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    @owari33_fin

    アズリドとフロリドをぶつけてバチらせて、三人の感情をぐちゃぐちゃにして泣かせたい

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    ミーティア3️⃣ Az-8『地獄のインターンシップ』

     朝、カーテンのない部屋は強烈な朝日が差し込み、僕の眼球を焼いた。
     目をショボショボさせて起き上がると、立て付けの悪い窓の隙間から砂が入ってきたのか、ベッドシーツやデスク、床の上にうっすらと砂が溜まっていた。髪の毛にも砂がついているのか、なんだか埃っぽくい。もちろんスプリングの悪い古いベッドは、寝心地最悪。翌朝、疲れなんてひとメモリも減っていない、そんな最悪の目覚めだ。
     昨日は清潔化の魔法で綺麗にしたはずのベッドも、入って横になったらダニに噛まれ身体を掻きむしることになった。それだけじゃない、小さな羽虫が耳元を耳障りな音を立てて飛んでいたかと思えば刺された。そして急激な痒みに、また体を掻きむしる羽目になった。
     朝、廊下に備え付けられたコンクリート打ちの横に長い洗面台で顔と歯を磨いていると、図体ばかりがデカい頭の悪そうな獣人が、割って入るのに僕を突き飛ばそうとしたので、足に力を入れて立てば、逆に男のほうがすっ転んで、回りの男どもにギャハハと笑われていた。本当に下品な奴らだ。
     髪をセットして、トランクから今日着る服を選ぶ。来る前に先方からは、ノーネクタイのビジネスカジュアルな服ならなんでもいいと言われていた。事務職と言っても、社会人と肩を並べるならと、ここに来る前に数枚仕立てた半袖のワイシャツの中から、薄紫のワイシャツと、砂埃で汚れても目立ちにくそうなベージュのスラックスを選ぶ。靴はこの気候に黒い革靴はいかがなものかとベルトと共に同じ茶色のものを選んだ。そして最後に、いつもの様にコロンを腰につけ、一階入口入ってすぐの食堂に向かえば、やる気のない寮母に「もう何も残ってないよ」と目を細められた。
     このやる気のない寮母が作る朝ごはんは、薄く切ったパサパサのパンとスクランブルエッグにハムとチーズが一枚ずつ、欲しいやつはゆで卵を山の中から一つ取るというメニューだ。これは今日だけじゃない、これが毎朝永遠に続く。飲み物はコーヒーかオレンジジュース。基本的に水道設備が整っていないこの国では、場所によっては生水は絶対に飲まない。ペットボトルですら低ランクのものを飲むと腹を壊すと言われている。この国の水道事情は劣悪だ。
    「遅れて来るアンタが悪いんだよ」
     と、一枚という制限を無視して複数枚取るやつらのせいでどうして僕がこんな思いをしなければならないんだと、朝から眉間の皺を深くすれば、ため息をついた寮母が、なんとか残っていた一枚のクソまずいパンと薄めたコーヒーを僕に渡した。それを最悪な気分で咀嚼し飲み込んで、最悪のコンディションで職場に向かえば、誰かが使ってクリーニングされていないヨレヨレのツナギを渡された。
    「これは?」
     洗ったかも怪しいそれに清潔化の魔法をかけながら聞き返すと、「現場に行くときに着る服だよ」と説明された。現場? 僕は事務職と聞いてここに来たんですけど!?
     心の中で、今すぐレオナ・キングスカラーに嘘の仕事内容で僕をここに送り込んだことを訴えなければとまで考え、そうするにしてもレオナ直通の連絡先を知らないことを後悔した。
    「アーズル君はこのロッカーとあそこの机を使ってねね」
    「アズールです」
     この先、このやり取りはどれだけ続くのかと、頭の中で愚痴を漏らせば、「ごめんね」とガサツな男は笑い飛ばす。この調子だと、絶対にまた間違うつもりだ。
     ロッカーも以前誰かが使ったまま掃除していないのだろう、中に赤丸のつけられた数十年前の競馬新聞と、タバコの空き箱が入っていて臭いもひどい。すぐさま清潔化魔法を使い中を掃除し、渡されたヨレヨレのツナギを仕舞った。
     与えられた窓際のデスクも使い古され、紫外線で黄ばんでいた。それにも清潔化の魔法をかけ綺麗にし、ほんの少し気持ちが落ち着き着席すると、その瞬間、椅子が壊れた。
