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    machikan

    @machikan
    二次創作の字書き。

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    machikan

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    レオナさんお誕生日おめでとうございます!
    一日遅れですが後夜祭ということで🙏
    絵から出てきた女性をエスコートするレオナさんの話です(恋愛関係ではないです)。微量のマレレオ。

    #マレレオ
    maleLeo

    レオナさんお誕生日おめでとう小話2023「セラヴィ!」 百パーセント、自寮生徒の過失だった。
     床に散らばった木片。金具。潰れたキャンバス。悪ふざけの代償だ。魔力を込め過ぎたボールが跳ねて、壁に激突した。
     逃げた犯人はすでに確保されている。校則に従って処罰されるだろう。
     現場に呼び出されたレオナ・キングスカラーは大きなため息をついた。




    「ムニュエ」は暇だった。平日の午前中は、いつもそうだ。若者に人気のセレクトショップだが、客の多くはこの時間帯、学校や仕事がある。
     店員のサミー・ブルーは、カウンターのスツールに腰かけ、ショップ会員向けのダイレクトメールを書いていた。客がいないうちに片付けたい。七月も後半、セールも終わり、そろそろ秋向けの話をしなければならない。
    (はあ~。この椅子サイアク。腰にくる……)
     首を伸ばせば、窓の外に抜けるような青空が見える。ビールが飲みたくなる。秋はあまりにも遠かった。ドアベルの音だって浮かれて響く。
    「いらっしゃいませー」
     語尾が不自然に途切れた。
    「わあ~、全部かわいい!」
    「そいつは良かったな」
     珍しい組み合わせだった。ナイトレイヴンカレッジの制服を着た獣人の若者と、ミドルスクールらしい年頃の少女。
     兄妹だろうか。少女の外見は人間のものだが、養子や再婚の連れ子なら可能な設定だ。
    「嬉しい。みんなの話を聞いていて、ずっと来てみたかったんだ」
     楽しそうに店内をチェックする少女の後ろを、青年が退屈そうについて歩く。彼の長い尾が優美に揺れている。
     サミーはやっと声をかけた。
    「お客様、何かお探しでしょうか? 今なら尾飾りもご用意がありますよ」
     獣人が身に着ける尾飾りは、尾に通すリングタイプや、先端に結ぶリボンタイプが主流だ。根元に着けるタイプはジッパーに挟まれるのを防止する効果もある。
     サミーはビンテージビーズを使ったテールリングを、ショーケースから取り出した。
    「こちらは指輪とセットになっています。ご自分で揃えたり、カップルやお友達同士、ペアアイテムとして購入される方もおりますよ」
    「へえ。レオナ、どう?」
    「今日は俺の買い物じゃない。おまえが好きなものを選べ」
    「レオナがこれを着けてるところ、見たいな。駄目?」
    「…………。試着できるか?」
     

    「ありがとうございましたー!」


     三十分後、二人連れを見送って、サミーはがたつく椅子に勢いよく腰を下ろした。
     テールリングセット。うなぎのTシャツ。ワイドジーンズ。マカロン柄のラメ入りスニーカー。ベースボールキャップ。
     店内で一式着替えた彼女は、ビーズのテールリングを嵌めた青年を従え、揃いのや指輪を嵌めて意気揚々と退店した。
     見送って、サミーは紙袋を畳み直す。
     少女が元々着ていた服を入れるのに使うだろうと用意したが、ナイトレイヴンカレッジは魔法士の学園だ。レオナと呼ばれた青年の指のひとふりで、畳まれた衣類や靴が消えた。小さくしてポケットにしまったのか、家に送ったのか、なんにせよ便利なものである。
    「凄い美形だったな。……あれ、女の子のほう、どんな顔だっけ……?」
     サミーは記憶を掘り下げた。けれどもついさっきの事なのに、不思議と思い出せない。あの獣人の彼ほどの美形なら、確かに周囲は霞むだろうけれど。








    「映えるねえ」
    「言ってみたかっただけだろ、それ」
    「そうだけど、本当に映えてる。映えの概念を一瞬で理解した」
    「そいつは結構な事だな」
     スマートフォンのカメラを向けられて、ため息をつくレオナ。
     その前後左右、辺りは一面のひまわり畑だ。十万本のひまわりが咲き乱れる海べりの公園では、賢者の島サンフラワーフェスが開催中である。
     ひまわりの摘み取り体験や、ひまわりをデザインしたグッズ販売、フードやドリンクの屋台が並んで賑やかだ。
    「君も初めて来たんじゃないの?遊んだらいいじゃない」
    「ひまわりの種をかじりながら?あいにくハムスターじゃないんでね」
    「美味しいよ、これ。あっちは?ひまわりスムージーにひまわりパンケーキにひまわりかき氷だって。映えるー!」
     売店で調達したストローハットにも、ひまわりが縫い取られている。レオナの親と言ってもいい年頃のマダムは機嫌が良い。
     レオナを眺めの良い場所に立たせては撮影し、開設したばかりのマジカメラアカウントに投稿する。#ヒマワリ #ヒマワリフェス #映え修行 #レオナくんありがとう
     普段なら即座に消させるところだが、レオナは黙って好きにさせた。
    「お客さん、お二人のところ撮りましょうか?」
     親切なジェラート屋に彼女は喜んで応じた。店の前は、灯台と海、ひまわりが美しく連なるフォトスポットだ。店員は慣れた様子で、預かったスマートフォンの撮影ボタンをタップした。

