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    おわり

    @owari33_fin

    アズリドとフロリドをぶつけてバチらせて、三人の感情をぐちゃぐちゃにして泣かせたい

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    おわり

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    ミーティア3️⃣ Az-15 『了』

     脆くなった地盤を輝石の国の企業と共同開発した硬化剤で強化し、流動するエネルギーは黎明の国の研究所と魔力がなくても使える杭型の結界で囲んで包囲した。硬い岩盤は、国内企業と共同開発のパイルバンカーで砕きあともう一歩で皆の数十年の悲願が達成される、その目前まで僕たちはやってきていた。
     今日は、事務所に引っ込んでいる連中も、非番のはずの掘削員も総動員して掘り進めていた。砕いた硬い岩も、マントル深くで作業できる小型重機のお陰ですんなり回収できた。この周辺の深さにある硬い岩盤からは、かなりの高確率で純度の高い魔法石が取れ、なるべく多く回収するようにとお達しが出ていた。
     掘削員の「いけいけ!やっちまえ!!」というテンションの高い声が飛び交う中、順調に掘り進め、最後の最後、今までで一等分厚い岩盤にパイルバンカーを叩き込めば、その硬さに杭が途中で止まってしまった。機械の調子が悪いのか、はたまたこれを撃ち抜くにはさらに強い力が必要なのか……職員が手書きで数式を割り出す傍ら、夕焼けの草原の歴史的瞬間の可能性に現場に呼ばれていたレオナが「オイ」と僕を呼び止めた。
    「おいタコ、あの杭、あれを全力で殴ってこい」
    「無茶言わないで下さい! というか、非魔法士の力のみでやり遂げるという考えはどこにいったんです!!」
     この熱い中、皆汗だくになりながら動いているのに、レオナは先程から椅子にふんぞり返っている。やるならお前がやればいいだろうと視線を向ければ「オレのか弱い力じゃ、タコ様の筋力には勝てねぇよ」とニヤリと笑われた。この男も、今日掘り出したい気持ちでいっぱいなんだろう。それは僕だって同じだ。インターンを含め三年と半年でここまでこれた。
     予算を削られ、物品すらまともな物を購入も支給もされず、諦めていたところに生まれた一筋の光が、今こうして、現実になろうとしている。レオナや現場の人間だけじゃない、僕だってこの先の光景が見たい。
     手に引き裂いた布を巻き、ぐっと拳を握る。現場の皆に聞こえるように大声で僕は叫び、全力の力をパイルバンカーから打ち出され止まったままの杭に叩き込む。 「どうなっても知りませんからねッ!」
     僕の大声と共に、ドンッ! と大きな衝撃が走り高い金属音と岩が砕ける音が響き、皆から「ワッ!」と歓声が起こった。その瞬間、空いた穴から虹色の流動体が、まるでドラゴンの背のように高く登り、岩盤と岩盤の間に滑り込もうとした。このエネルギー逃げる気なんだ。
    「そうはさせるかっ!!」
     とっさに魔法を使い、流動するエネルギーの尻尾を結界で囲み捕まえた。が、大多数はまた別の場所に流れてしまったようだ。そんな……と、僕の口から思わず嘆きがもれる。
    「すみません、みなさん……ほとんど逃がしてしまいました」
     手のひらの小さな結界の中、逃げ場を失ってクルクルと回るエネルギーを皆が凝視して、その中の誰かが叫んだ。
    「やったああああ!!!」「ついに、ついにエネルギーを捕まえたぞ!!!」「凄い、本当に捕まえられるなんて!!!」
     皆がわぁわぁと喜び始め、僕はぽかんとその光景を見つめた。
    「僕、これだけしか捕まえられなかったんですけど!?」
    「何言ってんだ! このエネルギーが何にどう使えるのか、今まで未知数だったのが、やっと研究を進められるんだ!! これでエネルギーを解析して、どんな分野で使っていけるか、そういった研究が出来るんだ!!!」
     歴史的な事だと皆が喜び「胴上げだ!」と僕を抱え上げ、現場の太い筋肉の腕が僕を引っ掴み空中に放り上げた。
    「ありがとうアズール! お前はデキる人魚だよ!!」「わっしょい!わっしょい!」「みんな! 救世主のアーシェングロットを崇め奉れ!!」
    「ちょ! まッ!?」
     空中に放り上げては数十本の腕に抱えられ、また宙に放り投げられる。不安定な中持ち上げられる僕を、レオナがゲラゲラと声を上げ腹を抱えて笑う姿が見えて、笑っている暇があるなら止めろと目線で訴えたら、気づいた時には目の前に天井の岩盤が見えて、僕は顔面を殴打していた。


