触れる事は無かった。
いや、これじゃあ語弊があるね。
診察の為や、親愛として触れたのなら何度だってあるさ。
それこそ僕の目の数以上に。
だけどここで言う接触は、いわば性的と言えば作業染みているようで嫌だし、好意の上にある行為というのも、少なくとも僕にとっては癪に障る言葉すぎて。
だって君と僕は少なくとも僕の認識では恋人同士だったはずだから。
だけれどそう言った行為はなかったさ
だって
君が拒んだんだから
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「駄目だよ、たかはし先生」
ベッドに押し倒された君は一瞬だけ驚きに目を見開いた後で、それはそれは綺麗に笑うんだもん。春の陽だまりのような笑顔で拒絶をする。
「なんで?」
覆いかぶさるように晴明くんの両手をベッドに押し付けながら出した声は、僕が思いつかないほどに不機嫌な音を宿していた。
だってしょうがないじゃないか。
知りたいんだもん
知識欲の塊な僕が、興味を持った君の事をひとかけでも知らないことがある事がどれほど苦しいか。
「僕に、君を教えてよ」
全部全部
君を形作るそのすべてを、僕に頂戴。
だってそうじゃなきゃ
「君を覚えておけないじゃない」
君が居なくなった後で、君の鼓動を単位として時間を数えて
君がくれる言葉を優しい音楽として
君が落とした涙の味を再現したそれを飲み干して
そうやれば、なんとか生きようとしている僕はほめられてしかるべきだと思うのに
君はそんな僕を裏切って言葉を紡ぐ
「えっと、知らないままでいい、と言っちゃダメですか?」
「…僕の恋人が薄情すぎる」
薄情すぎる言葉に、少々、否結構チリっとした気持ちのまま、晴明君の身体の上に倒れこむ
「ゴフ!ちょ!重!!痛!!」
「僕の方が・・痛い」
そのままの体制でぐりぐりと首筋に額を擦り付ける
「痛いよ」
「うん。ごめんね」
「おにいさんのばーか」
「バカじゃないもん」
「じゃあ、愚か者だ。150年も僕を待たせて、束の間だけしか一緒にいられない癖にさぁ。それなのに何も僕に残してくれないんでしょ?」
「‥‥恥ずかしいから言いたくなかったんですけど。僕、前世から1000年で生まれ変わったっぽいんです」
「あぁ、そうらしいよね」
「で、たかはし先生は知識欲の塊でしょう」
「まぁ、そうだねぇ」
「だから1000年先まで解き明かせなかった僕を、待ってて」
はたりと呼吸が止まった
1000年って言った
1000年の重さも分からない人間が待っていろ、と。
僕の身体に敷かれている人間は1000年間、僕を縛り付けるつもりでいる
「安倍先生はさぁ。もしかしてものすごくワルイ男だねぇ」
くつくつと腹の奥で腹筋が震える
嗚呼、これは駄目だ
本当に駄目だ
面白すぎて
「悪い男ですかねぇ?」
「悪い男だねぇ。これは1000年間、君の事を考え続けて待てるくらいの悪い男だ」
そういうと
「へへ。嬉しい」
君が笑った