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    ・アサプラ+ジャクジャン
    ・未来捏造

    【#rstmワンドロワンライ】絵本「では教員室に行ってくるので、二人は少し待っていてください」
    「行ってらっしゃい、フィリップ」
    「ジャック、頼んだぞ」
    「おう」
     任せておけという意志表示がてらにひらひらと手を振って見せると、黒縁眼鏡の向こうでステイルが満足気に目を細めた。それからプライドに向けて小さく頭を下げると、彼はすたすたと扉の向こうへ去って行く。
     ステイルの姿がすっかり見えなくなるのを見送ると、隣に立つプライドがくるりとアーサーに向き直った。
    「じゃあ一緒に待っていましょうか」
     にこりと微笑むプライド。真正面から愛らしい笑顔を受けて、いまだにまったく慣れる気がしない。弾けそうになる鼓動を必死で押さえながら、アーサーはこくりと深く頷いた。
     プラデストの図書室は広い。蔵書数もかなりのものだ。読書家ではないアーサーはなんとなく室内に満ちる厳かな空気感に威圧されてしまうが本が好きな生徒たちには概ね好評らしい。
     それはプライドにも同様のようだった。宮殿の図書館はここよりもっと広大な上プライドはそこにある書架の中身をほとんどすべて網羅しているらしいが、それでも図書室に初めて入った時にはきらきらと紫色を煌めかせていた。
     今も初等部の生徒用に背丈が低く設計されている書架の前で膝を抱えてしゃがみ込んで、整然と並んでいる背表紙をしげしげと眺めている。人差し指を伸ばして一冊を引き出すと、その表紙を見下ろして嬉しそうに口許を綻ばせた。
    「ジャック、これ、……あ、ジャックは絵本は読まないのだったっけ」
     振り返ってアーサーをちょいちょいと手招きするプライドの隣に、同じように膝を折って座る。以前ちらりとだけした話をきちんと覚えているプライドに想定外のところで喜ばされつつ、膝の上で両腕を組んで彼女の方を覗き込むと、プライドはこちらに本の表紙を掲げて見せた。
     それは一見して絵本と分かる、温かく柔らかいタッチのイラストだった。プライドが普段読んでいる本の何分の一か程度の厚みしかなく、長方形ではなく正方形に近い形をしている。
    「この本も知らない?」
    「知らない……です。ジャンヌが好きだった絵本すか?」
    「いえ、ティ、……妹がよく読んでいたの」
     懐かしいわとプライドは目を細め、本を膝の上に載せたまま他にも数冊をひょいひょいと書架から引っ張り出していく。アーサーはプライドの膝に載っている本を「持っときます」そっと拾い上げ、手に取ってよく眺めてみた。
     プラデストの蔵書のうち何割かは城下の民からの寄付で賄われたという話を聞いたことがある。この本もそうなのか、それとも開校数週間で幾度も貸し出される人気作なのか、四隅は擦り切れ、ややくたびれていた。
    「こっちも、この本も……あの子が好きで、何度も一緒に読んだわ」
    「へぇ……どういう話なんすか?」
