幻夢の邂逅 夢を、見ていた。
知らない街なのに、何故か懐かしさを覚える。
共にいるのは黒い髪の青年。でも、見知ったものよりずっと短い髪だ。
彼は楽しそうに見知らぬ夜の街を歩く。鼻をつく独特の香りは硫黄だろうか。見慣れない服装は随分と無防備に見える。木製の変わった形の靴が、石畳を蹴る度にカラカラと小気味の良い音がする。
夜の風が柔らかく彼の黒い髪を揺らす。微かに甘い爽やかな香りがした。
全く知らない筈の光景なのに、それは酷く心を掻き乱す。
見た事があるような錯覚に陥り、同時に胸が締め付けられた。
これは幸せだったほんの一幕。嗚呼、この後暫くして隣を歩く彼は……。
不意に光景が切り替わる。
見覚えのない部屋は酷く狭いが、干し草のような清々しい香りがする。広さこそ狭いものの洗練された部屋に困惑していれば、部屋の奥にあるスペースに設られた椅子に誰か座っている事に気が付く。
2486