雨垂れ雨垂れの夜
ふと肌寒くて目が覚める。
微かに雨垂れの音がするから外は雨が降っているのかもしれない。
暗い部屋の中隣にある筈の温もりを探して身じろぐが、隣には誰もいない。微かな温もりの残滓があるから、先程までここに居たのだろう。
まだ起きるには早いから、手洗いにでも行ったのだろうか。それにしても、薄ら寒い。
温もりの残る布団の中に身を沈めて丸くなってもなお足りなくて早く帰ってこないだろうかと半分寝ている頭でぼんやり思う。
昔は独寝が普通で、どんなに寒くても一人で耐えるしかなかった。でも、今は当たり前の様に隣に熱が在るからこの肌寒さが無性に寂しく感じてしまう。
いつからこんな我儘に、そして弱くなってしまったのだろう。同時に人間という生き物は強欲なのだと思い知る。一つ手に入ればもっと欲しくなる。
時折傍に居てくれるだけで良かったというのに、今では隣にあの熱がないだけで落ち着かない。出来る事ならひとときたりとも離れたくなくて…。
不意にドアの開く微かな音が暗い室内に落ちる。もそりと寝転がって入口の方に顔を向ければ、水差しを持ったオルテガがいた。どうやら水を汲みに行っていたらしい。
「すまない、起こしたか?」
低い声が、優しく甘く囁きながら大きな手が俺の頬を優しく撫でる。その手はいつもより少し冷たい。
「ん……さむくて……」
「雨のせいか今夜は冷えるからな」
寝ぼけながら返せば、オルテガが直ぐに隣に戻ってくる。いつもより冷えた体に身を寄せれば、それでも直ぐにじわりと温もりが広がっていく。
オルテガの脚に自分の脚を絡めれば、ひんやりしていた。今夜は酷く底冷えしているから水を汲みに行っている間に冷えてしまったのだろう。
「冷たい……」
「お前の足まで冷えるぞ」
暖めるように爪先をくっ付けていれば、そうやんわりと嗜められた。でもな、俺も自分の温もりを分けてあげたいんだ。
不器用な俺は彼に対して何かを返せる機会が少ない。こんな時くらいオルテガを暖めてやりたいのだ。
「いい。このまま……」
離れようとするオルテガの逞しい体に腕を回して脚を更に絡める。俺が離れる気がないと悟ったであろうオルテガは小さく息をついてから俺の体を抱き込んだ。すっぽり包まれるようなこの体勢は好きだ。温かくて心音が心地が良くて安心出来る匂いがする。
「……温かいな」
ぽつりと呟いて、オルテガはより深く俺を抱き込む。今のは涼介だろうか。いつもと少しトーンが違った気がする。
オルテガの胸に頬を擦り寄せてぴったり密着すれば、先程まで苛んでいた肌寒さは失せて心地良い熱だけ。
夜明けはまだ遠く、明日は休みだ。
今は存分にこの熱を堪能しようと俺は睡魔に身を任せてゆるゆると瞼を閉じる。
優しく額に触れるものに促され、俺の意識は再び眠りの淵へと堕ちていくのだった。