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    machikan

    @machikan
    二次創作の字書き。

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    machikan

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    2023/6/25開催イベントの無配でした。マレレオ初夜チャレンジです。なんでも許せる方向け。
    当日もらってくださった皆様、ありがとうございました!

    シャイニングナイト「…………」
     レオナ・キングスカラーが、人生で初めて食らうタイプのダメージに倒れている。不屈れない。
    「キングスカラー……」
     あのマレウスに心配されるという屈辱。だがレオナは怒りを返す気力もない。
     現在、レオナはマレウスと交際中である。その経緯より重要なのは、ふたりがこれから初めてセックスする予定だったという事実だ。
     お互い期待より警戒が上回るようなテンションだったが、それでも興味はあった。正直、何が起きるのか楽しみだった。
    「大丈夫か……? つい僕も驚いてしまったが、害はないようだ」
    「調 べ た の か ?」
    「し、仕方がないだろう。いきなり尻が光っていたのだぞ?」
    「うるせえ!」
     尻尾の房で彼氏の鼻っ柱をぶつ。どうせ効かない。
     揺らめく長い尾が逆光なのは、レオナの尻が輝いているためだ。
     数分前、ベッドの上で下着を脱いだら曙光のごとく辺りが照らされた。
     輝くような美貌と讃えられるレオナだが、尻の皮膚が発光してどうしようというのか。どうしようもない。
     そのときマレウスは、彼にできる最大限に気を使った。
    「……………………獣人ならではの体質か?」
     そんな訳はない。
     ドラゴンをベッドから蹴り出して、レオナはちょうど一年前のことを思い出していた。
     植物園でマレウスと諍い、その胸ぐらを掴もうとした瞬間だった。レオナは不快な感触に飛び上がった。背後から下半身に液体をかけられたのだ。
    「あ?」
     眉間に皺寄せ振り向く。すぐそこで転んだまま、一人の下級生が青ざめていた。数メートル先に落ちたビーカー。レオナがかぶったのは、あれの中身だろう。
    「どこ見てやがる」
    「す、すみません!」
     レオナは自分の状態を確認した。
     かけられたのは透明な薬液で、臭いもない。濡れた服を魔法で乾かしてみたが、変化はない。レオナは念のため、土下座中の生徒に確認した。
    「おい、これは何の薬だ?」
    「塗料の魔法薬です。課題で……。身体に悪影響はないって先生が」
    「無害ならいい」
     一睨みで下級生を追い払う。
    「……ちっ。馬鹿馬鹿しい」
     勢いを削がれて、レオナはマレウスの元から立ち去った。終始無関心であったマレウスも、ほどなくその場から消えた。
     マレウスとレオナが、まだマレレオになる前の話である。
    「蓄光塗料の魔法薬だったわけだ。一年の実習で作る簡単な薬だが、その年によって違う付加効果をつけさせる」
     レオナの声は低い。掛け布団の下に全身こもっているからだ。マレウスはため息をついた。
    「その生徒とやらは、一年分の光を蓄積できる魔法塗料を作ったと。日々の入浴で落ちず、皮膚の新陳代謝にも負けない薬とは、中々の腕前だ」
    「あいつ、何が『悪影響はない』だ。開きにして食ってやる!」
    「光ることが悪いかと言われると難しいな。むしろ、めでたい気も……」
    「俺こそが飢え、俺こそが、」
    「待て、僕の部屋を砂にするな。不思議なのだが、なぜ尻にここまで蓄光できる? 常に衣服の下に隠されているではないか」
    「普通の服だぞ。完全に遮光できるわけじゃない。着替えや風呂のときは出してるしな。一年貯めればそれなりなんだろうよ」
     レオナは投げやりに答えた。やる気の一切が蒸発している。マレウスとの関係でムードを求めるなど片腹痛いが、尻が光るのは落とし所がわからない。初回が蛍の妖精プレイでいいのか。よくはない。段々、目撃者であるマレウスへの殺意まで湧いてきたレオナである。
    「これはいつまで光っているのだ? まさか……、一年?」
    「この光度だぞ。長くても一日で放出し終わるだろ」
     こんな事で慌てるのは馬鹿らしい。人目につかない場所でふて寝しながら、魔法薬の効果切れを待つのが正解だろう。
    「そうか。塗料を落とす魔法薬の式を考えていたが」
    「誰がテメエの世話になるか。……くく、頼むから塗らせてくださいと頭を下げるなら、別だがなぁ?」
    「何?」
    「セックスしたさに下手に出るマレウス・ドラコニア。傑作じゃねえか」
     彼がそんな醜態を曝してくれようものなら、散々焦らしたあげく、死んでも塗らせない。
