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    namu3333333

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    ※他の誰かとハッピーエンドを迎えたプラさまと、その軸のアサの話
    ※アサプラではないですが原作程度にアサがプラさまを慕っています

    * プライド・ロイヤル・アイビー殿下の婚姻式典は昼夜を通してそれはそれは盛大で華やかで厳かで、そしてすべての民の祝福に包まれて執り行われた。民だけでなく彼女の結婚は王城内部をもたいそうな歓喜で湧き上がらせたし、同盟国、隣国、貿易国、世界中ありとあらゆる場所で彼女と彼女の伴侶が手にした大きな幸福について取り沙汰された。
     滞りなく締め括られた式典の後、城下では一週間ほど皆の愛する王女殿下を祝うための祭りが開催されるという。露天市場には出店もたくさん立ち並ぶし王城出資の祝い金で祭りの期間中はほとんど何でも格安で振る舞われるのだとか。資金繰りに奔走していた宰相の顔を思い浮かべれば疲労の色濃い姿もあったが、ここ数日はそれに勝って有り余るほど楽しそうに、充実した様子を見せていたように感じた。
     夜半。アーサーは第一王女殿下と……次期王配殿下の寝室の前に立っている。すっかり着慣れた騎士隊長服はいつもより入念にアイロンがけされていて、そのうち侍女に申し出て繕ってもらおうと思っていた上着裏の小さな綻びすらも消えていることに袖を通す時に気が付いた。
    「大丈夫か? ……おい、アーサー」
     寝室へ続く大扉を挟んで隣に立つエリックが潜めた声で呼びかけてくる。しんと静まり返った廊下にはアーサーとエリックの二人しかいないのに、名を呼ばれるまで自分へ声をかけられていることがちっとも察せられなかった。
     深夜のため明度を絞られた、とはいえ防犯のため最低限には灯されたままの照明に浮かび上がるエリックの表情はひどく気遣わしげで、見ようによってはなんだか泣きそうにも思えた。どうしてそんな顔でこちらを見ているのか分からず、アーサーはにわかに狼狽える。
     今日は、……今夜は、フリージア王国のすべての民が等しく幸福に身を置いて良い夜だ。エリックも例に漏れることはない。事実、式典中のエリックは感慨深げに目を細めてプライドと隣に立つ彼の姿をじっと見守っていた。すべての民が等しく幸福を甘受する今日、そのすべてよりもっともっともっと幸せに満ち満ちた顔をした二人を。
    「な、何すか?」
     アーサーが困惑を滲ませた声でそう訊ねるとエリックは逆に虚を突かれたように目を丸くする。
    「いや、だってお前、……」
     何か続けようとした言葉をぐっと呑んで、エリックは小さく肩を竦めた。それから後ろ手に回した両腕をぎこちなく組み直して「……顔色が悪く見えた。照明のせいだな、悪い」と低めた声で返す。アーサーはその言葉をすんなりと受け入れた。自分から見てもエリックの表情はどこか不自然だったし見間違えるのも仕方ないことだ。
     しかし指摘されたことでなんだか妙に気になってしまい、手袋をはめたままの右手で自分の顔をぺたりと触ってみる。厚い布越しで分かることなど何も無かったが、代わりに手指が細く震えていることを知った。プライドが大きくて温かくて安心すると褒めてくれた手だ。昔から幾度となくそう告げられ、その度にアーサーは自分の手が好きになった。今までもそうだしきっと絶対これからも変わらない。
     いま自分の手が震えていて足元がなんだかフワフワと覚束なくてうっすら気分が悪くてほんの少し吐きそうで頭に血が回っていなくて額の裏側が氷みたいに冷えているのは、数日前からよく眠れていないせいだ。式典が近づくにつれて緊張しっぱなしのプライドに中てられたのだ、と思っている。変に失敗しないかしらと不安そうに柳眉を寄せる彼女に、アーサーは微笑んで、絶対大丈夫ですと何度も伝えた。それに万が一失敗しても、あの……あの方は、そんなこと気にしないっすよ。プライド様だってよくご存知でしょう。だから貴方は何も心配しないで幸せになることだけ考えていてください。
     プライドの幸せだけがアーサーのすべてだ。傍にいると誓ったあの日からずっと、今この瞬間に至るまで。そうして明日からもプライドの幸せがアーサーのすべてであり続ける。不変の真実。
     いつだって彼女の傍にいたいから、今晩もここに立っている。結婚式当夜といえど次期女王の閨に護衛が立たないことなどありえない。慣習では特に常と変わらない配置で衛兵がつくことになっていたが、プライドには近衛騎士という絶対の存在がある。それ故今夜の彼女の安寧を守るのは当然のように近衛騎士の任務となった。
     ここに立つ人員として、アーサーは立候補していた。この話を騎士団長室で聞かされた時ほとんど反射的に挙手して自分がやりますと発言したアーサーを団長も副団長も他の近衛騎士も驚いたように見つめていた。アーサーとしてはむしろ驚かれる謂れがなかった。プライドの傍にいられるのならば時も場所も構わないのだから。寝ずの番だってもちろん慣れているから苦にならない。
     それから話し合いで選出されたエリックと二人、プライドの寝室の扉の前に近衛騎士として胸を張って立っている。
     廊下の明かりは落とされているが扉の反対側には大きな硝子窓がたくさん並んでいて、カーテンのないそこからは時折白々しいほどに冴えた月明かりが絨毯に落ちてきた。夜空の雲が切れて騎士靴の先端を月光が撫でるたび、アーサーはぐっと足の裏に力を籠め直して靴底を強く踏みしだいた。寝不足だとか何だとか、そんな理由で任務を疎かにできるわけがない。
     宮殿内はひどく静かだった。黙っていると鼓膜には窓の向こうのざわめきがわずかにだけ聞こえてくる。遠い城下の光と共に歓呼のこだまが風に乗って王城を揺らすようだった。
     その時、思わず澄ませた耳が――枝葉の擦れるよりも微細な、小さな小さな声を拾う。何を言っているのかは当然、どちらのものとも知れない、声とも音ともつかない何か。けれど、とはいえ、それが扉の向こう側から発せられたものであることは疑いようもなかった。
     昼間のプライドを想い返す。十余年すぐ傍で見てきたアーサーには断言できる、今までの人生で一番優雅で、可憐で、艶やかで、こちらの背筋が伸びるほどに綺麗だった。そして、誰より、嬉しそうだった。
    『ありがとう、幸せよ』
     民に、臣下に、騎士たちに祝われ、その都度目尻を下げて返すプライドの言葉は真実だった。アーサーでなくとも疑うべくもない本心と分かるだろう、はにかんだ、愛らしい笑顔。
     扉の奥からぽそぽそと漏れ聞こえる声、音。エリックがもぞりと居住まいを正すと、騎士服の衣擦れがか細いその音をあっさりと掻き消した。アーサーが両脚を踏みしめ直すと腰に下げた剣鞘が鈍く硬質な音を立てる。後ろ手に組んだ指に思い切り力を籠めるとようやく震えが収まった。ぐるぐると内臓全部をひとまとめに鍋で乱暴に煮込まれているような息苦しさ。冬でもないのに冷え切った全身の中で目蓋の裏側だけが燃えるように熱く、鼻の内側がつんと痛む。
     ふと無意識に口角を歪めていたことに気づいた。笑うしかない、なんていう状況が本当にあるのかと冷静な頭の隅で考える。ただ護りたいだけだったのに、いつから自分はこんなに傲慢になっていたのだろう。
     ――いつか昇華できる日が来るのだろうか。意外と数日もすれば折り合いがつけられるような気もするし、そんな日はこの先一生来ない気もする。そして未来永劫訪れないとしても、この場所にしがみついていたい気持ちはもはやアーサー自身にも折ることができないほど硬く、強く育ちきっていた。
     本当に願っている。心底、全力で祈っている。プライドの幸せを。今までもこれからも、死ぬまでずっと護りたいと思う。それなのにどうしてなのだろう。喉の奥、身体の真ん中の深いところがごうごうと燃えている心地がして、けほ、と小さく咳払いをする。アーサーは近衛騎士となって初めて、自分から、プライドの傍を逃げ出したくて堪らなかった。



