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    DuzB1b

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    DuzB1b

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    tihr
    (尻たたきだよ!)

    (お腹、減ったな)

    さりとて、物乞いをする気もおきずに、歓楽街のネオンに照らされた薄暗い道をただただ素足でぺたぺたとアスファルトを歩くのも平気。
    薄汚れた格好も。
    それよりも周囲の人からの憐みやら忌避する視線の方が、ずっと辛いけど、その心が分からない訳じゃないから。

    ぐらり、と身体が傾いで、ぼすん、と鈍い音を立てて柔らかいものに倒れこんだ。
    息をするのが辛いほどの臭いの中なのに、それでもやっと笑えた。生まれてきてから初めて笑ったんだ。

    (嗚呼、やっと、終われる)

    *************

    ふわり、と鼻をくすぐるいい匂いと、耳に入る調子が外れた鼻歌と閉じてる瞼にうっすらと入ってくる柔らかな光の気配。

    (天国、かな?)

    うん。こんなに優しい気配がするのなら、もう天国でいいよね?
    ということは無事に死ねた、という事だろう。

    (よかった)

    だけれど安心は長く持つことは無く。

    「狸寝入りしてんな」
    「痛っ!?え?なに!?」

    ぐい、っと髪を引っ張られた痛みに眼を開けて飛び起きれば、僕の両サイドには
    髭を生やした20代後半くらいの男性と、10代であろう男の子。
    余談ではあるが、僕の登頂から生えている毛を掴んでいるのは髭の男性だったりする。

    「え???え???」

    死んだと思ってたら生きてたらしいし
    生きてたと思ったら、全然見知らぬ場所に、見知らぬ男に囲まれている状況に口からは文章にならない文字だけをまろび出せば、怪訝そうに見遣ってくる4つの瞳にさらに怯えれば。

    とんとんとノック二つ後

    「あ~~!もう。新入りさんを虐めちゃダメでしょ?」

    ホカホカと湯気を立てるお盆片手に入ってくるのは、小柄だけれどとても綺麗な
    女?男?の人。
    顔のサイドに流れる髪も、赤い瞳も、白い肌も。驚くほどに色も形も配置も『均整』がとれている、文字そのままのような姿。どうしようもなく眼を奪われた。

    「虐めてねぇよ!」
    「もうそろそろ起こしてって言ったの隊長ですよね?」
    「言ったけどさぁ~。もうちょっと優しく起こす方法あったよね?」

    ぼんやりとしている僕を横に、髭男さんと青少年君は慣れてた様子で麗人さんに噛みつくけど、ソレを上手にあしらえば、かちゃんと僕の寝ているベッドに腰掛けながら。

    「ま!とりあえずは腹ごしらえだよね!」
    「グッ!」

    アルカイックスマイルの見本といえるような笑顔で口の中に押し込んできたのは
    柔らかい味の柔らかい食べ物。ただし、いくら柔らかい食べ物だとしても無造作に口に入れられたら溜まったもんじゃないと僕はこの時学んだよ・・・。

    気管に入るのだけはなんとか回避できたけれど、それでもホカホカのご飯ではあるので。ごほごほとベッド上でくの字になってむせていれば「あ~・・えっとごめんね?」
    という声と「隊長それは無いわ~」「もうちょっと看病についての作品読むべきだと思いますよ?」ドン引きの声。

    (うん。多分コレはいやがらせとか攻撃じゃなくて、純粋な看病のつもりだったんだ)

    どこの誰だか分からない人たちだけど。
    似ている部分があるのか?と言えば似てない三人組だし、佳人を呼び名だって『隊長』なんだから家族ではないのだろうけれど。
    おかしな人たち。丁寧なようで、雑で。雑なようで、優しくて。
    けど

    (新入りって言ってくれた)

