眼精疲労 自室のドアを閉じ、少し無理しすぎたなとルガディンは充血した眼を閉じる。焦点などを定める必要もなくなりじわりと熱を帯びた目元が淡い暗闇に包まれた。深く息を吐いて、こういう時は温めて血行を良くすべきなんだろうが、などと考える。のたうち回る程の痛みでもなく、ジリジリとウルダハの熱波に灼かれるような痛みが続いていた。しばらく休んでエーテルが回復すれば治るため、温めたタオルなど用意する気力もなければ必要性もない。そのまま腰を下ろしていたベッドへ後ろ向きに倒れ込んだ。そのまま仰向けで休んでいるとお邪魔しま〜す、と軽やかな声と共にドアが開く音がする。施錠しておくのを忘れた、と考えている間に、声の主であるヴィエラがてくてくとこちらに歩み寄ってくる気配がして身体を起こした。
「何かあったか?」
「別に〜」
ぽふりと横に腰を下ろしてきて、こちらを見つめてこられる。あ!と声を上げて身を乗り出してくる彼女に反射的に身を引いた。
「また無茶したでしょ!」
回復しきっていない瞳を眼鏡のレンズ越しに見られたのだろう、頬を膨らませて叱られた。微かに首を振って無茶はしてない、と返す。
「少し無理しただけだ」
「一緒!!」
屁理屈!!と怒りのあまり文章にならないまま憤る彼女が学者のジョブクリスタルを手に取ろうとした。掌を重ね彼女を制するとじとりと上目遣いに睨みつけられる。
「フィジクを使う程じゃない」
少し目を閉じて休んでいれば治る、とゆっくり目を瞬かせた彼の手に彼女の指が絡められた。本当に邪魔しちゃってた?と小さく呟かれ、ゆっくり大きく首を振る。むう、と頬を膨らませた彼女が室内に配置されたシンクに気付き、ちょっと目瞑ってて、とベッドから離れた。鞄から柔らかそうな布を取り出しシンクで濡らし始めた彼女に何をされるか予想が付き、彼は目を閉じる。寝っ転がって〜、と足音と共に近付いてくる声に従い、先程のように横たわった。ひやり、と水で濡らされた布が目元に載せられ微かに肩が跳ねる。礼を述べるとお大事に、と返ってきて、目元の布の上から柔らかく圧力がかけられた。微かに暗さを増した視界で彼女が布の上に掌を重ねている情景が頭をよぎる。ぎしりと微かにベッドが軋み、僅かな傾きから隣に彼女が腰を下ろしたのだろうと考えた。と、その瞬間唇に柔らかなものが押し当てられてくる。初めてではない感触に反射的に身体が強張る。
「エーテル、お裾分け」
少しの間押し当てられていたであろう彼女の唇はそう呟いてから悪戯っぽく弧を描いているのだろう。微かに目元から引いた熱が移ったかのように火照った頬を隠すように自身の掌で覆うと、お見通しだよと言わんばかりに彼女は小さく笑った。