本編ボツシーン「よぉ」
「っ……キース……!!」
彼の顔を視認して、ラスカルはとにかく安堵した。
安堵と勢いのままに彼の腰に抱きつけば、キースはびくっと腰を引く。
それでもラスカルは離れなかったけれど。
「どうした、何かあったか。ん?」
「なんでもないよぉ……きみに会えて嬉しいだけ」
「はいはいそれはどうも。それよりメシ作ってくれ。ベルトがキレそうだから」
「それよりもキース。パンツ貸しておくれ」
「パードゥン?」
「パンツ。汚れちゃったんだ」
何の冗談かと思ったキースだが、ラスカルは真面目に困った顔だった。
旅人として世界を渡り歩いた彼でも、(腐っても女性に)下着を貸せとか言われた経験は無い。
「アホか!!いやアホにアホかって疑いかけるのは失礼だな、お前はアホだ!」
「うん、よく言われる」
「お前自分の下着はどうした!」
「トランクスがいくつかあるけど洗濯中」
「何で女物じゃねぇんだよ!」
叱れば、ラスカルがますます困った顔をする。
「だって、そんなの許されないと思ったから。ぼくが女の体になったの、許さないと思うから」
「あ?許されないって、誰に」
「…………ルーク」
呟かれた名前で、キースはだいたい察した。
それから、また出たと呆れる。
同僚といはいえ、こうも毎度同じ名前ばかり繰り返すのを聞いていると、正直辟易する。
だが仕方ない、亡き友人こそがラスカルの神様なのだから。
ーー考えたことはないかね、誰かの神様になってみたいと
「……」
……神様。
同僚たちの神様を、キースは知る限り思い出してみる。
ラスカルの神様はルーク少年。
カリンの神様は、死んだ妹。
二ルの神様は、初恋の男だろう。
ベルトは…………パティ、なのか微妙なところだが、そういう事にしておく。
みんな、誰かしらの神様なのだ。
キースは思う。
自分も誰かの神様になり得るのだろうかと。
「あらいぐま」
「んん?」
「……、……え、っと」
視線を宙に迷わす。
思っている事はひとつ。
『お前は僕を神様にしてくれるか?』
そのままラスカルに話そうか。話せばラスカルはどんな答えをくれるだろう。
「どうしたの」
ラスカルの顔に視線を戻してみた。
潤んだ瞳。
僅かに上気した頬。
緩く微笑みつつも半端に開いた唇。
キースの思い込みだと言えば終わりだが、彼にはラスカルが『女』の顔をしているように見えた。
……あぁ、違うな、こいつ。妙に失望感を味わった。
「……なんでもない。それより早くメシ」
「その前にパンツ」
「貸さねぇよ?」