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    雪ノ下

    @a_yukinoshita

    雪ノ下(ゆきのした)です。
    DIG‐ROCKの日常系SSを中心に色んなお話を書いています⸝‍⋆

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    雪ノ下

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    2022.11.02『たいもひとりはうまからず』再録

    鯛のような美味しい魚や料理であっても、たったひとりで食べるのでは味気なく感じるということ
    転じて、「食事は大勢で食べるほうが美味しく感じられる」という意

    Main:MASHIRO

    #ディグロ
    diglo
    #二次創作
    secondaryCreation
    #SS

    『たいもひとりはうまからず』「……どーっすかな今日」





    制限時間いっぱいまでベースを弾き、借りていたスタジオをでると日はすっかり高くなっていた。

    ちょうど時刻は昼時……が、如何せん腹が減らない。いや、本当は減っているのかもしれないが自ら食事をとろうと思うほどの欲が湧かないのだ。疲労は感じるからそれなりに動いているには違いないし、消費したエネルギーの分だけ空腹を覚えていても不思議はないのだが……結局今日も"ひとりでメシを食うのだ"と思うと、微々たる食欲よりも、それを満たすためにあれこれ悩むのは面倒だという気持ちの方が勝った。



    大抵のことは適当に済ませられると思っていたが、俺って案外繊細なのかもしれない。以前は……ひとりでいることが当たり前だった頃は、むしろ他人と時間を共有するなど鬱陶しいことこの上ないと思っていたのに。

    それがこんなふうに"ひとりで食事をとるのは寂しい"なんて感じるようになったのは、知ってしまったからだ。

    何とはなしにくだらない話をしながら誰かとテーブルを囲んで食事することの楽しさを。

    普段なら絶対口にしないような本音をひっそり零し合いながら飲む酒の美味さを。

    こんな生活をしていることがバレたらクロノあたりに「食事を蔑ろにするな」と怒鳴られそうだ。最近は後輩バンドのギタリストである叶希の私生活にさえ口を出す始末で……まぁ、大学生活にバンド活動と多忙な日々を送っていて、口にするのはほぼカップ麺かコンビニ飯と聞けば世話を焼きたくなるのもわからんでもないが。





    「……アカネちゃん?」





    もう食欲も湧きそうにないしいっそ抜いてしまおうかと考えていたところ、ポケットに突っ込んでいた端末が震えた。画面に表示されたのは我らが王様の名前。今日は全員オフのはずだが、何かあったのだろうか。





    「どしたの?」



    「……あー。やっぱハイジが言った通りだったな」



    「ハイジ?」



    「お前、今から時間ある?」



    「うん。別になんもないから平気……てかハイジが何?全然話が見えないんだけど」



    「いーから。場所はメッセで送るからすぐ来いよ。じゃーな」



    「はっ?いやちょっと待、」





    ブツッ。

    有無を言わさず切れた。まったく相変わらずの要件人間だ。そう思いつつも毎回素直に合流地点まで赴く俺もどうかと思う。

    自分で言うことでもないが、かつての刺々しさがすっかり鳴りを潜めてしまっている。アイツらと過ごすうちに絆されたのか、それとも焼きが回ったのかね。ヤレヤレ。





    「……で、今日は何」



    「これからハイジと巌原さんも乗っけてうち集合。あ、その前に買い出しな」



    「……は?」



    「まさか"めんどくさい"なんて言うんじゃないだろうな」





    運転席からギッと目尻を釣り上げてこちらを睨みつけてきたクロノに違うそうじゃないと慌てて首を振る。

    ったく相変わらず俺に対しては沸点低いんだから……





    「……今日ってなんかあったっけ」



    「べつに」



    「じゃあなんで?」



    「何をそんなに気にしている。いつもは大した用がなくても転がり込んでくるだろう」



    「そう言ってやるなよクロノ。久々だから感覚鈍ってんだろ?」





    クツクツと喉奥を鳴らすアカネが意味あり気に微笑む。といっても優しいそれではなく、意地悪をする時のあの魔王様みたいな笑みだ。





    「数日前に現場ですれ違った時、元気がなかったようだとハイジが心配していた」



    「で。電話かけてみたら案の定」



    「……声聞いただけでわかんの?」



    「そんくらい。何年一緒にいると思ってんだよ」





    馬鹿にすんなよ?と鼻で笑われたが、どれだけ同じ時間を共有したところで"声音だけで体調を判断する"なんて普通じゃない気がするのだが……まぁいい。これ以上突っ込むと面倒なことになりそうだから納得したふりをしておこう。"日暮茜クオリティ"ってやつだ。





    「食は体の資本だぞ。それを蔑ろにするなんて……」



    「まーまークロノ」



    「アカネさんからも言ってやってください」



    「マシロが倒れちまわねーかめちゃくちゃ心配してたって」



    「アカネさん!!」



    「要はそーゆーことだろ?」





    ぐ、と押し黙ったところを見るに図星のようだ。こういうとき誤魔化す程度の嘘もつけないというのは不便だなぁと思いつつ、ニマニマと口角を上げる。





    「みんなでメシ食おうって言い出したのもお前だしな」



    「……わざわざバラさないでください」



    「いーじゃん照れなくたって」



    「違います」





    と言いつつ不自然なほどに顔を逸らすから説得力がない。





    「で、メシ何にすんの?」



    「それがまだ決まってないらしくって」



    「へー。珍し」



    「……今決めました」



    「お。なに?」





    少し渋い顔をして、"マシロの食べたいものを"と聞こえるか聞こえないか程度のボリュームで呟いた。

    最近個人の仕事が増えてメンバーとすれ違う日々が続いていた。今日一緒にメシを食おうと誘ってくれたのは、心からの善意なのだと今更ながらに実感する。

    先程までこれでもかと揶揄ってやるつもりだったのに、そんな気などすっかり失せてしまった。
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