化粧品 新作のコスメが並べられた屋台の前で、ヴィエラは目を輝かせていた。華やかな装飾が施されたリップグロスやフェイスパウダーなどの容器や彼女を一歩引いた所でルガディンは眺めている。見ていて楽しくない訳ではないが、それに群がる女性に圧倒されそうな気がするのと、邪魔になってはいけないと思い、時々周囲に目を向けていた。
「これ!前ウリエンジェに教えてもらったやつなんだけど、可愛くない?」
ウリエンジェの女子力の高さにも困惑しながら嬉しそうにそう言う彼女の指の先に視線を向ける。月や星など夜空をモチーフにしたデザインのコスメが並んでいた。あぁ占星術士、と独りごちた彼に、彼女も満足げに笑う。色合いや描かれた星座が気になった彼は少し首を傾げた。
「国毎の夜空がモチーフになっているのか?」
「そう!!」
すごいよね!と食い気味に返した彼女にじゃあこれか、とイシュガルドの夜空を指差すと、わかってるぅ、と更に彼女は頬を緩める。2人の掛け合いを見ていたのか、店員が件の品を彼女に差し出してきてくれた。お試しもできるので良ければお声掛けを、と言ってから店員は他の客の元へと向かっていく。掌の中を慈しむように見つめる彼女に買わないのか、と声をかけると、んー、と言い淀まれた。
「今月ちょっと出費がねぇ……大きいお家もほしいし……」
眉根を下げて小さく呟いた彼女が今は我慢かな、と彼に笑いかける。それとも買ってくれる?と冗談めかして続けた彼女に、いいぞと彼は答えた。即答してもらえると思ってなかった彼女がは?と呟く。これか?と彼女が大事に握りしめていたイシュガルドの夜空が描かれた容器に手を伸ばした。
示された化粧品を恭しく丁寧に手に取った店員がお試しも如何ですか?と声をかけてくる。一度目を合わせたヴィエラとルガディンは小さく頷いた。この後急ぐ用事もなければ興味もあるので、店員に促された彼女と彼は大人しく腰を下ろす。彼女の顔に塗られる化粧水などの種類や走る筆が載せる化粧品の名前は全くわからないが、元々華やかな顔立ちの彼女が一層魅力的になっていく様子は見ていて楽しかった。化粧品の内容と色合い、塗る箇所で変わるのかと疎い彼はまじまじと見入ってしまう。先程まで彼女自身によって施されていた化粧とはまた違った印象になるのが興味深かった。色粉をどこに置くのか予想しながら観察しているが見事に外れ続けていたので大人しく彼女を見つめていると、彼女と視線がかち合う。普段と異なる化粧をしていても、向けられた笑みはいつも通りでしみじみと好きだな、などと考えてしまう。それを口にするほど自分が彼女の横に居て相応しい存在と付け上がる気にもならず、心に留めてはいるが。店員の手による化粧を終えた彼女が嬉しそうに店員に礼を述べる。その様子に目を細めながら、彼は会計を済ませた。化粧品が入れられた紙袋すら可愛く愛おしいようで、彼女は弾んだ声を上げる。
「高いのに、ごめんね?」
「それだけ喜んでくれるなら、安いもんだ」
普段使いもしやすいだろうし、と日常的に使い易い色が選ばれているのには気付けた彼が付け足すと、一度目を瞬かせた彼女がまた嬉しそうに微笑んだ。
「大事に使うね」
噛み締めるように言われたその一言だけで十分だと思いながら、化粧品で煌めく彼女の目元を見つめる。いつもより眩しく見えるのは化粧品だけのおかげではないんだろうなと思いながら、そうしてくれ、とだけ返した。