    「どれも、お姫様と王子様の恋の話ね」
    「こッ!?」
     迂闊にも自爆必至な話題を振ってしまったかと冷や汗が噴き出る。動揺をなんとか抑えつつもプライドが手に取った本をすべて渡してもらうよう身振りで訴え、手渡された本を抱えて立つと書架近くの机に置いた。備え付けの椅子を引けばプライドはそこへ大人しく腰を下ろす。
     数冊重ねた絵本の山から一番上に載っていた本を手に取るプライド。金髪の男女――色鮮やかなドレスに礼服を着て手を取り合う少年と少女のイラストをそっと撫で、しみじみと懐古するように目尻を下げた。
    「呪いで倒れてしまったお姫様を、素敵な王子様がキスで目覚めさせるのよ」
    「キスで……?」
    「ああ、こっちの本もそう。王子様のキスがきっかけで、寝坊助のお姫様が起きてくるの」
    「特殊能力ですかね……?」
     他人を眠らせる特殊能力なら聞いたことがあるが、起こすというのはあまり聞かない。それもキスなどという限定的な手段で、ともなれば終ぞ耳にしたこともない。
     目を丸くするアーサーから放たれた言葉に、プライドも同じようにぱちくりと目瞬きをした後、
    「ふ……アハハ!」
     と唐突に大輪の笑みを咲かせた。あまり見せないような、素直に楽しげな破顔に、心臓がドキンバクンと大きく暴れる。年齢の下がった肉体に合わせて精神も少しばかり幼くなっているのか、無防備に表されるあどけない笑顔はあまりにも破壊力に長ける。
     ……いや、プライドはこの外見の時分でもこんな風に笑うことは滅多になかった。王族として幼少から厳しく教育を受けた為、控えめな笑みを見せることは多かれど喜色満面に笑顔を咲かせて声を上げる姿は、何年も付き従うアーサーでも見慣れない。
    (ッ、〜〜、メチャクチャ可愛い……)
     耳朶が熱を帯びるのを気にしつつ、プライドの珍しい表情から目が離せないでいると、ようやっと笑いを収めた彼女が愉快そうに言う。
    「そうね、そうなのかも。当然のように受け入れていたけれど、ある意味特殊な力には違いないし」
    「ジャンヌも、こういう王子様に、憧れたりしたンすか……?」
     おかしそうに絵本の表紙を眺めるプライドに、ほとんど無意識にそう問い掛ける。ハッと気づいた時には口からこぼれた言葉はもう取り返しがつかなくて、思わずゴクリと唾を飲んでプライドの様子を窺った。
     プライドは少し考え込むように小首を傾げて、それからぷるぷると明確に首を振る。
    「ちょっとくらいはあったかも……だけど、私は、王子様もだけど、騎士様も同じくらい好きなの」
    「そッ……そ、すか……」
     そうして、ふふ、と悪戯っぽく口角を上げる仕草はもういつもの柔らかな笑顔によく似た表情だった。彼女の言葉の真意は、分からない。分かりようもない。少なくとも今のアーサーには。
     意識してプライドを直視しないよう視線を斜めに彷徨わせながら、アーサーはぎこちなく彼女の正面の椅子を引いてようやく腰を下ろす。服の上から荒れ狂う鼓動を治めるようにグッと胸を圧迫し、ステイルの早めの帰還を心から祈った。



