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    namu3333333

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    ・アサプラ
    ・未来捏造(婚約者設定)

    【#rstmワンドロワンライ】かえるばしょ「すっかり遅くなっちゃったわね……」
     城下視察からの帰路。
     王城内に入り舗装された石畳を行く馬車に揺られ、プライドはようやく肩の力を抜いてふぅと小さく息を吐いた。宮殿の馬場まではもう少し時間が掛かるし、馬車を降りてからは視察で聴取した内容を提出書類にまとめなくてはいけないが、それでも窓の外に見慣れた庭園の風景が映り始めるとどこか安心してしまう。
     既に日暮れもとっくに過ぎた、朧月の夜だった。今日は各々城内で職務や勉強に励んでいたはずの弟妹はもう夕飯を済ませただろうか。もし自分を待っていたりしたら、嬉しいけれどちょっぴり忍びない。うっかりすると鳴ってしまいそうな胃をそっとドレスの上から押さえて空腹具合を確認する。
    「お二人とも、こんな時間まで付き合ってくださってありがとうございます。疲れたでしょう」
    「とんでもないです、任務ですから!」
    「自分たちは全然です。プライド様こそ、お疲れではないですか?」
     馬車の向かい側に座る近衛騎士に微笑みかけると、二人は揃ってぴっと背筋を真直に張り直して答えた。にこりと笑うアランは確かに常と変わらない溌剌とした明るい表情だし、逆にこちらを気遣ってくれるエリックの顔にも強い疲労感は見えていないことにほっと胸を撫で下ろす。護衛なんて神経を遣う仕事だろうし長引くほど精神的な負担も大きいのではと申し訳なく思うが杞憂だったようだ。何年もこの勤めに就いてきているだけあって抜きどころも心得ているのだろう。
     御者台に座っている衛兵や外で護衛に付いている衛兵も、必要以上に疲れさせてはいないだろうか。少し気にかかって外に目を凝らすが濃い闇の中で護衛の姿はうまく判別できなかった。小路の脇に等間隔に設えられた庭園灯の明かりは足元を照らす程度の光量だ。
     プライドの視線を追って窓の外を見遣ったアランが「ん?」と不意に小さく声を漏らす。
    「ようやく帰って来たか? あれ、十番隊の奴らだな」
    「え? アラン隊長、見えるんですか?」
     驚いてぱちくりと目瞬きを繰り返すプライド。アランの声につられて腰を浮かせ、反対側の窓から頭を突き出したエリックが「あー……」と馬車の外で何か得心したような声を漏らした。
     中へ戻って座り直しながら「そうみたいです。当初の帰還予定は二日前でしたよね。長引いているって報告ありましたけど、やっと終わったんですねぇ」とエリックは安堵したように頷いた。風に煽られて乱れた前髪を手櫛でちょいちょいと直す後輩に「なー」と破顔するアラン。
    「お、お二人とも、視力が良いんですね……」
     プライドも改めて目を凝らしてみるが薄曇りで月明かりもない闇の中だ、近くに建物の輪郭がなんとなく見えていたり、その手前で何かがもそもそと動いているのが分かる程度だった。……もしかしてあれが騎士なのかしら。そう言われてよくよく観察してみると、その建物は騎士館に付随の馬房なのだということが分かった。いつの間にか騎士団演習場の付近まで来ていたらしい。じっと睨むように窓の外を見続けていると徐々に目が馴れてきて、輪郭以外の細部もぼんやりとだが掴めてくる。馬房の外で何人かの人間が動いているのも見て取れた。
     そしてその段になってようやく、十番隊の帰還、という二人の言葉が何を指すのかに思い至る。国境付近で確認された小規模盗賊団の摘発と掃討。それが十番隊に与えられている任務だったはずだ。そしてその任務は十番隊だけに宛がわれたものでは、ない。
    「ッ、八番隊もいますか!?」
     思わず馬車の中で立ち上がりかけ、天井に頭を打つ寸前でハッとして急停止する。不格好な中腰の姿勢でひっくり返った声を出してしまったが、構わず目の前のアランにぐいっと思い切り詰め寄った。同じ勢いで座席の背もたれに全力で身を引いたアランが「いいいいいました、何人かしか見えなかったですけど確かに八番隊の騎士もいたかと!」と早口で引き攣った声を返す。
     そんなアランの隣でエリックが愉快そうに口角を上げる。
    「プライド様、確認しますのでお待ちください」
     そう言い残してエリックがもう一度窓の外へ顔を出す。我に返ったプライドがそろそろと座面に腰を沈め直すのに合わせて、アランが細く長い息を吐き出すのが聞こえた。いきなり至近距離へ顔を寄せたから大分怖がらせてしまったようだ。胸中で反省する。
     ややあって、こちらへ向き直ったエリックがにこりと優しい笑みを浮かべた。
    「馬場にいますよ。馬車を回」
    「降ります!!」
     彼の言葉を最後まで待てずに言い放ち、プライドはゆるやかに走行する馬車の扉を押し開けてひらりと石畳へ身を躍らせた。暗夜の中でも靴底は危なげなく地面を捉える。
     背後から近衛騎士が泡を食った声が聞こえてくるが振り返れない。馬車に並走していた衛兵が「プライド様!?」と悲鳴じみた声を上げるが視線を向ける余裕もない。構わず真っすぐに走り出す。
     ドレスの裾が足に絡まって走りづらいけれど、もどかしさに奥歯を噛みながら必死に足を動かした。ふと夜空を覆っていた朧雲が途切れ、向かう先の馬場に細い月光が絹糸のように零れ落ちてくる。
     その光の落ちる先、満天の星よりなお眩しく美しい銀色がきらりと反射してその所在を示した。
    「アーサー!!」
     切れそうになる息の合間でなんとか呼べば、驚いたようにこちらを振り返って瞠目する澄んだ青。磨かれた靴で石畳を蹴って脇目も振らずに飛び込めば、彼女を迎えるために大きく差し出された両腕はしっかりとプライドの身体を抱き止めてくれた。
     土埃と泥に汚れた団服。ほんのりと染み込んだ血と硝煙のにおい。その奥で確かに跳ねる力強い鼓動。
    「プライド様!? なンでここに!?」
     動揺しながらも彼女の背に回した腕に強く力を籠めてくれるいとしい人。
     プライドはアーサーの腕の中でほっと一つ吐息を漏らす。心配は、していなかった。絶対無事に帰ってくるって知っていたから。不安も、なかった。誓ってくれたから。それでも、寂しい気持ちは確かにここにあった。
     追い付いてきたアランが「アーサー、お疲れ」と苦笑交じりに声をかける。そこでようやく周囲の状況を思い出したアーサーが顔を真っ赤にしてプライドを丁重に引き剥がし、乱れたドレスの裾をそっと整えてくれる。それでも名残を惜しむように腰に回された腕がそこにあり続けるのが嬉しかった。
     丁度視察から帰ってきたところだったこと、そして馬車を飛び降りて一目散に駆けて来たことをエリックから聞いたアーサーが「俺のいない間、危ないことはしない約束だったでしょう」と窘める口調で眉間に浅い谷を作る。
     けれど彼女には、ごめんなさいよりもっと先に伝えたい言葉がある。プライドはぐっと顎を上げて真正面から婚約者の顔を見つめた。そうしてとびっきりの笑顔で告げる。
    「アーサー! ただいま! それから、おかえりなさい!」
    「おッ……お帰りなさい、プライド様。……そンで、俺も、ただいま戻りました」
     耳元を赤くしたアーサーが照れ臭そうに、それでもひどく嬉しげに口元を緩めると、周りの騎士たちもつられたように柔らかい笑みを浮かべる。面映ゆいその光景を、遠くの月がただ静かに見下ろしていた。