    だれにも必要とされなかった
    だって僕は『失敗作』だったから。
    『力』もなければ、彼らが言うような『カリスマ』もなかった。

    『処分する価値すらない』と言ったのは誰だったろう?
    ううん。誰でもいい。知りたくない。誰かを恨みたくない。
    だけど

    ベッドサイドでHOW to 看病について『隊長さん』にレクチャーしている青年君(『しょき』って呼ばれているけど、名前だろうか?)が「まずは『はいあーん』ですよ!はいあーんは世界を救いますからね」と力説している横で髭男さん(『ふくたいちょう』って呼ばれているのは副隊長なのだろうか?役職??)がドン引きしている顔をしている。

    「ふふ」

    思わず零れた声に、ぐるりと集まる6つの瞳。
    心配そうに、楽しそうに、不安そうに、怪訝そうに見てくるそれに

    「楽しいですね」と言えば

    「そうでしょ」と隊長さんが笑った。

    ***********

    「晴明くーーーん」
    「はいはい!お疲れ様です!」

    帰りを知らせる声に、ぱたぱたとタオル片手に玄関へと向かうのも慣れた、住み始めて早ひと月。

    おかゆ(あの温かくて柔らかい食べ物はそういう名前だったらしい)を食べながら
    隊長さんと会話をすれば自分の歪さが浮き彫りになった。

    『なんであんな場所で寝てたの?』と聞かれても『分かりません』
    『お家は?』にも『ごめんなさい』
    『何処から来たの?』にも『えっと、白い部屋としか・・分からないんです』
    僕の返答のたびに隊長さんや副隊長さん(お名前は梵天さんというらしい)や書記君(天丸君というお名前らしい)の顔が青くなっていくのが分かる。

    最終的に梵天さんがドン引きした顔で『な、まえくらいは分かるよな?』の問いには縮こまって『ごめんなさい』としか言えない自分に嫌気すらさす。

    (偽名でも名前を言えばよかった)
    (適当に一郎でも次郎でも三郎でも、なんでもいいのに)

    それでもそれらが自分の名前ではないと思ってしまうから、どうしても口から出すことすらできなかった僕自身の不甲斐なさに頭は下がっていってしまうけれど。

    その頭をぽん、と撫でる手に思わず顔を上げれば、とてもやさしい目をした隊長さんが僕を見ながら言ったんだ。

    「じゃあ、名無しの君には僕が君に似合う名前をあげるよ!。ん~『晴明』なんてどう?」
    「はるあき、ですか?」
    「うん。晴天のはれ、に明るいのあき、ではるあき君」

    ぎょっとしたような梵天さんと天丸君が「「それは、いいのか(ですか?)」」と言えば隊長さんはさらに笑みを深めて「うん。もちろんだよ。それとも晴明君はいや?」
    なんて聞いてくるから。

    迷わなかったわけじゃない。
    梵天さんと天丸君の顔色を見れば、この名前が隊長さんの大切な人の名前だって分からない訳ない。
    でも、初めての僕の名前が余りに嬉しかったから。
    きっと隊長さんは僕が「晴明」の名前じゃ嫌だと言ったなら、ほかの名前を付けてくれるとは思うけれど。

    (それは、嫌だな)

    だって僕に似合う名前だと言ってくれたんだから。
    僕が貰ってもいいんだよね?

    「えっと、晴明がいいです」
    「でしょ!」
    おずおずと、名前をもらうことを伝えれば、隊長さんは嬉しそうに笑った。


    まぁ、それ自分の事以外にも僕が分からない事は沢山あったんだけれど。

    「ね~、晴明くん。家族が帰ってきたら何するんだけ?」
    隊長さんの髪の毛を柔らかくタオルドライしていれば、下から上目づかいしてくる眼はにやにやにやにやと多分にからかいを含んでいることだって、今の僕にはちゃんと分かるんですからね!

