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    菫城 珪

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    菫城 珪

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    ズンドコ同時進行したいので同時進行作品の進捗用。そのうちまとめてアップします。

    出奔魔術師の旅日記 プロローグ それなりに恵まれた人生だとは思う。
     生まれながらに膨大な魔力とそれを扱う魔術の才を授かり、才能を存分に奮い研究出来る環境、それなりに理解のある周囲。
     それでも生まれてこの方、ずっとずっと自由なんてものはなかった。
     私はもっとこの世界を知りたい!
     そう思ったら、もういてもたってもいられなかった……。
     
     
     暗い森の中を、ひたすらに東へと駈け抜ける。無理矢理茂みを通り抜ける度に木の枝や刺草が逃亡者の体を打ち、傷付けた。微かな痛みに顔を顰めながらもそれでも足を止める事は出来ない。
     この逃亡の終わりは即ち自由の死。例えこのまま野垂れ死にしようが、自由を奪われるよりもずっとずっとマシだった。
     ともすれば止まりそうになる足を、魔力の枯渇を訴えて疲弊する体を必死に叱咤して前へ前へと足を進める。閉じた生活の中では必要なかったが、今となってはもっと体力を付けておくべきだったと後悔した。
     心臓は爆発しそうな程激しく脈打ち、魔力が切れた体は言う事をきいてくれない。先程まで展開していた気配隠蔽と消音の魔法も少し前に魔力切れで無くなっている。
     走っていたのが徐々に遅くなり、やがてふらふらしながらなんとか前へと足を出しているのが精一杯になりつつあった。
     もうダメか。
     暗い絶望感が逃亡者の思考を染める。途中で見掛けた魔物を上手く誘導出来たお陰で追跡者との距離は少しばかり稼げたようだが、もう体力と魔力が限界だった。
     望まぬ婚礼を強いられそうになって逃げ出して三日。たったそれだけの時間でも世界の広さを思い知った。
     まだほんの少ししか知らない世界はそれでもどこまでも広くて、そこに息衝く自然も人も生き物もあまりにも豊かで。
     流れる風の甘さ、咲き誇る花の香り、空に唄う鳥の声の優しさ。
     街の騒めき、道端で話す人の楽しそうな笑顔。
     垣間見た世界はあまりにも広くて眩しかった。いつかそんな場所を自由に歩きたいとずっと思っていたというのに。
     現実は残酷で非情だった。いっその事、もう何もかも諦めてしまった方が楽なのかもしれない。
     そう思った刹那、月の光すら碌に届かない深い森の中、少し離れた前方に小さな火影が見えた。
     闇の合間に揺らめくその火影は逃亡者にとって微かな希望となり、彼は無意識のうちにその焔目掛けて最後の力を振り絞る。
     その先に待ち受ける運命も知らずに。
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