     * * *

     数週間振りの休日、僕は以前レオナ達に連れられてきたカフェにいた。店員が僕を覚えていたためか、レオナの計らいかは知らないが、次に訪れたときこちらが何を言わなくとも、彼らは僕をVIPルームに案内してくれた。
     そうやってのんびりと食事し、食後のコーヒーを飲みながら経済誌を読む。あぁ、今日は特に気分が良いと、窓の外に見える乾いた景色に視線を向けると、ズカズカとVIPルームに入ってきたレオナが、僕の対面の席に座った。
    「いつもの」で通じるほど、レオナもこのカフェを気に入っていた。
    「ラギーさんはどうしたんです?」
     いつもならレオナの補佐のラギーさんが四六時中付いているはずだ。その姿が見えない事を指摘すれば、チッ! とレオナが舌打ちする。
    「あいつはダメだ、いつの間にかキファジみたいに口煩くなりやがって……」
    「それはそれは、ラギーさんの心中をお察しします」
     嫌味を言えば、この三年半でずいぶんとレオナの子供の様な部分を見てしまった僕は、ラギーさんに同情した。こんな男が上司では、ラギーさんも大変だろう。
     僕の嫌味に、レオナはフンと鼻を鳴らして、目の前に運ばれた分厚いローストビーフサンドに齧り付く。このサンドイッチはカフェの店主が肉好きのレオナのためにわざわざ増やしたメニューだった。
     レオナが食事を始めたので、無視して手元の雑誌に目線を戻せば、レオナが食べながら唐突に僕に話しかけた。
    「お前の俺への対価……この前ので全て支払い終えた……」
    「へぇ……それはそれは、じゃあ次は何を……はぁ!?」
     聞き流そうとした僕の脳に唐突に入ってきた言葉に一瞬反応が遅れた。対価を支払い終えた? ということは、僕は……
    「そう、お前はこれで晴れて自由の身だ」
     レオナはよかったなぁとは言っているが、僕にはどうにも、簡単にハイそうですかとは言えなかった。
     まずは、まだ肝心のエネルギーの大元を掘り当てていない。しかも、まだ共同開発中の道具や、僕が主導になって進めている仕事もある。それを全て捨ててしまって言い訳がない。ぐるぐると頭の中で現状を再確認するが、やはり今僕がこの会社を離れるべきでないはずだ。
    そんな僕に「お前の目標は何だ?」と、レオナが唐突に聞いてきた。
    「エネルギーの大元を掘り起こすことでしょう?」
    「違うだろ、お前は俺に対価を支払終えて、あの薔薇の坊っちゃんのところに行くのが目的だろう?」
     薔薇の坊っちゃんとレオナに言われて、僕の左手の薬指の相手がリドルだと知られていたことに驚いた。
    「ハハッ! 何『なんで知ってるんだ』みてぇな顔してんだ。あんなもん、あの時のお前を知ってるやつならバレて当然だろ」
     当時のリドルへの僕の態度の変わりようで、バレていないと思う方がおかしいと指摘され、僕はすぐさま『anathema』の事を思い出して表情を引きつらせた。そうやって周囲に僕とリドルの関係も知られていたなら、僕の方もあの組織に筒抜けかもしれない。
     グッと奥歯を噛み締め額を抑えた僕に、レオナは「あいつらには感づかれてねぇよ」とすぐさまフォローを入れる。
    「ハーツラビュルに『anathema』が踏み入って、リドルが流血沙汰になった後。さすがのクロウリィーも学内で生徒を襲う様な組織とは、例え無償であっても取引はできないと縁を切ったろ。その時にS.T.Y.X.サイドが学内のセキュリティ強化を無償提供したり、ウチやカリムの所もそれなりに手を入れて、そのせいであちらさんには情報漏洩する隙がなくなった」