    (ざまあ見やがれ)
     光り輝く黒歴史を背負う羽目になったレオナだが、あのマレウスだってこんな理由で初セックスに失敗したのだ。一矢報いた感がある。
     どこかでフクロウがぼわぼわと鳴いている。レオナは眠くなってきた。
     うつらうつら、このドラゴンと付き合うと決めたとき「この男の傷になってやるのも面白い」と考えたことを思い出す。伏線回収が早すぎる。
     自嘲には憂鬱が沁み込んでいた。
     関係が生じると、他人の事が自分の事になる。すぐ隣に立った男が零したコーヒーが、自分にもかかるようなものだ。煩わしい。
     憂愁に浸っても尻は輝いていて、布団の中が眩しかった。眼を閉じると、瞼の皮膚がオレンジに透けて見える。
     さて、ここでマレウスである。レオナが怒ろうが嫌味を言おうが、マレウスから見えるのは布団の小山だ。
     見慣れた寝具が盛り上がり、その下に全裸の交際相手(発光中)が隠れている。
     マレウスはゆっくり瞬きした。
    「…………」
     さきほどの、レオナの顔を反芻する。光っていると気付いたときの顔。計算高さや皮肉のない、それどころか理性や知性がお手上げ状態の無防備な表情。
     怒って、暴れて、すねて、布団に隠れてしまった。しかもこの気配からして、嫌味を言うのも飽きて、眠りかけている。まだ尻が光っているのに。何だこれ。妖精の辞書にもない。
    「ふっ、は、」
     慌てて手の甲を口元に押し当てたが、こらえられない。骨をくすぐられたかのように、全身で笑ってしまう。
    「くっ、ははははははは!」
     ばちぱちと陽気な火花がマレウスの周囲と布団の山の上に弾けた。笑い始めると止められない。マレウスは身体を折り、腹を抱えて笑い続けた。花が飛び交い、鈴の音がシャンシャンと鳴り響く。
     レオナが飛び起きた。
    「おい、マレウス! うるせえぞ!」
     ぱあっと辺りが明るく照らされる。マレウスはついに膝をつき、床を叩いて笑った。威厳も高尚もあったものではない。
    「これは、決して、おまえを、馬鹿に、して、いるわけでは……、う、ぷ、くははははは!」
     呼吸すら困難なようである。憎い男が床にへばりつく残念な姿に、レオナは彼らしくなく過去を振り返った。
     因縁の、マレウスとのマジフト大会。あの試合でもこの手を使うべきだったのだろうか。相手チーム選手の尻が揃って光ったら、戦意は削がれる。
    (俺もヤキが回ったな……)
     レオナは仕方なく下半身を掛け布団にしまった。部屋が暗くなる。笑いの火花はまだ散っている。マレウスは瀕死だ。
    「おい、いい加減にしろ。こんなくだらないことで、よくそこまで笑えるな」
    「すまない。こんなことは初めてだ……」
     マレウスは痙攣する腹筋を手で押さえながら、やっと起き上がった。明後日の方向を向き、気恥ずかしさを咳払いで誤魔化す。
    「今日はこのまま休んだほうがいいだろう」
    「…………」
    「キングスカラー? 寝てしまったのか」
     レオナは起きていた。暗い部屋の中、彼の緑の瞳が丸く見開かれている。
     マレウスは違和感に首を傾げた。レオナと視線が合わないのだ。
    「どこを見……」
     レオナの目線を追って、マレウスは下を向いた。白いシャツの下で、右の乳首が光を放っていた。あのとき跳ねた蓄光塗料である。レオナの尻のみならず、ドラゴンの右乳首もこの一年光を蓄えていたわけだ。
     かかった薬液はごく少量だったらしい。シャツの前を開き、胸を露出させても眩しくはない。ほのかに、慎ましく、右乳首が燐光を纏っている。
    「………………」
    「………………、あ」
     乳首がちかちかと明滅し始めた。今にも消えそうに弱々しい。レオナは限界を迎えた。ベッドに耳まで潜り込む。睡眠は手軽な現実逃避だ。
    「おい、転移してくるんじゃねえよ」
     マレウスの縦長な身体が、布団山の中、レオナの隣に伸びている。睨むレオナに、マレウスは言った。
    「これはお揃いというやつではないか?」
    「はあ? 気色の悪いことを言うな。第一、俺の方が百倍光ってる」
    「そこまで違わないだろう」
    「ガバ判定で揃えようとするんじゃねえよ」
    「やめろ、キングスカラー。乳首を引っ張るな。伸びる」
    「引っ張られるまま二十八センチも伸ばすやつがいるか!第一、哺乳類でもないくせに乳首だのへそだのおこがましい」
    「ふふ、羨ましいのか? おまえの尻も伸ばしてやろう」
    「人外ガバ判定やめろ! 尻を掴むな!」
     いったい何をやっているのか。
     グリム以下といっても過言ではない、低レベルの争いだった。
     地力体力魔力実力身分美貌、どれをとっても国際レベルでハイランクな二人が、尻と片乳首を光らせ、狭苦しい布団の中で罵り合い、掴み合っている。
     初夜というなら、こんな夜は確かに初めてだ。何度もあってはたまらない。


