10月25日(31日目)10月25日(31日目)
視察に行った。竜子公はノースディンと親交のあった女性たちに話を聞いて回っていた。彼女らは「優しいあの人がっ、心配」「あの方は男らしくて紳士だから、きっと人助けをして事件に巻き込まれてしまったんだわ」「スマートな方ですし、きっと自分で解決なさって帰ってきますわ、元気を出して」などと彼を褒めていた。雌に堕とした男のかつての姿を知った時の快感といったらない。酒の肴にずっと聴いていたいものだ。
そしてもう一つ、良いことを聞いた。「ちょっとでも失言があると、『自分は善くない』って気にするようなひとだった。何かショッキングなことがあって、自分で身をお隠しになったんじゃ……」彼には善への憧れがあるらしい。頭に留めておこう。
屋敷に帰ってからの竜子公はぶつぶつと「自ら失踪した可能性か……考えてもみなかった……俺がもっと向き合っていれば……ノース、すまん……」などと独り言ちていた。
13時、彼の許へ戻った。彼は部屋の隅、座位の不安定なぬいぐるみのように、壁に凭れていた。表情は虚無で、瞬きしか行わない。
「こんにちは、ノースディン。」
傍へ寄り顔を近づけても、視線を動かすことさえしない。ショックを与えすぎたようだ。
「おや、そうなってしまったらつまらない。」
私は嘆息した後、変身した。
「大丈夫かノース。」
竜子公だ。先程まで見ていたからか上手く変身出来たようで、能面のようだった彼の顔が、みるみる朱に染まり、般若の如く怒りに振るえ出す。更に姿を変え、畳み掛けてやる。
「絶対救けに行くから、頑張って。」
彼にとっての神、竜大公だ。おそらく粗の多い変身だったと思うが、彼はそれに気づけないだろう。煮えたぎるような憎悪で視界が赤く染まっているだろうから。
「貴様ッ……!!」
血管の浮き出るほど強く拳を握り、殺意にぎらつく瞳で私を射抜いてきた。感情を取り戻してくれたようで何よりだ。あと27日間、私を楽しませて貰わないと困る。
15時、牢の壁を殴ったり、隙間を探したりしている。外へ出ようと足掻く姿を見るのは監禁当初以来だ。希望を持つことは素晴らしい。堕落させるのがいっそう愉しくなるからだ。
18時、座って宙を眺めているが、表情には理性がある。何かを思考しているようだ。
20時、眠っている。手帳を確認したが、今日は何も書かなかったようだ。