    「来て良かった!」
     
     二人並んで写った画像を見せられる。愛想のないレオナ。にこやかなマダムの口元。けれど帽子のつばの影は濃く、彼女の表情の全体は窺い知れなかった。
     午後一時、太陽は巨大なひまわりのように、陽射しを撒き散らしている。









    「孫と回りたいだなんてちぃとも思いません。子供は好きじゃありません。やかましくて。こんなごみごみした場所も好みません。いやですね」
    「…………」
     じゃあなぜここに来たんだ、という文句を飲み込んで、レオナはご所望の風船を彼女に渡した。ピンクのプードルが、つぶらな瞳で老女の頭上に浮かぶ。彼女のボンネットハットは対象的な黒。ベースボールキャップはお役御免だ。ひまわりの種も硬すぎる。
     移動式遊園地「ワンダリングムーン」。娯楽の少ない賢者の島のホリデーに現れ、人々を楽しませている。
     ジェットコースター、ティーカップ、鏡の迷路、メリーゴーランド、道化のショー。自分の胸までの背丈しかないレディの歩幅に合わせて、レオナは玩具箱じみた世界を巡る。
    (何だってこんなことに)
     レオナは密かにため息をついた。


     今朝のことだ。サバナクロー寮生が校則を破って壁に傷をつけた。被害はそれだけではない。壁にかけられていた肖像画が落ちて壊れた。
     ナイトレイヴンカレッジにある肖像画は、生きている。人間そのものではないが、個々に意思を持ち、対話可能な存在である。
     魔法道具や文化財としての価値も高い。犯人は相応の処罰を受ける。だが、それだけでは駄目だった。


     眩い七月の太陽が傾き、足元の影を伸ばす。夕暮れ時の観覧車はオレンジ色の日差しを受けて、これもひまわりの花のように輝いた。
     ふたりで乗り込んだ籠が、のんびりと昇っていく。向かいあって座っても、女の顔はわからない。
     元々、描き込まれていない顔である。
     壊れた絵のタイトルは、「人生」という。少女、中年期の女性、老女がひとつのテーブルを囲んで座っている絵だ。彼女たちは人間の青春、成熟、老成を表しているという。あえて顔がぼかされているのは、特定の個人ではなく、人間全般を表す普遍性のためだ。
     絵の修復を行うとき、それが問題になった。
    「絵の核が分散しています。主たる部分が残っていれば、そこに魔力で描き足すことで復元できる。こちらは核が三つもあって、それぞれの損傷度合いが違う。特定のモデルがいないというのも難しい。そちらから素材を得ることもできませんから」
     三人でひとつの存在。ばらばらにされたことで、本質の部分にダメージが出ている。
     クロウリーは大いに嘆いた。
    「なんとかならないんですか?」
    「そうですね……、修復の下絵ができるまでの間、彼女たちの気力が持ってくれれば……。元気付けることができれば、可能性はあります」
    「なるほど、元気付ける……。さっきから私が呼びかけても、うんともすんとも反応がありませんが……。キングスカラーくん!君も励ましてあげなさい!」
     自寮生の不始末ということで立ち会っていたレオナである。立ったまま眠りかけていたレオナは、鬱陶しそうに目を開けた。
     だが珍しいことに、文句は口にしない。黙って修復台の壊れた絵に歩み寄る。これも女性だ。一方的に気の毒な目に遭った女性に、横柄な態度を取るのは草原の流儀ではない。
    「今夜には修復用の下絵ができる。それまで耐えて欲しい。俺が側にいる」
     どっと額縁が色めき立った。修復士が跳び上がる。
    「あれっ!?魔力計測値が戻りました!励まし成功です!いやー、さすがのおみみ!イケメン……!学園長、そう気を落とさないで……。私も無視されましたし……」
     そこからは怒涛だった。
     仮初の身体を与えられた青春、成熟、老成の気力を、下絵ができるまで盛り立てよ。学園長はレオナに命じた。すなわち、デートである。
     レオナとしては大きな誤算だ。黙って壊れた絵の側に寝転がっていればいいと思ったら、午前、昼間、夕方と入れ替わりで三人、麓の街をエスコート。今日の授業は免除になったが、まったく割に合わない。
     青春は街歩きとショッピング。成熟は自然鑑賞。老成は遊園地。
     絵の中から、ずっと行きたかったどこか。
    (ま、テンションも上がるだろうがな)
     同じ人間であるはずだが、彼女たちの好みや言動はかなり異なった。時間の流れと経験が人間を育て、あるいは摩耗させるということだろう。
     だがレオナの苦労も、終わりが近い。
     観覧車の高度と反比例して、陽が沈む。そろそろ下絵が完成している時間だ。観覧車を降りたら、二人は学園に戻る。レオナは寮へ、彼女たちは絵に帰る。
    (おかしな一日だぜ。しかも今日は夜まで忙しいと来てる。インタビュー……、はあ……)
     ほとんどが藍色に染まった空を、流れ星が駆けた。ライトアップされたアトラクションに霞む軌跡。観覧車の窓からそれを眺めながら、皺を刻まれた女の唇が動く。
    「今日のすべてが、私たちには遊園地のようでした。まずフリーフォール」
    「リアルに落ちたからな。同情するぜ」
    「レオナさん。美しい方。私たち、あなたの噂なら何度も聞きましたから、よぅく知っております。今日がお誕生日ですね。お祝いに忠告を贈りましょう。『油断は禁物。お気をつけなさい』」
     その時だった。何処からか滴った暗黒が、籠内を埋め尽くす。
     プードルの風船が無惨に破裂した。
     それはすべての人生にもたらされる幕引き。実体化した「死」の概念である。人生は死によって締めくくられる。壊れた絵の中に黒い影として描き込まれていたそれが、密かに彼女たちとともに体を得ていたのだ。
    「死の影」は、その存在理由に従ってレオナへと手を差し伸べる。
     絵の中からずっと、そうしたいと思っていたのだ。レオナの目が細く光る。
     

