秋そわそわ ホップがブラッシータウンの駅から外に出ると、曇り空も相まって、あたりはすっかり暗かった。
少し前までまだ明るく、夕方の涼しさが心地よい時間だったのに、いつの間にか太陽の沈むのが刻々と早くなっている。裾や袖を抜けていく風が体を冷やすようで、ついジャケットの前を合わせた。
天気が悪く肌寒い日が増えると、秋が冷たい風に乗って来たと思う。葉はまだ色づいていないが、それもすぐだ。ホップの後ろを歩く少女も似たことを感じたらしく、「もう秋だねえ」と歌うようにつぶやいた。
「お芋にリンゴ、栗にカボチャ。秋は美味しいものがたくさんあるから、好き」
ユウリは被っていた緑のベレー帽を手に取って、指先に引っ掛けてクルクルと回し、ブーツをかぽかぽ言わせた。ホップは後ろを振り向く。
「それ、三ヶ月くらい前にも言ってたぞ」
呆れた声で後ろ歩きしつつユウリの帽子を取り、自分の頭に乗せる。
「『夏はカレーと冷たいものが美味しいから好き』って。ほんと食いしんぼだな、お前」
「えー? そうだった? そこまで見境なし……」
そこまで言って、ユウリは顎に手を当てて考え込んだ。目が右から左へ、左から右へと動いて、「かも」とちょっと照れたように笑う。
「だって、美味しいものいっぱい食べるの、大好きだもん」
ぴょん、ぴょん、と両足で跳ねるようにして、ユウリはホップの隣に並んだ。ハロンタウンへ帰るあぜ道を行きながら、「か、か、かぼちゃー、あまくておいしー」とマヌケで少し調子はずれの鼻歌が聞こえてくる。
ホップはたった今、それで思い出したかのように口を開いた。
「……そういやさ、毎年近所から芋とかカボチャ貰うと、かーちゃんがパイ作るんだ」
歌が止まった。ユウリの方から痛いほどの視線を感じるが、素知らぬ顔で続ける。
「大体めちゃくちゃ貰うから、山ほど作る。で、飽きるくらい食わされる」
「あきるほどたくさん……?」
「うん。消費するの、ユウリも協力しろよな」
横目で窺った隣は唾を飲み込んで、ホップの思った通り、期待に瞳を輝かせた。
今度は三ヶ月もしないうちに、木々を飾っていた赤や金が地面を染め、それが茶色に変わる。それから、重くて灰色の雲が常に空に居座るようになれば、冬が降りてくる。
きっとユウリはまたホップの隣で、「冬はいろんなご馳走が食べられるから好き」って言うんだろう。もしかしたら大人になっても、季節が変わるたびに。
考えると、なんだか胸がくすぐったくて、ホップはユウリの頭へぎゅむぎゅむ帽子を押し付けた。