    「あちゃー、壊しちゃったか」
    「僕のせいじゃありませんよ!?」
     すぐ様弁解すれば、皆、ワハハと笑って「壊れかけてたからなぁ」なんて言っては、この椅子の古さを語っていた。そんな壊れた椅子なんて前もって捨てておけ!
    そして僕の新しい椅子は、会議室から持ってきた座面が大きく穴開いて、中のクッションが見えている折りたたみパイプ椅子だった。ここの連中は、口にするものも着るものも家具にすら気を使うことが出来ないのか? こんな椅子や汚い空間で作業しているから効率が落ちて業績も下がるんだ。
     皆余りに現状に腑抜けている、いつ切られるか分からない部署なら、本来もっとクビになるのを恐れて全力で取り組もうとするだろう!? そういった気持ちが全く感じられない。
     僕がこの現状を変えてやると、一年かけて作ったレポートを部長に渡してみようとしたが、男は読もうとさえせずに「インターンで来てるだけなんだからそこまで考えなくてもいいよ。気楽に行こう、ね?」と笑って僕をあしらった。
     お前たちにとって、潰れても仕方のない部署かもしれないが、僕にとってはそうじゃない。これが長引けば対価の支払いが終わらない。つまりリドルと一緒に暮らすという今の僕の最大の夢が先延ばしになるということだ。それだけはあってはならない。なにせ期限は四年とリドルに伝えてしまったのだから。
     翌日も、翌々日もなんとか食い下がって部長にレポートを渡すことが出来たが、あの様子だと目を通すこともしなさそうだ。どうしようもなく悔しかった。
     ここでは僕は、お坊ちゃま学校のできの悪い生徒で。この国の第二王子に取り入ってやっと決まったインターン先も、こんな業績の上げられない肥溜めで。こんな場所に放り込まれる程度のオツムしかない……だから、僕の能力も大したことはないだろうと、さざ波を立てずにインターンが終わるまで大人しくしておいて欲しいと言った反応だ。
     今に見てろ。絶対に見返して、この職場を環境ごと……ついでにあの最悪な独身寮を含めて全て僕が変えてやるからな!!!
     ……と、ここまで意気込んでいたが、そんな気持ちとは裏腹に僕はここで、日々腐っていっていた。
     一週間もしない内に、人生で初めてパサパサになった髪と、乾燥してカサついた肌を体験し、以前は完璧にと意識していた身なりにも、この職場では無駄と手を抜くようになった。
     コロンなんてここにやってきて三日目で使うのを辞めた。この男臭い寮や現場では、コロンなんて付けていたらナメられる。獣人の鼻はこのコロンひと瓶の価値が分からず、寮の同じ階の獣人には「くせーくせー」と鼻をつまんで笑われ、エレメンタリースクールの子供かと、腹が立って部屋のドアを思い切り閉めたら、ドアが曲がって寮監と寮母に嫌味を言われた。
     もうずっと最悪な気持ちで、ずっと世界に向かって呪いの言葉を吐いていた。最悪だ、僕の能力もわからないくせにと、こんな馬鹿な奴ら、こんな会社も全部潰れてしまえばいいと、ベッドの上でのたうつ僕の胸元で、銀色の輪が揺れる。

    『分かったよ、四年ここでキミを待っているから、早く迎えに来るんだよ? でないと、きっと子供たちは、キミが父親だなんて思ってくれなくなるよ』

     あのスプリングホリデーで抱きしめたリドルの身体を思い出した。女性化したやわからな、赤子と同じ匂いのする身体と、本来の彼についていない胸の膨らみ。そして、リドルの夢が潰えた真っ白い髪を思い出して苦々しい気持ちになる。
     男のときより華奢になった柔らかな女の身体より、骨の感触がするリドルのあの身体を抱きしめて、ワインレッドの薔薇の香りがする髪を指で梳いて味わいたい。
     そのためには、少しでも早く、僕は対価を支払い終えなければならない。
     こんな所で腐っていてはいけないと、学園では隠すようにネックレスに通して服の下に隠し持っていたリドルとの結婚指輪を見つめ、彼に好きになってもらうために今自分が出来ることはこれしかないのだと、覚悟を入れ直す他無かった。
     そうして、いままで一度も指に嵌めたことのなかった揃いの指輪を、僕はその日から左手の薬指にはめるようになった。
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