     happy end
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    Replies from the creator

    namu3333333

    DONE・アサプラ(未満)
    ・アーサーが近衛騎士になってすぐくらい
    ・色々捏造
    【#rstmワンドロワンライ】ピンチ「では、姉君。申し訳ございませんが、少々お待ちください」
    「全然大丈夫よ。ごゆっくり、ね」
    「アーサー、よろしくな」
    「おう」
     ひらひらと手を振ってステイルに笑いかけると、義弟はぺこりと恐縮したように頭を下げて背後のドアの向こうへ消えて行く。護衛で城から付いてきてくれた衛兵も一人その後ろに続いて行った。
     城下町の中央市場。ここは訪れる大半が中級層の住民で、警邏の衛兵もあちこちに立っており城下街の中でもかなり治安の良い地区にあたる。目の前の活気ある光景にプライドは我知らず口許を緩めた。


     定刻通りに切り上げた視察の帰り、買いたいものがあるというステイルの言葉で一行はこちらに立ち寄っていた。
     王族のプライドたちにとって欲しいものがある時は宮殿に商人を直接呼ぶ場合がほとんどだが、機会があればやはり直接店に足を運びたいという気持ちはある。昨日交わした雑談の中で、ステイルが足りなくなりそうなインクや便箋があると言うので、それならばこの機会にとスケジュールを調整し、こうして文房具を取り扱う専門店にやってきたところである。
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