澄みの一部だし、英霊は世界史の上澄みオブ上澄みだ。疑問に思うのはしかたない。だからこそ覚えておいてほしい!!世の中の男の八割はクソ!!!!」
おいおい、あれどうした?と
「特に!!特に!!王族とか騎士とかそういう属性の男はまじで地雷案件だから!!耳障りが良すぎる属性の上だいたい金持ちだし外面いいしついでに顔もいいからコロッと騙されがちだけども!!」
「え、あ、その、えぇ…?」
「くっ、純粋な少女の疑問の視線が眩しいぜ…!」
「逸話や伝説一つとってもろくなことがない!!トリスタン卿なんて見てごらん、トリスタンとイゾルデの物語は確かに文学の傑作だけど、主題っていうかトリスタン卿がやってるのは浮気と不義理!!!俺は心の底からマルク王と白い手のイゾルデ姫に同情するね!!!」
うっわ、凄いところに飛び火した、
私は悲しい…
「勿論、世の中には良い男もいる。世界的に有名な某イギリス俳優は俺も尊敬してる。でも、俺の体感ではそういう男はせいぜい二割ってところだ。」
「だからこそ、君は藤丸君の手を離してはいけない!彼は間違いなく良い男二割に入る、いや、その中でもトップクラスに良い男だ!!しっっっかりと手を握っているんだよ!!!」
「えっ、」
ぽぽぽ、とマシュの顔が赤くなる。
((あ、そういう結論にもっていきたかったのか。ならよかった))
その場にいた大半がそう判断し、ほっと胸を撫で下ろしたのはいうまでもない。
突然何を言い出すのかとびっくりしたじゃん、と数人が呟くなか、ライオネルの藤丸推しプレゼンが繰り広げられるのを、大半が微笑ましく見守っていた。
だからこそ、気づくものはいなかった。私は悲しい、とある意味自業自得で飛び火されたトリスタンがぽろんぽろんと弦を爪弾く隣で、なぜだか顔を両手で覆って凄まじく落ち込むガウェインがいたことを。
「」