(ここは天国かな?)
すーすーと頭の上から聞こえる穏やかな寝息とか、抱き込まれた身体から伝わる温かさとか、額に押し付けられた胸から伝わる規則正しい鼓動の音とか。
勿論僕は医者だから、この人の平熱も脈拍も平時の呼吸音も知っては居たし、触れても居たけれど。それは仕事上の触れ合いだからこんなに胸に広がる感情は無かった。
だって仕事上の触れ合いだもん。貴方が教えてくれた仕事を不埒な感情で汚すことなんかしたくないもん。
まぁ、今だって、お兄さんが望んで僕を抱き込んでいる訳じゃないんだけれど。
今日も今日とて安倍先生は生徒のために一生懸命。
東にテストに困る生徒が居れば指導をし
西に喧嘩をする同僚が居れば仲裁をし、
南に太り過ぎたマンドラゴラが居れば、一緒に運動をし
北に進路に迷う生徒が居れば励まし
泣いて笑って怒ってまた笑う。
自分の身は一切合切考慮せずに。
僕だって仕事をしている身だから、理解できない部分はある。
無理をしなければならない時も、無茶を通さねばならぬ時も。
だけど、流石に(あ~、ヤバいな)ってなったらドクターストップくらいするよ?
ジャージの上からでもわかるほどに、以前より骨ばりが目立つようになった身体だとか
ピンクの頬が白っぽく見えたりだとか
眼の下の目立つようになってきた隈だとかさ。
『安倍先生。今日の放課後は保健室に来てね』
『えっと、放課後は、マンドラゴラたちと約束が』
『お兄さん、自分の体調くらいわかるよね?分かってるよね?分かってないかな?』
『えっと、あの・・・・・ごめんなさい』
『頑張るのは安倍先生のいいところだけど。ソレで倒れちゃ意味ないよね?』
『おっしゃる通りです。あの、でもマンドラゴラ・・・』
『安倍先生。マンドラゴラたちとの約束は別日に移動できないかな?』
『えっと。無理です。したくないです』
うん。まぁ、安倍先生が先約を反故するわけはないのは織り込み済みだったし。
ふー、とため息をつけばビクリとするしょぼあきになってしまった先生に
『とりあえず全部の用事が終わったら、保健室に来てください』
『??えっと・・お待たせしちゃうことになりますけど』
『いいよ。僕は別の仕事してるから。お兄さんがお仕事終わったらそのまま僕の車で一緒に帰ってもらいます』
そう告げれば、何言ってるんだコイツみたいな顔をした安倍先生に宣告するのだ。
医師として。あくまで医師として。
『一日入院してもらいますから。僕の家で』と。
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そう医師として体調が心配だったから僕の家に入院をさせただけ。
多分絶対的に足りないのは睡眠なのだから、150年前に安倍先生たちを逗留していた部屋に案内をして『勝手に使っていいよ。夕食は後から持ってくるから』と伝えてから夕食をもっていくまで数分で、ものの見事に安倍先生は寝落ちしていた。
それに嘆息一つ落として。
そっと布団をかけなおしてあげようとしたんだ。うん。誓って下心は無かったよ。多分。
そっとそっと、寝ている安倍先生を起こさないようにブランケットを持ち上げた手を取られたと思ったら抱き込まれたのが予想外だっただけで。本当だって。
※以降ちょっと裏に入るかもしれないからここで締め!