    「二人乗りだぞ?おまえは定員オーバーだ」


     その声が、影を跡形もなく消し飛ばした。
    「おいおい、マレウス。それを言うならおまえだって定員オーバーだろうが」
    「ご婦人方は下絵にお送りした。それよりキングスカラー、油断は禁物だぞ」
    「してねえよ。おまえの手が早すぎたんだ。俺だけでどうにでもできた」
    「それはそうかもしれないが」
     観覧車の籠に、いかにも窮屈そうに座っているマレウスは、かの老女であり、ひまわり畑の女性で、うなぎのTシャツを買った少女でもある。
     彼女達の身体は、マレウスが自分をスクリーンに見立てて投影し、出現させたものだ。元々平面の存在であるから、馴染みがよい方法だった。彼女達を動かすためのバッテリー役としても、彼は適任である。
     服屋に花畑、遊園地。そこには常にマレウスもいた。姿は見えなくとも、魔力の匂いは隠せない。今などはもう姿までマレウス本人である。一緒に観覧車に乗っているなど、とんだ笑い種だ。
     レオナはマレウスの足を邪魔そうに蹴った。
    「とにかく成功だ。俺にプレゼントを寄越したいって話だったな?これでいいぜ」
    「釈然としない。この問題が解決したことは喜ばしいが、贈り物は別で授ける」
    「押し売りは嫌われるぜ?」
     星が降る夜、観覧車の籠がその頂点にかかる。
     奇妙な一日だった。たった一日外を歩いて、また永遠に絵の中に戻る女。
     レオナは哀れまない。その人生。在り方も、長さも。
     蜻蛉の命が他と比べて短くとも、彼らはその時間で必要なことを成し遂げる。人間は同じことに何十年もかかる。妖精はさらに長く。同じなら、より短いほうが優れている。
     成し遂げられない個体が、無駄に長く苦しむこともない。
    「なあ、マレウス。死ぬのに時間がかるって事が、そんなに有り難いものか?」
     マレウスは目を丸くした。レオナの皮肉は、このドラゴンの琴線に触れたらしい。
    「キングスカラー、それは……。有り難いかどうか知りたいから、死ぬまでにとても長く時間がかかるようになりたい、ということか?わかった」
    「違う。わかるな。おい、絶対やめろ」
    「遠慮はいらない。せっかくの誕生日ではないか」
    「帰るぞ。そら、降りろ」
     マレウスを狭い出入り口から無理やり押し出して、観覧車を降りる。ツノが引っかかって、ひどく難儀した。面倒過ぎる。
     朝から引きずり回されて、レオナはうんざりだった。だから、誕生日のためにうんざりする暇もなかった。
    「……悪くない一日だったぜ、お嬢さん方」
     二回目は謹んで辞退させていただきたいが。
     



     後日、修理が終わった絵が廊下に再掲された。
     テーブルを囲む三人の女の絵だ。ラメ入りスニーカーを履いた少女、ひまわりを差したストローハットのマダム、プードルの風船を持った老女。
    「生きている絵画ですから、こんなこともあるでしょう」とはクロウリーのコメントである。
     生徒たちもすぐに慣れて、前の絵のことを忘れていった。
     マレウスが、レオナの尾飾りと揃いの指輪を持っている事は、まだ本人にばれていない。
     彼女達からマレウスへ、労いに贈られたものだ。砂にされては困る。
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