「オーターちょっと付き合えよ」
中庭に面した廊下に出た途端、そんな声が聞こえてきた。恋人の名前に思わず辺りを見回すと、背の高い後ろ姿がふたつ、揃って廊下の先に消えていくところだった。その先は喫煙室だ。
(……煙草、吸うのか)
別に知らなかったわけではない。過去には吸っていたというのは何かの折に聞かされたし(たぶん神覚者の飲み会)、彼は自分と交際を始める前にはやめていた筈だ。だからショックだとかそういうのではなく。
(……見てえ)
彼が喫煙している姿を見たことがない。単純に見てみたかった。しかし声をかけようにも後ろ姿は既に喫煙室の中に入って行ってしまった。今まで一度も入ったことのない部屋。用もないのに自分が足を踏み入れるのははばかられる。喫煙室は廊下のどん詰まりにあって前を通り過ぎるというのもできないし、そうこうしている間に彼らは出てきてしまうだろう。忙しいオーターがいつまでも休憩しているとは考えにくい。詰みだな。仕方なくレインは諦めて元々行こうとしていた方へ足を向けた。
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