    「隊長さん。今日は国の風習について勉強してたし。買い物ついでに八百屋の泥田くんやお医者様の歌川さんに聞いたんですけどね。挨拶のちゅーは20を超えたら家族間ではしないらしいですよ」

    (というか、そういえば梵さんや天君が隊長さんにいってらっしゃい、やおかえりなさい、おはようからおやすみなさいの挨拶のチューをしていることなんて無かったのに。あっさり騙されていた過去の僕よ・・・)

    僕の騙されやすさ、それが一番の問題であった。
    騙されやすい、とは語弊があるのだけれど、最初はいちいち信じていたのだ。
    鳥の後追いのように『隊長さんが言うなら大丈夫』と。
    そうなってしまった一因というか原因は僕が無知だったとしかいいようがないのだけれど。『おかゆ』を知らないように、一般常識やそのほか諸々、この国がどういった国なのかすら一切合切知らなかったのだもの。
    その上、なぜか文字は読めたり、計算は出来たりするのだけれど(とりあえずこの国の最高学府レベルでは出来る、らしい・・・・)
    ちなみに梵天さんは「まじかよ」って絶句してたし、天丸君は「ぎゃくに美味しい」って言ってたけど。たまに天丸君が分からないよ・・・。

    閑話休題

    挨拶のチューを拒否した僕に「へ~」と隊長さんは笑ったけど、(怖っ!)。
    眼の奥はにやにや笑いをしていた時よりもずっと嫌な笑い方。

    「な、なんですか?」
    「い~んや。別に。でもさ晴明君、よく考えてみてよ。親や兄弟も家族だよ。うん
    そりゃそうだ。親や兄弟には20を超えたらチューはしないかもしれないけどさ。でもさ」

    まるで教師が大事な言葉を一つ一つ教えるようにゆっくりと句点を多めに話す隊長さんはすっと一歩だけ僕との間合いを狭くされれば、「冗談はやめてください」と言いかけた僕の唇にしゃべるな、とでも言うようにとん、と優美な人差し指(本当にこの人は指先ですら優美なんだ)を触れさせる。

    「夫婦だって、家族でしょ?」

    夫婦だったらちゅーくらいするよね?

    えっと…確かに夫婦だったらちゅーくらいするのかな?多分。
    知らんけど。

    というかその理論でいくと
    「隊長さんは、梵丸さんや天丸くんと夫婦だったんですね!」
    「へ?」


    とんでもねぇ隊長さんだったよ?!!

    家族=夫婦認識であるのだったらそうだよね?そうなるよね?
    え、じゃあもしかして僕が見ていないとところでは天さんや天丸くんとチューをしていってコト??

    「ふふ。晴明君は本当に面白いね、とりあえず副隊長も書記も僕の妻じゃないよ」
    「違うんですか?」
    「ん。というかこの国は一応一夫多妻制は認めてないしねぇ」
    「確かに国の規則としてはそうですけど。でも隊長さんなら事実婚って線もありかな、って」
    「君が意外に僕の事理解してくれてて嬉しいよ!。まぁね。本気で好きな相手だったら、そりゃあ何を犠牲にしても、誰を敵に回しても、僕は手に入れようとするけどね」

    するり、と唇を一撫でしたあとで、パっと未練なく手を離した隊長さんは「な~んてね。ま!今のところは許してあげるね」なんていいながら僕の横を通って家の奥に入って行った。

    「へ??」

    どきんどきんと痛いほど鳴る心臓と、顔にひどく熱が集まる。
    ままならない変調に、思わずしゃがみ込む。
    (ナニコレ?)
    (こんなの知らない)
    知らないけど、何も分からないけれど

    ぎゅっと目を閉じても忘れたくないとばかりに脳裏に浮かぶのは、隊長さんが一瞬だけした真剣は瞳と、唇を撫でられた指の手触り。
    だからこれは原因は隊長さんでしかない訳でして。

    「隊長さんのばーか」


    八つ当たりの言葉は誰にも聞かれないままに、玄関の空気に溶けて消えた。

    *************

    晴明君を玄関に置いたまま、部屋に入れば床に突っ伏して爆笑している髭部下もどきが一人。
    「盗み聞きなんてエッチね~」
    「あんだけオープンに会話しといて盗み聞きもへったくれもねぇでしょ」
    「まぁね。」

    そりゃそうだ。隠す気なんて元から0だもん。
    君は僕の家族だけれど、晴明君に関しては君にも譲れない。
    何を譲れないかって言われたら、全部さ。例えば自分の感情ですら把握できていなかった晴明君に対して(ちなみに今玄関で「隊長さんのばーか」って言ってたのは聞こえてるからね!うんうん。君にそう思ってもらえて嬉しいよ。僕の努力のたまものだもの)家族の愛も、恋愛の色も、楽しさも切なさも、全部ぜーんぶ僕が教えてあげなきゃ気が済まない。
    それをちゃーんと理解していて君たちに『手を出すな』と警告してあげてる僕ってば最高の上司じゃん?

