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    菫城 珪

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    菫城 珪

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    猫好き公爵の異常な愛情(BL)

    猫好き公爵の異常な愛情 突然だが、俺は猫が好きだ。大好きだ。生きる意味と言っても過言ではない。
     三角の耳もふさふさ艶々の毛並みもしなやかな体も宝石のような瞳も、気まぐれな性格も猫の何もかもを心の底から愛している。
     しかし、猫は希少な生き物であり、ほとんどの人間はお目に掛かる事すら稀だ。
     それでも、愛してやまない猫を身近におこうと猫の絵画を求め、調度品を集める日々。
     そんな俺に最近妻が出来た。
     相手は隣国である獣人の国の王族だ。
     艶やかな銀の髪、勝気そうな吊り目気味の青い目。
     頭には真っ白な三角の耳と腰には長くしなやかで真っ白な尾。
     そう、猫の獣人である。
     名前はフィラース。
     真っ白な肌が美しい自慢の妻だ。
     砂漠の国から来た彼は異国の魅力に溢れている。見目だけじゃなくて身のこなしも性格も美しく愛らしい。
     獣人なんて、と卑下する者がいるならフィラースを見せてやりたい。まあ、フィラースが減るから絶対に見せないが。
     彼の魅力はその美しさもだが、もう一つある。
     
