ロビン・グッドフェローの悪戯 今日もいい天気だった。この季節のガラルはいつもの憂鬱な曇り空も、ぐずつくにわか雨もぐっと数を減らす。
遅い時間になっても薄着のまま過ごせるほどの陽気が心地よく、ホップは流行りの歌を口ずさむ。ソニアが夢中で、このところ研究所で毎日流れていた。『君の形が好き』なんて、学問の場にふさわしくない恋の詩。何度も聞いているうちに覚えてしまった。
太陽の香りが移るシーツやタオルを手にベランダから戻れば、部屋の戸口にはまぶたを擦る恋人の姿。連日の仕事でくたくたにくたびれていたユウリは、今日の家事はホップに任せてほしいという提案に諸手を上げて喜んだ。それから夕食まで眠ると言っていたのに、時計を見上げればそれには少し早い。
「あ、起こしちゃったか? 悪い。まだかかるからもう少しゆっくりしてていいぞ」
ユウリはどこかふわふわと浮くような足取りでホップへと近寄ってきた。彼は手に持った籠をおろし、ほんのり色づく白い頬を褐色の手の甲で撫でる。
彼女は気だるげなまばたきの後に、眠気の混じる流し目で古い戯曲の一節を諳んじた。
優しいお方、もう一度歌って
わたくしの耳はあなたの声に骨抜きで
わたくしの瞳はあなたの姿にとりこ
あなたの美しさはわたくしを魅了して
たったひと目で愛させてしまったわ
「四人の可愛らしい侍女はいないけれど、いかが?」
普段より作った表情でおっとりと微笑んで、彼女はホップの手を取った。纏うブランケットが妖精女王のヴェールのよう。しなやかな腕がいたずらに彼の身体に巻き付いて、ほっそりした指が彼の唇をつつく。くすくすとご機嫌な様子で頬をつままれ、首筋を誘うように舐められてもホップはされるがまま。だというのに、彼は顔をしかめて横に振った。
「ロバ頭の間男なんて勘弁だぞ」
「つれないひと」
振られ、むくれたユウリがふいとそっぽを向いて身を離す。またベッドへ帰ろうと立ち去らんとす、その腰にホップは腕を回して引き寄せた。ブランケットがふわりと広がり、彼女の肩から滑り落ちる。
「だって」
涼やかな部屋着の裾から露わに伸びるやわい内腿に手を這わす。骨ばった手のざらりとした感触に、彼の女王は伏せたまつ毛を震わせた。愛らしい『骨抜きの耳』へ優しく歯を立てて、そっと囁く。
「ひとときだけの逢瀬で、うつし世に大人しく帰る気なんてないからな」
夏の夜。橙を帯びた西日が二人の影を映していた。