     ■□■



    「……っていう話をしたことを思い出したわ」
    「あれって王子の方からキスするンすよね!?」
     寝台から腹筋の力だけで跳ね起きたアーサーは、その瞬間全身にドッと血が巡り出すのを感じる。途端に鈍い痛みが後頭部に走り「痛ッ……」と反射的に手のひらを伸ばせば、指先にぽっこりと膨れた感触。立派なたんこぶだ。
    「まだ横になっていなきゃ!」
     至近距離に顔を寄せてきていたプライドが大慌てで身を離すと、アーサーの両肩を必死に手で押してくる。んんーっ! と力を籠めて呻き声を上げるものの騎士の身体はぴくりとも微動だにしない。
     プライドからじろりと睨みつけられる前に空気を読んだアーサーは、大人しく枕の上に自分から頭を逆戻りさせた。ひと仕事終えてふぅと溜息を吐くプライドの顔を下から眺めている内にようやく現況が掴めてくる。
     ――訓練場で演習をしている最中だった。新兵の一人の特殊能力が暴走し、付近にいた数名の騎士を巻き込んでの小規模事故を生じたのだ。件の能力が『発火』であったのが災いし、それは瞬く間に訓練場内での小火騒ぎへ発展した。
     騎士団に所属している放水の特殊能力者が主に消火にあたった為、火災自体はすぐに事なきを得たが、自身の生み出した火に巻かれかける新兵を視認していたアーサーは咄嗟に救出へと足を走らせていた。彼を炎から引き剥がして渾身の力で遠くへ放るとすぐに自分も離脱したが、放水の影響でにわかにぬかるんだ地面で勢いよく足を滑らせて転倒……頭を打って気絶という結末だった、と思う。思い返すに何とも恥ずかしく無様を晒してしまったと身を捩りたくなる。
     周囲を見回せばどうやら救護塔の個室の一つのようで、室内には寝台に押し込まれた(今は自分で横になったが)アーサーと、簡易椅子に腰を下ろして心配そうに柳眉を寄せるプライドの二人きり。既に治療は済んでいるようで、強かに打ち付けた後頭部には包帯が巻かれているから医師も退出済みなのだろう。あれから数時間は経過しているのかもしれない。
     ふとアーサーの額にかかる前髪をそっと掻き分ける細い指先。冷たい指を数本まとめてそっと掴む。自分がここにいる理由は分かった。プライドがいるのは、自惚れを承知で言えば、アーサーを心配して駆けつけてくれたのだろう。スッ転んで昏倒する婚約者を𠮟りつけに来た可能性も否定できないが。
     ――それでも確認しておきたい点が一つ。
    「あの、さっきの、やっぱり……」
    「……駄目だった?」
     アーサーがおそるおそる訊ねると、プライドはこてんと首を傾げて上目遣いで逆に問うてきた。また心臓が爆速で高鳴り始める。この人はつくづく、心底、傷病人の近くに置くべきではない。
     目覚めた時のことを思い出す。覚醒したてで靄がかっていた記憶が徐々に明確な輪郭を取り戻すにつれ、いよいよ先ほどの『あれ』が現実のこととしてアーサーの身を焦がしていく。
     何度も呟かれる己の名。呼ばう滲んだ細い声。……唇に触れた柔らかい感触。
    「お医者様は目が覚めたらもう心配ないって言っていたし、早く起きてほしくて。……私にも『あの』特殊能力、使えたみたい」
     そう言ってはにかむプライドの指先を握る力が思いがけず強くなってしまう。そのままくいっと指先を引っ張れば、意図を察したプライドがゆっくりと身を屈めて顔を寄せてくる。
     宝石のようにきらきらと濡れたように光る双眸は、まだほんの少し不安に翳っていた。それからきゅっと小さく唇を尖らせるプライド。ころころと変わる表情をずっと見ていたくて大きな瞳を覗き込む。
    「……あまり心配させないで。心臓が止まるかと思ったじゃない」
    「さっきは俺が止められそうでしたけど……」
     でも、すみませんでした。生真面目にそう謝りながら、プライドの後頭部へそっと手を伸ばした。柔らかな深紅を指先で梳いてから手のひらを添え、強く引き寄せる。
     ゆっくりと近づく薔薇色の蕾へ、今度はアーサーからそっと唇を重ねた。直前に目蓋を閉じるプライドを見、『あの』特殊能力を彼女から受けるのは、今までもこれからも、自分だけであれば良いと願いながら。



     おわり
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    namu3333333

    DONE・アサプラ(未満)
    ・アーサーが近衛騎士になってすぐくらい
    ・色々捏造
    【#rstmワンドロワンライ】ピンチ「では、姉君。申し訳ございませんが、少々お待ちください」
    「全然大丈夫よ。ごゆっくり、ね」
    「アーサー、よろしくな」
    「おう」
     ひらひらと手を振ってステイルに笑いかけると、義弟はぺこりと恐縮したように頭を下げて背後のドアの向こうへ消えて行く。護衛で城から付いてきてくれた衛兵も一人その後ろに続いて行った。
     城下町の中央市場。ここは訪れる大半が中級層の住民で、警邏の衛兵もあちこちに立っており城下街の中でもかなり治安の良い地区にあたる。目の前の活気ある光景にプライドは我知らず口許を緩めた。


     定刻通りに切り上げた視察の帰り、買いたいものがあるというステイルの言葉で一行はこちらに立ち寄っていた。
     王族のプライドたちにとって欲しいものがある時は宮殿に商人を直接呼ぶ場合がほとんどだが、機会があればやはり直接店に足を運びたいという気持ちはある。昨日交わした雑談の中で、ステイルが足りなくなりそうなインクや便箋があると言うので、それならばこの機会にとスケジュールを調整し、こうして文房具を取り扱う専門店にやってきたところである。
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