11月1日(38日目)11月1日(38日目)
調教中にいくら蕩けても、終われば虚無に襲われるのであれば、それはただの快楽漬けに過ぎない。心も飼い慣らさなくては意味がない。与えるだけの行為ではなく、彼に彼自身を受け入れさせ、彼から行為を求めさせることが肝要だ。
「今日は、映画を見て過ごしていなさい。」
普段の彼であれば好まなそうな、暑苦しいヒーロー映画や、甘ったるいラブコメディなど、いずれも頭を使わずに見られるようなものをあえて渡した。なぜ渡したかといえば、『普段の彼』ではないからである。どれか一つでも、琴線に触れるものがあればいいのだが。
渡しても薄ぼんやりとした表情は変わらず、しかし、緩慢に手を伸ばし、一つ手に取った。選び取ったわけではなく、手を伸ばした先にあったものを何となく掴んでみた、という感じだった。
「これですか?流しますね。」
彼に任せていては埒が明かないので、ビデオを受け取って映像が流れるようにした。軽快な音楽と共に、ビビッドカラーの兎のような生物が動き出す。明らかに子供向けのようだが、彼はテレビ画面を眺め、目を逸らす様子はない。しばらく放っておくことにした。
竜の一族の全勢力を使って、世界中に捜査網を張り巡らせているらしい。
最近は屋敷とノースディンの牢を行き来する生活だったから、竜の様子を見に行って驚いた。あの平和ボケなノロマ一族が、殺気立って飛び回っているではないか。
城へやってきて、一言二言会話したかと思えば、直ぐに飛び去っていく。見知った顔の古き吸血鬼も、ヤハウェの姿もあった。あの能天気な快楽主義者がまじめ腐った顔をしているので嗤えた。
一方的に盲目な愛を捧げているかと思いきや、愛されているじゃないか。今まで見てきたノースディンの性格を考えれば、本人は気づいていなそうだが。
仕事を終わらせて、13時頃、ノースディンの許へ帰ってきた。
「ただいま、ノースディン。」
深夜にも会ったのでそう言ってみた。すると、初日に見たような小馬鹿にするような笑みを浮かべて、彼は言った。
「おかえりなさい。ご主人様?」
この顔だ。嬉しかった。まだこの顔が見られるということも、私が指先で背を撫で上げただけで、欲情し切っただらしがない表情に変わるのだろうという、確信を持てることも。
「今日は、貴方の一族の様子を見てきましたよ。みんな貴方を心配して、忙しなく飛び回っていました。」
見てきたことを嘘偽りなく話してやった。案の定、彼は訝しげにした。
「……本当か?」
愛されている自覚が足りない。彼は、本当に、調教するのに向いている。
「真実をここで知ることはできません。それならば、信じてみた方が良いでしょう。貴方は、貴方を待っているひと達の許へ、帰るのです。」
彼は俯いて、何やら思案した後、やがて頷いた。そして、私をちらと見上げてきた。その瞳には昨日のような虚無はなく、私への反抗心が滲んでいた。
これで希望は持てただろうか。調教への集中が逸れたとしても、今はそれでいい。いずれその希望さえも、私に擦り替えてしまうまでだ。