眼鏡「それって伊達なの?」
不意に投げかけられてきたヴィエラの言葉にルガディンは首を傾げる。主語が曖昧だが恐らく眼鏡のことだろうと推測し、まぁ、と頷いて返した。ふぅん、と歩み寄ってきた彼女がこちらに両手を伸ばしてくる。眼鏡を取りたいのだろうなと思い、ルガディンは自室の隅に適当に配置されたベッドに腰掛けた。彼女と目線が合う。予想通りに眼鏡を手に取った彼女はふむ、とひとりごちてありふれたそれを興味深そうに観察していた。
何故か彼の眼鏡をかけた彼女が、なんで?と不思議そうに首を傾げた。サイズが合っていないため、ずれた眼鏡を両手で挟むように整えた彼女は彼の返答を待っている。何故俺の眼鏡を身に付けているのかこっちが聞きたいと思いつつ、ルガディンが口を開く。
「……印象が誤魔化せるだろう?」
目付き、人相の悪さや眼光の鋭さが眼鏡を着用するだけで和らぐ気がしていただけだと返して彼女の顔に手を伸ばした。彼の手から逃げるように身体を微かにのけぞらせて彼女はそっかぁ、と小さく頷く。眼鏡を取り返すのを諦めたように手を下ろした彼が下を向く。俯き前髪で隠れた彼の顔に彼女がずい、と近付いた。すらりとしたヴィエラの指が額を撫でるようにルガディンの前髪をかきあげる。急に開けた視界とそこの大半を占める彼女の真剣な表情に気圧されるように彼は目を瞬かせた。ふむ、と眼鏡越しに真剣な眼差しの彼女が口を開く。
「確かに」
そこは否定しないのか、と彼が苦笑しているとでも邪魔じゃない?とまたずれた眼鏡を整えた彼女が尋ねてきた。伊達眼鏡なのでそういう場面では外せばいいだろうと返そうとした瞬間、唇に柔らかいものが触れる。
「……こういう時とか」
先程まで当てられていた彼女の唇が離れ、揶揄うような声色で言われた。にんまりと微笑んでルガディンに眼鏡を返す。それが言いたかっただけでは、と思いつつルガディンが眼鏡をかけようとすると、彼女から強い視線を感じた。据え膳、とでも言いたいのだろうか。小さく溜息をついた彼はベッドの横に置かれたテーブルに眼鏡を置き、目の前の彼女の腕を引き寄せベッドにそのまま倒れ込んだ。