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    @owari33_fin

    アズリドとフロリドをぶつけてバチらせて、三人の感情をぐちゃぐちゃにして泣かせたい

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    ミーティア3️⃣ Az-16 『父』

    「アーシェングロット、なんで仕事辞めるんだ? 第二王子に何か言われたんなら、いつでもオレらが抗議してやるからさぁ……」
     僕が仕事を辞めると上司に伝えれば、すぐさま社内の人間に話が伝わり、こうやって皆が僕を職場に残るよう説得するようになった。最初はあれほど僕を仲間はずれにして厄介者扱いしていたのに、最初と今の雲泥の差に思わず笑ってしまう。
    「仕事に関しては言いたいことはまだありますが、妻子と輝石の国で一緒に住む事になったんです。こちらは、もう皆さんでも充分掘り進めていける、僕はお役御免です」
     妻子と一緒に暮らすと言えば、彼らの中の妄想の僕の身の上や、女性や家族を特に大事にする気質の彼らは、もうそれ以上何も言えなくなった。更にはあなたたちなら目標を達成できると信じていますと言えば諦めた顔で笑い「嫁さんと子供を大事にしてやれよ」と僕の背を叩いた。
     今まで僕が中心になって取引してきた相手には、職場で一番根回しの上手い気の利く男を後釜に据えるために、僕は彼を仕事を辞める直前まで外回りや営業、パーティーなどに連れ出して仕事を覚えさせた。
     以前までの僕なら、対価に含まれていない事なんてきっとしなかった。支払い終わったならそこで終わりとばかりに、なんの未練もなく笑顔で別れを告げただろう。
     そう出来なったのは、この職場の獣人たちに対して同僚という立場で、あの恐ろしい硬さの岩盤を砕くための苦難を乗り越えたからだ。僕を認め、僕と対等な仲間とし、そして同時に、この職場で一番年下の僕をなんやかんやと気遣う彼らに母や祖母、そしてあの残念な男や義父を重ねていたかもしれない。外見は似ても似つかないけれど。

     そうそう、養父には次に移り住む先の候補をいくつか出させた。リドルや子供たちに何かあったら、掛かり付けの医師であるフレドという魔法医術士に頼らねばならない。この前提があるのでさほど遠くなく、家族で上手く隠れ住める場所……そして、anathemaにもリーチにも見つからない場所でなければならない。
     義父がいくつか候補を上げた先、目に止まったのは陽光の国から車でなら五日、船なら二日、飛行機で八時間ほどの距離にあるオリーブとオレンジが特産の町だ。車を少し走らせれば観光地のあるそこなら賑やかさに紛れる事や、比較的穏やかな土地柄と気候も人魚の僕にとって悪くない土地柄だった。ここでなら身も隠しやすいだろうと、その町中央から少し離れた場所にあった家を購入した。
     この三年と少し、一切使うことのできなかった有給を使い、不動産屋と内見をしたその日。年若い僕がキャッシュ一括で家を購入すれば、先程まで舐めた態度をしていた不動産屋が目の色を変え、急に上客に対する態度をとって媚び。こんな態度でよく商売ができると、僕は深くため息をついた。
     しかし、購入した家は義父の言ったリドルや子供たちの好みに合った柔らかな色彩とデザインで、これなら三人も気に入ってくれるだろうと、僕は地元の大工をこれでもないあれでもないと打ち合わせして、リフォームを開始した。
     大きく広いリビングダイニング。ダイニングの窓は、今まで狭いビルの中だけで生活した三人を陽の光の下で生活させてやりたいと窓を大きくとった。窓の重要性はこの三年と少しで僕が一番理解したつもりだ。建付けの悪い小さな窓は独房のようなものだ。
     それから、リビングダイニングから出るとガーデンテラスになった先を抜ければ、子供たち二人がいつでも遊べるように二人乗りのブランコを作ってもらった。
     子供たち……アスターとサミュエルのことは、あのプレゼントの一件以来、二人を溺愛しているリドルとの年数回の手紙でのやり取りや、孫バカになった義父からの報告で研究し、三歳の誕生日プレゼントには、車と飛行機が変形してロボットになるおもちゃをプレゼントして、二人から『とうさん、ありがとう! だいすき!!』というメッセージムービーを貰ってしまった。ああやって無邪気に喜ばれると、正直、胸のあたりがくすぐったくなってしまう。
     子供たちの部屋は、そんな二人が好きそうな壁紙と、大人になっても使えそうな揃いの家具を選ぶ。ファブリックはもちろんそれぞれの好みの柄をチョイスした。大人に……とまで考えて、僕はこれから本当に三人と家族になるんだと思うと、想像だけで少し緊張してしまった。僕は本当に、リドルの望む二人の父親になれるんだろうか?
     そして、僕の中の父親を想像すると、どうやっても見本にならないはずの養父と、それ以上にあのみっともない男が片膝を着いて僕の名前を呼ぶ声を思い出す。
     服装もダサく、体系も締まりの無い、回りの人魚に一回りも二回りも能力に劣る無能な男のは、母のリストランテの系列店に手を広げすぎた為に潰し、泣きながら『僕は君たちの為に、こんなに頑張っているのに。なのにどうしてそれがわからないんだ!』と母さんの前で声を荒げて最後、僕は男の姿を見ることはなかった。どれだけ経営が失敗しても、母さんと僕の前では常に見栄を張りたかったのか、ずっと笑顔で怒鳴ることさえしなかった。ただ、目を合わせることはなかったけれど……
     こんな事を思い出すなんて、僕はあの情けない男を、未だに自分の父さんだと思っていたのか。
     こうやって、僕がアスターとサミュエルの父親になろうと考える度、記憶の蓋を開けて出てくるあの男は、僕の名を呼び、あの締まりの無い腕で抱き上げた時、一体どんな気持ちだったんだろうかと……ここ最近の僕はずっとそればかり考えてしまっていた。
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