ルジェ 泡だったスポンジで白い皿を擦る。シンプルな食器一つとっても小さな花の絵が入っていたりしてやけに優雅だ。すっかり汚れの落ちたそれをシャワー状の水で流し、近くの水切りカゴに並べた。
家事をやるようになった。といっても元がだらしなさすぎて『比較的』ってレベルだ。デリバリーやゼリー飲料で手軽に摂るだけだった飯を減らし、ミートローフと餃子くらいは作れるようになった。つまり、肉を捏ねて焼くのが美味くなった。おかげで道具や食器も増えて棚を買い足したほどには充実した生活を送っている。
まさか俺がこんな風になるなんて思わなかった。
親父の背中を追ってきたとはいえ、その家庭的なところは全く見習ってこなかった。軍やらPMCやらと家に居着かない仕事を続けていたら自炊をする暇や理由もない。一人暮らしだし。インストラクターを命じられた最近になってやっとその時間が出来た、が――。
蛇口を閉じる。
バックラー社のロゴが入ったタオルで手を拭いているうちに、誰かさんの顔が頭に思い浮かんだ。ドヤ顔でこのキッチンに立っていた日を思い出す。包丁の扱いやら火加減やら片付け方やら、まあ煩かった。魚の捌き方を聞いたら黙ってたけど。ナイフ一本で全部処理できる分、俺の方が上じゃねえか? なんて思う。
それでもあいつの料理にはまだ及ばない、とわかっているのがまた悔しい。
「なにニヤけてんだ? ルーク」
不意に、肩へ腕を乗せられた。ジェイミーは俺に寄りかかりながら、逆の手で一房だけ下ろした前髪を払った。こいつの方がよっぽどニヤけている。
「何でもねえよ」
仕返しに丸出しの腰を抱いた。「冷てぇ」と身を捩られても逃がさず、二人して暢気な顔のままソファになだれ込んだ。