    「あっ」
    「うぐ、」


    「……………………」
    「……………………」
    「……てめえが尻をこねくりまわすから……。しっぽに触るんじゃねえ」
    「……おまえこそ乳首をつねりあげるから……。これでも神経は通っているんだぞ」
    「おい、おまえこそ、……おい、」
     掛け布団の中は、お互いの発光で明るい。これくらい狭苦しい空間だと、光源があまり気にならない。汗ばんだ肌が火照り、レオナは琥珀のようであった。マレウスの白皙にほのかに血の色がのぼる様子は、咲き初めの薔薇を思わせる。だが、お互いの感触に鉱物の硬さはない。植物のように冷ややかでもない。
     レオナは鼻を鳴らした。
    「においがする」
    「あ、当たり前だろう。狭いんだ」
     獣人の嗅覚は鋭い。マレウスは羞恥を誤魔化すように、レオナを抱き締めた。ぐにゃぐにゃしている。熱い。
    「…………」
    「おまえも同じにおいになれば、気にならないだろう」
     レオナは鬱陶しい拘束に抗議するように、マレウスの鎖骨に額をぐりぐりとぶつけた。今夜の予定が今更戻ってきたことに、文句を言いたかった。マレウスのくせに、その気にさせるなんて生意気だ。
     だが変化した局部は誤魔化しようもなくお互い当たっている。暑いし、魔力のにおいが籠って咽そうだ。
    「……ドラゴンって乳首弱いのか」
    「特別弱くはないと思うが」
    「調べてやるよ。感謝するんだな」
    「おまえは尻より弱いところはなさそうだな。……おい、乳首を伸ばすな!」
     こんな夜だ。もうひとつぐらい何かが起きても、尻と片乳首の光の影に隠れてしまうだろう。
     どさくさに紛れ、二人はやっとくちづけした。



     ふとレオナが眼を開けたとき、発光は止んでいた。いつ止んだのか、まったく覚えていない。日はすっかり高く昇っている。
     マレウスはなぜか足元で、ベッドと直角になって寝ている。身体の半分がはみ出しているのがシュールである。
     レオナは欠伸をして再びベッドに潜り込んだ。寝不足なのだ。




     事の原因となった下級生には、後日、祝福がもたらされたそうである。寮室の蛍光灯の寿命が倍に伸びた。
         


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