お父さんって呼びたい話「お父さん、って呼んでもいいですか?」
恥ずかしそうに紡がれた言葉に、パティとカルネはむさくるしい顔を見合わせた。
東の海にその名を知らぬ者のない海上レストラン、『バラティエ』。そのオーナー室では、ちょうどワインの仕入れにまつわる大口の契約が行われていた。
契約の相手は、近年世界の食料市場に進出している貿易会社『シャーロット兄弟商会』。その代表としてバラティエにあらわれたのは、二十歳になるかならないかという女性だった。
当初、船から降り立った彼女――シャーロット・プリンの姿に、バラティエのコックたちは鼻白んだ。こちらが片田舎のレストランだからといって、こんな小娘を名代に寄越すとは。舐めている。コックたちがそう感じたのは、なにも彼らが狭量だからではない。そもそも、バラティエは客以外の女性が出入りすることが少ないのだ。オーナーの主義は広く知れわたっていて、少し気の利いた取引先なら使いの者も男と決めている。もちろん、オーナーは出入りの業者の性別など気にも留めておらず、完全なる余計なお世話なのだが。
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