それはもはや怪談なんよ。 オンボロ寮のゲストルーム、第三回レトロゲームRTA大会の夜である。
本日の参加者は、リリア、オルト、監督生、グリム。そしてコントローラーを握っているエースだ。テレビ画面では、寿命が二年しかないという呪いを受けた一族の悲壮な戦いが展開している。
「二年マジできつい。マレウス先輩の寿命分けてやりてーよ」
自分の寿命でもないのにエースが言う。オルトが可愛らしく首を傾げた。
「でもこの一族の人間たちは、寿命が短い代わりに繁殖力が強い設定みたいだね。逆にドラゴンは正確な寿命がいまだに不明なほど長寿だけれど、個体数はとても少ないんだ」
「あー。マレウス先輩も一人っ子で、親ももういないって話だっけ」
「ドラゴンが絶滅危惧I類、つまり絶滅の危機に瀕している種として指定されたのは、三十一年前のことだよ」
「げ。ガチじゃん」
チーズクレープクッキーの大袋を抱えたリリアが口を挟む。
「ドラゴンの繁殖は繊細で、個体差も大きい。加えて、ひとりでも生きてゆくのに困らぬから同族同士でもおいそれとなれ合わぬ。だが、そう悲観したものではない。なにしろ、マレウスが初めてパーンの角笛を吹いたとき、世界中の山羊が一斉に孕んだからな!」
巨大な「?」マークがぶわっと飛び交った。
リリアだけが上機嫌である。
「先々マレウスがその気になれば、世界中は一夜にして玉のようなドラゴンの卵で溢れかえり、レッドリストからも瞬殺じゃ。いや~、楽しみで仕方がない!」
エースが声を潜めてオルトに尋ねる。
「パーンの、って何? 意味わかる?」
「検索……。あったよ! 茨の谷の俗語で、男性の精つ」
「ぎゃあああああああ!」
「エース・トラッポラさん、突然どうしたの? コントローラーが八メートル飛んで行ったよ。精『ぎゃあああ』は正常な生理現象で、性機能が発育した証拠で、おめでたい事なんだよ」
「オルト、マジで俺が悪かった! ごめん! 俺、イデア先輩に殺されたくないから!」
グリムが耳を押さえる。こちらももちろん意味はわかっていない。
「うるせー! エースのやつ、どうしたんだゾ? 笛吹いて山羊に子供ができるんならスゲーんだぞ!」
「グリム、ツナ缶」
「にゃっはー!」
好物で相棒の口を塞ぎ、監督生はリリアに引きつった笑顔を向けた。かわいい仔山羊ちゃんに罪はないが、その「本番」の卵たちはどこに、どのように登場するというのか。
「すいません。聞かなかったことにしますね」