交流カズ!」
ウルダハの喧騒の中で背後から名を呼ばれた。慣れたように人混みを上手くすり抜けたルガディン──ユウが元気か?と声をかけてくる。おかげさまでと頷いて答えるとそれは何よりと破顔された。お互いの近況など話してる内に、そうだ、と思い出したかのように手帳から小さなカードを取り出す。
「この店知ってるか?」
取り出したショップカードを差し出すと、大きく書かれた店名に彼は首を傾げた。初めて見るなと小さく呟かれ、よかったと頬を緩める。ゴブレットビュートで最近できた店だったのだが、紅茶とケーキが美味しくて紹介しようと貰って来た甲斐があった。
「友達紹介で何割引、みたいなシステムらしくてな。しるこさんも気に入っていたから、ジャックさんと一緒にどうかと思って」
地図や割引の説明が書かれた裏面を眺めていた彼に声をかけるとあぁ、と小さく頷かれた。
「こここの間ジャックが気にしてた店だ。情報と紹介助かる」
礼を述べた彼の人懐こい笑顔に、教えたくもなると1人頷いて応える。何かお礼でも、と顎に手を添え考え込んだ彼に、慌てて手を振った。そんなつもりじゃなかったと言うと、じゃあ、と意味深に笑いかけられる。
「美味いベーカリーの情報で、どうだ?」
等価交換だろうと浮かべられた悪どい笑みはウルダハの商人の真似だろうか。この近くにあると声を潜め、囁かれた。こういうところだろうなと苦笑していると、しかもな、と前置きして彼が周囲の様子を伺う。
「それなりに美味いコーヒーと買ったパンが楽しめるイートインスペースまである」
上手い口説き文句に思わず深く頷いてしまった。やった、と天真爛漫に喜んだ彼に、情報のお礼にその店でコーヒー休憩を提案すると、お礼のお礼かと苦笑しながらも快く了承される。
「いいのか?ジャックの話をし出したら何時間でも語れるぞ?」
「それを言うならしるこさんの話ならいくらでも付き合える」
猫舌の自分が飲みやすい温度にコーヒーが冷めるまで付き合ってくれそうだと思いながら、先導する彼の後を追った。