「結婚を許してくれ、とは言わねえ。お前が許そうが許さなかろうが俺とコイツの未来は俺とコイツが決めるもんだから」
淡々と、それこそ表情すら変えないでヒーローは言う
黒いスーツを着て、背筋を伸ばして、視線一つすらそらさないで、そうして彼が言うのをエンデヴァーはただただ固まったままの顔で聞いていた
「だけど、だから、てめえの前でのこれは決意表明だ」
幸せになって見せるからそこで見とけ、とショートは訥々と言い
幸せににしてみせます、とデクは笑った
数秒かもしれない
数分かもしれない
完全な静寂に、かぽんと鹿威しの音が鳴ったのを皮切りに
ごそりと大柄な体が動いて正座の形をとると
「緑谷君」と息子の配偶者(偽)の名を呼び、そして
「息子の事を、どうかよろしく頼む」と平伏をした。
ちゃぶ台返しなんてとんでもない、怒声も、炎も出やしなかったし、悲嘆も、哀愁もなかった
その代わりに
落ち着いた声に絞り出すように噛みしめた重さには願いがあり、うつむいたので顔をうかがう事は出来ないけれど、かすかだけれど確かに雫が落ちる音がした
嗚呼
なんていうことでしょう、クソな台本など何の役にも立たぬほどに現実はこんなにも美しい