    「おはよう、フィラース」
     朝の支度を終えて食堂に行けば、すでに待っていた愛妻の姿がある。
     声を掛ければ三角の耳がぴくんと揺れて俺の方を向き、長い尾がピンと立つ。
    「……おはようございます」
     耳や尻尾とは裏腹に、ぶっきらぼうな挨拶が返ってくる。ふいと顔を背ける態度が気に入らなかったのか、視界の端で使用人の一人が顔を顰めたのが見えた。よし、あいつはクビにしよう。
    「良く眠れたかい?」
    「ええ。この国の気候は過ごし易くて良いですね」
     口調は相変わらず無愛想だが、尻尾の先がゆらゆらしている。どうやら気に入ってもらえているらしい。
     フィラースの為に最高級の寝具を揃えたのだから当たり前だ。こっそり覗いた時には幸せそうにベッドで寝転がって喉を鳴らしていたので俺も大満足である。
     今日の朝食はこの間彼が美味しいと言っていた魚のすり身を使用したものだ。
     供されたそれに気が付いて表情はあまり変えないものの宝石のような瞳がきらきらと輝くのが可愛らしい。口に運べは幸せそうに表情が僅かながらに綻ぶ。
     にこにこしながら彼が食べている様子を眺めていれば、俺の視線に気が付いたフィラースが居心地悪そうに視線を逸らした。
     見過ぎは良くないと分かっていながらもこの愛らしさの前に理性も何もあったものではない。
    「気に入った様だったから出してみたんだが、どうかな」
    「……美味しいです」
     恥ずかしそうに頬を染め、尻尾が大きくゆらゆらと揺れる。あー、可愛い。嫁が可愛過ぎて朝から幸せだ。
     フィラースは元々隣国の第三王子だ。そんな彼は普段は結構気を張って王族らしく振る舞おうとしているらしい。
     向こうの国王からは「活発で悪戯好きであり、照れ屋だ。君に対して好意を抱いている」と聞いている。彼の行動全てが好意の裏返しだと思えば何もかもが愛おしく思えるものだ。
     そんな俺の心情を知り尽くした執事長が朝食に手すらつけない俺を呆れた様に冷たい視線を向けてくるが知るか。俺は俺の妻を愛でる事で忙しい。
    「フィラース、君は本当に美しくて可愛らしいな。君と番た事は俺にとって一生で一番の幸運だ」
    「大袈裟な……」
     毎朝告げている事だからか、フィラースが流石に呆れた様に呟いてそっぽを向いてしまった。最初のうちは真っ赤になって言葉に詰まっていたのに慣れてきてしまったらしい。
     それでも、大きくゆらゆら揺れる尻尾は彼の心を如実に示している。
     はー、今日も俺の嫁が可愛くて幸せだ。そう思った時だった。
    「旦那様がこれ程お心を砕いてくださっているのだから少しくらい愛想良くしては如何ですか」
     突然室内に不満げな声が上がり、鋭いその声にフィラースの耳が僅かに伏せてしまう。折角彼が喜んでいたのになんて事をするんだ!
     見れば声の主は先ほどの使用人。
    「フィラース」
     優しく名を呼べば、細い肩がびくりと跳ねた。そろりと俺を見る宝石の様な青い瞳が翳っている。嗚呼、可哀想に。君が悪い訳ではない。
     そっと肩を抱き寄せて白い額にキスを落とせばフィラースは直ぐに真っ赤になった。
    「だ、旦那様! 人前でこの様な!」
    「カミル」
    「う、」
    「カミルだよ。君だけが呼んでいい俺の名だ」
    「あぅ……」
     白い喉を撫でてやりながら耳元で囁けば、三角の耳がふにゃりと伏せる。真っ赤になっている顔を見れば、彼がどう思っているかなんて一目瞭然だ。
     やがてくるくると鳴り始めた喉を愛おしく思いながら喉をくすぐってやる。嗚呼、本当に可愛らしい。
    「カ、カミル……お願いだから人前で喉は撫でないで」
    「俺のフィラース。君は本当に可愛いな」
    「にゃうぅ……」
     ゴロゴロと喉を鳴らしながらフィラースが降参した様に小さく鳴く。その様子に満足しながら細くしなやかな体をしっかりと抱き締めてから先程の使用人を睨み付ける。
    「……お前はクビだ。即刻この家を出て行け」
    「そんな! 何故私が!!」
    「フィラースは隣国から嫁いできた貴人だ。こちらに嫁いできたとはいえ、彼が隣国の王子である事に変わりはない。彼に対する侮辱は不敬罪に当たる。何より……お前は愛しい愛しい俺の妻を侮辱した」
     にこやかに笑みを浮かべながら使用人を見遣れば、今更ながらに自分がしでかした事に気が付いて真っ青になっている。
     何人も同じ目に遭ってるのに何故学習しないんだか。
     恐怖に飲まれて動く事も出来ないのかガタガタ震えている使用人が目障りで深くため息をつく。早急にフィラースの視界から消し去りたいというのに。
    「……叩っ斬られたいのか?」
    「ひぃっ!!」
     低い声で威嚇すると、使用人の男はやっと情けない悲鳴をあげてその場から逃げ出した。バタバタと足音を立てながら去る男に執事長は苦い顔をしている。
    「カミル、私が貴方に輿入れしてから使用人をクビにするのは何人目ですか……」
    「四人目だったかな?」
     フィラースの髪に鼻先を埋めながらにこやかに答えれば、腕の中のフィラースが耳を伏せながら溜め息を零す。
    「私の事なら大丈夫ですから、ぽんぽん使用人のクビを切るのはおやめください」
    「何故? 君の事を侮辱する輩を身近に置く事は出来ないよ」
     髪を撫でながら告げれば、フィラースが恥ずかしそうに視線を逸らす。白い頬が赤いままなのが可愛らしい。
    「公爵家が新しく使用人を雇うのは大変なんですよ。それなりの教養のある者で、身元を調査しなければなりませんから。雇う身にもなって欲しいと執事長殿が溜め息をついていました」
    「だからって君を傷付けるような君の身近に輩を置けと? 冗談じゃない! それくらいなら朝から晩まで君に傅いて俺が一から十まで君のお世話をしたい! 公爵家当主の立場さえなかったら俺が君の奴隷になりたいくらいなのに!!」
     俺の心からの叫びに、フィラースと執事長が心底呆れた様な顔で俺を見ていた。
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