包容 特に大した事ではない事象を思い出したり、連日周囲に振り回されてしまうと自覚しない内に疲労が蓄積してしまうようだった。自覚していない内の蓄積というのがたちが悪いもので、少し腰を下ろしぼんやりと休むことにする。
「何してんの?」
突然姿を現したヴィエラに驚くこともなくちょっと休憩を、と返した。ルガディンの返答にふぅんと呟き、その隣にちょこんと腰掛けて彼女は悪戯っぽく笑う。
「確かに疲れた顔してる」
頬杖をついてにんまり笑った彼女にバレるぐらい顔に出てしまっていたようだ。つられて苦笑する。
「おっぱい揉む?」
休憩を終えて2人で気分転換にダンジョンを回っていた時に不意に彼女が言った。動揺のあまり帰還させてしまったフェアリーを再度召喚しながら、急に何事かと尋ねる。
「疲れた時にはおっぱいが効くと聞いたのを思い出して」
ふにふにと自身の胸を押し上げるように触れながら、彼女がしれっと答えた。どう答えたものか、と閉眼して少し考え込んでいると嫌いだった?と首を傾げられる。
「……嫌いじゃないが……」
返ってくるであろう言葉に予想が付きつつ答えると、案の定楽しそうな彼女にむっつり、と返された。だろうな、と苦笑しつつとりあえずダンジョン内でする会話ではないだろうと諭し、歩みを進める。
ダンジョンから脱出し、宝箱から得たものを換金などしている内に日が落ち暗くなっていた。とりあえず休むか、と宿屋に足を向けると彼女もてくてくとついてくる。何か用事があるのだろうかと思いつつ、客室まで向かう。客室の扉を閉め、ベッドに倒れ込もうとすると腰をつつかれた。
振り返ると見慣れたヴィエラが立っており、理解も追いつかないまま一呼吸置いて何事かと尋ねる。
「さっきの答え聞いてないなって」
さっきの答え?と首を傾げ、ダンジョンでの質問を思い出す。どうする?と露わになった豊満な胸元を軽く叩く彼女にお構いなく、と手を差し出して答えた。えぇ〜、と間延びしたどこか残念そうな声で彼女が唇を尖らせる。
「減るもんじゃないからいいのに」
「そういうもんじゃないだろう」
反射的に返したルガディンが溜息を吐いてベッドに腰を下ろした。危機感がないというか、こういうところがあるのだ。それでも心配して気遣ってくれる優しさは伝わって来るので礼を述べようと顔を上げる。
その瞬間腕を広げいつもの笑みを浮かべた彼女が視界一杯に広がった。驚いて目を見開いてなにもできない内にぼふりと胸に顔を埋める形で彼女に抱き締められていた。息苦しいぐらいの力で抱き締めていた腕の力が少し緩み、労わるようにぽんぽんと後頭部を撫でてくる。顔を覆う胸の感触や温度に数回瞬きしてから小さく礼を述べるとどういたしまして、と楽しそうに返された。