    ふふ、と笑えば、さっきまで爆笑していた部下はゲンナリとした顔。

    「あーあ、厄介なヤツに好かれちゃってまぁ」
    「厄介なヤツって僕の事?」
    「他にいないでしょ。マジで鴉だよな。あんた」
    「ん~、どういうこと?」
    「綺麗なピカピカしたものを巣に持ち帰って誰にも取られないように眼を光らせてるところがそっくり」
    「失礼~~~~~、とはいえ否定しないけどね」
    「否定できねえ、の方でしょ。」
    呆れたような言いぐさを躱すように乾いた笑いを零せば

    「ま、いいですけどね。どうしたいを決めたら教えてくれれば」なんて溜息交じりに言うんだからさあ。本当に気心が知れた、家族みたいな部下ほど厄介なモノはないね。
    僕の本性も、そして僕の望みもそこそこの精度で理解してくれちゃうんだもん。

    軽口にまかせて本心を聞き出す技を教えたのだって僕だしねぇ。
    一応この子だって僕を心配してくれているのは分かってる。

    「大丈夫だよ。」

    座り込んでる部下の頭をぐしゃりと撫でる。
    大丈夫だよ。僕は一応君を、君たちを家族だと思ってるんだから。
    だから捨てる事なんてしない。

    (「大丈夫だよ、朱雀」)
    そんなことを言って、僕を捨てたアイツみたいにならないから。
    柔らかな物腰、抜けるように白い肌に、それに似合う透明度の高い、夜に近づく夕焼けの赤。長身に見合わない細すぎる体躯。


    綺麗な人だった。
    どこまでも、何よりも綺麗で、残酷な人。

    そして

    (あの子の『元』になった)

    僕だって元『四神』の一柱だもん。この国に中枢が何をし始めたのかを掴めない筈ないじゃないか。『晴明』の替わりを作ろうとしているのだって当然知っていた。
    知っていたけれどアレの替わりを作れるなんて思い上がりをせせら嗤っていたんだ。
    だからあの子がゴミ捨て場に寝ているときに、本当に驚いたし、実際には見殺しにしようと思ったのだ。
    命の炎はつきかけているのは見て取れたし。ほっておけばよかっただけ。何も言わずに立ち去ればよかっただけ。


    だけれども立ち去ろうとすればするほどに足は動かないどころか、気が付けば連れて帰ってしまった。

    ぼろぼろになって命もつきかけている、『晴明』を模って作られたものなのに。
    ゴミ捨て場で遺棄された晴明が全部の運命を受け入れたように笑っていたのが無性に腹が立ったんだもん。

    (まぁ、結果はOKだったけど)
    連れて帰ってみれば、外見以外には『晴明』に似たところなど一つもないほどの天然っぷりに、感情のままに素直に泣いて、笑って、怒って、また笑う。そんな人間だったんだもん。

    ぶっちゃけほだされた。

    『晴明』をもとに作られた君に向かって『晴明』と名付けて、せいぜいいいように使ってやろうとした心すら(バカだったなぁ、あの頃の僕)なんて思う程度には。

    だから

    「僕は鴉だから、光るものを隠すのは得意なんだ」

    さて、戦いを始めようか。

    (きっと、王城では白虎ちゃんや青龍ちゃん、玄武もかな?が今頃慌てて探しているはずだし・・うん・・あっちゃんは一枚も噛んでないだろうけど、それでも『晴明君』を知ったらどういう行動に出るか分からないしねぇ。本当に、執着心ばかりが強い連中ってなんなのかなぁ?)

    ぜーんぶぜーんぶ
    三千世界の僕以外の鴉を殺して、あの子と朝寝がしたいだけなのにな、なんて。ね


















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