     レオナに言われて、そう言えば魔法障壁が改良されたと教師陣からお達しがあった。あの時は、僕の方も自分のことで手一杯で、フロイドもいなくなり、ジェイドと僕で以前のようにすべてを仕切るのが難しくなっていた頃だ。少し調べれば分かるようなことさえ自分の耳に入っていなかった事実に、今更ながらあの時の自分自身に腹が立つ。
    「お前の方もそれなりに上手くアイツを隠したんだろ? あの組織だって万能じゃねぇ……霧に紛れて隠せば、分からなくもなる」
     リドルのことが『anathema』にはバレていないだろうと言われ、僕はそれに関してはホッと胸をなでおろした。しかしやはり分からない。
    「その件に関しては理解できましたが、僕があなたに支払わなければならない対価、本当にここまででいいんですか?」
     まだ掘り当ててもいないのにと付け足せば、レオナが手にした残りのローストビーフサンドを口の中に押し込めた。
    「対価はここまででいい。これ以上お前がここにいたら、あいつらがお前に依存しすぎる。俺は最初にも言ったが、この国の人間で仕事の基盤を作りたい。他国と協力関係を結んだとしても、その関係は対等でなければならないし、いつか喉元に噛みついて対等以上の関係にならなきゃ、この国に未来はねぇ……お前一人いなくてもどうとでも出来ねぇようなら、例えエネルギーを掘り当てて活用できても、きっといつかは駄目になる。そうならねぇように、あいつらにはそろそろ自立してもらわねぇとなぁ、そう思わねぇか……?」
     レオナにそこまでのヴィジョンがあって、本当に僕の出番がここまでなら、僕から言うことはもう無い。
    「良い経験をさせてもらいました」
     レオナの前にスッと手を差し出せば、唇の端を持ち上げたレオナが僕の手を握り返した。
    「お前、本当にイイ面になりやがって」
    「おかげさまで、これならここより暑い熱砂の国以外でなら、生きていける自信がつきました」
     そうやって握手を交わしているところに、未だこれだけは似合わない分厚いスケジュール帳を手にしたラギーさんが、カフェのVIPルームに乗り込んできた。
    「あ〜〜〜〜! レオナさんやっぱりここにいたんすね!!」
     うるせぇのが来やがったと、レオナが眉を潜め立てた膝の上に肘をつき、アイスコーヒーをぐっと煽った。
    「キファジさんがそれはもぉ〜〜カンカンに怒ってますよ! 他国の大使を待たせるなんて、前代未聞っすよ〜〜 それにオレも飯、食いたいんすけど!!?」
     地団駄を踏むラギーさんがメニュー表に手を伸ばすと、さっさと立ち上がったレオナが出口に向かって歩き出す。
    「ちょ! レオナさんオレまだ何も頼んでないんですけど!!」
    「仕事なんだろ、早く行くぞ」
     飯なんて食ってる場合じゃねぇだろと。ここ最近、キファジさんの様にガミガミ言うラギーさんに、ここぞとばかりに仕返しするレオナは、僕にヒラリと手を振りながら「そうだ……」と振り返る。
    「例の結婚祝い、楽しみにしとけ」
     レオナ・キングスカラーにそうやってニタリと笑われて、「はい、楽しみにしてますね」なんて無理だろ。クソッ! と……僕は心の中で悪態をつきながら「お手柔らかに」と返事を返した。
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