     おわり
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    Replies from the creator

    namu3333333

    DONE・アサプラ(未満)
    ・アーサーが近衛騎士になってすぐくらい
    ・色々捏造
    【#rstmワンドロワンライ】ピンチ「では、姉君。申し訳ございませんが、少々お待ちください」
    「全然大丈夫よ。ごゆっくり、ね」
    「アーサー、よろしくな」
    「おう」
     ひらひらと手を振ってステイルに笑いかけると、義弟はぺこりと恐縮したように頭を下げて背後のドアの向こうへ消えて行く。護衛で城から付いてきてくれた衛兵も一人その後ろに続いて行った。
     城下町の中央市場。ここは訪れる大半が中級層の住民で、警邏の衛兵もあちこちに立っており城下街の中でもかなり治安の良い地区にあたる。目の前の活気ある光景にプライドは我知らず口許を緩めた。


     定刻通りに切り上げた視察の帰り、買いたいものがあるというステイルの言葉で一行はこちらに立ち寄っていた。
     王族のプライドたちにとって欲しいものがある時は宮殿に商人を直接呼ぶ場合がほとんどだが、機会があればやはり直接店に足を運びたいという気持ちはある。昨日交わした雑談の中で、ステイルが足りなくなりそうなインクや便箋があると言うので、それならばこの機会にとスケジュールを調整し、こうして文房具を取り扱う専門店にやってきたところである。
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