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    ゆきんこ

    @yukiya_komcon

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    ゆきんこ

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    大遅刻ですが、りおわたが付き合って初めてのバレンタインです。

    特別な人へ「もうそんな時期か……」
     食料品の買い出しに来ていた凜生はそう呟いた。
     買出しに行ったスーパーではバレンタインが近いこともあり、沢山のチョコレートが売られていた。このところ大学での定期試験やレポートに追われていたため、もうバレンタインの時期が近づいていることに気が付いていなかったのだ。
     
    「折角だし、的場に何か用意してやるか。しばらくはバンド活動に専念できるしな」
     そう言って凛生は頼まれていたものだけを購入し、航海に何を渡すのかを考えるため早々と店を出た。

     *

    「それにしても的場は自分でも何か色々と買うだろうからできればそれと被らないようにしないとな」
     夕食を終えた後、自室に戻った凛生はそう言って航海にどのようなものを渡したらよいか参考にするため、スマートフォンで調べ始めた。話題になっている製品やレシピ、ラッピング……航海がより喜んでくれそうかつ、彼の買うであろうスイーツと被らなそうなものは何かについての答えを模索していた。学生の身である為あまり高価なものを渡す訳にはいかないし、万浬に知られた日にはいくらプレゼントとは言え流石に怒られてしまうだろう。それに有名な品を選ぶと航海自身が購入したものと被る可能性が高くなってしまう……。

     「となると手作り、か。そうなると……」
     凛生は思考と電子の海に再び沈んでいった。恋人となってから初めてのバレンタイン、何が何でも成功させるために。いくら自分が天才とはいえ、油断は禁物。なんせ相手は甘いものに目がないため、その分舌が肥えているからだ。
     
     航海は凛生にとってただの恋人ではない。自分がArgonavisへ入るきっかけになったあの歌詞を書いた本人であり、同じ船に乗り旅をする大切な仲間でもある。尚の事思い入れの強い相手だ。
     「マカロンには“あなたは特別な人"という意味があるのか、それに味の種類も色々作れる……それならば」
     
     *

     翌日、材料を購入した凛生は航海が不在の間に一度お試しで生地部分だけ作ってみることにした。マカロンは難易度の高いお菓子。いくら自らを天才と称する凛生であっても一度、練習として作ってみたほうが良いと判断したようだった。しっかりと角が立つまで泡立てたメレンゲとふるい合わせた粉類を慎重に混ぜ合わせ、絞り出し、焼いていく。

     「なんかいい匂いがすると思ったら……凛生君、それ何焼いてるの?航海君にあげるやつ?」
     
     焼いている間に洗い物をしていると匂いにつられたのか、帰宅したばかりの万浬が声をかけてきた。
     
     「あぁ、白石。ちょうどいいところに来たな。もう少しでお試しで作ったマカロンが焼きあがるから味見をしてもらっていいか?」

     いくら生地部分のみしか作ってないとはいえ、ただでさえ甘いものが得意ではない凛生1人で消費できる量でもないのでこれ幸いと声をかけてきた万浬に味見をお願いすることにした。
     
     「別にいいけど……。マカロンとはまた手が込んだものを作ってるね」
     「まぁな。的場が買ってきそうなものと被らないようにしようと思ったらこうなってしまった。」
     「確かに生チョコとかそういうの買ってきそうだよね。俺も詳しくないけど」
     
     万浬は試作品とはいえ、凛生の作ったものなら間違いなく美味しいだろうと思いつつ、そのチョイスに驚きを隠せなかった。いくら甘いものに目がない恋人のためとはいえ、マカロンなんてしゃれたものを作っているとは思わなかったからだ。

     「っと、焼きあがったな。白石、早速で悪いが味見を頼めるか?」
     「分かった。……うん、見た目も綺麗だし大丈夫じゃない?」
     「ならよかった。ひとまず今日のところはジャムでも挟んで七星と五稜にも食べてもらうことにするよ。2人でこの量は流石に多いしな」
     「いいんじゃない?航海君にはバレないように結人君には特に釘をさす必要がありそうだけど」
     「それもそうだな」

     綺麗に焼き上がり、万浬からのお墨付きをもらえたことで安心した凛生は間に挟むガナッシュやラッピングをどうするかの参考にするべく、航海が自分でどのようなものを買う予定なのか様子を窺いながら当日を迎えることにした。

     *
     
     バレンタイン当日。
     その日は午後からバンド練の後、新曲の打ち合わせをすることになっていた。バンド練の時点ではまだお互いに渡していなかったため、二人揃ってどこか落ち着かない様子で練習に参加していた。

     「凛生、航海。今日の練習、いつもより集中できていない気がするけど大丈夫?」
     「あぁ、すまない。大丈夫だ、続けてくれ」
     「蓮、心配かけてごめんね。僕も大丈夫だから続きやろっか」
     「まぁ、今日はバレンタインだしね。落ち着かないのはわかるけど、ちゃんと集中してよね。スタジオ代がもったいないよ」
     「ま、2人とも大丈夫なようだし、続けようぜ」

     メンバーからは心配と呆れの目を向けられたものの、特に大きなトラブルもなく5人は練習を終えた。

     *

     「桔梗、入るよ」
     「あぁ、的場。来たのか、どうぞ入ってくれ」
     「わかった、じゃあお邪魔するね」

     そう言って二人はいつ渡そうかとタイミングを見計らいながらも、いつものように作業を始めた。
     「ここはもっとこんな感じがいいんじゃないの」
     「そうなると……こんな感じか。確かにこっちのほうがいいかもしれないな」

     「……いいとこまでやったし、そろそろ今日は終わりにして明日にする?時間ももう遅いし、そこまで急ぐものでもないしね」
     「そうだな、今日はこの辺にしとくか。……的場。」
     「何、なんか改まってどうしたの」
     「今日はバレンタインだからな。2人だけの時に渡そうと思って遅くなってしまったが、受け取ってくれるか?」
     
     そう言って凛生は航海にお手製マカロンが入った箱を手渡した。
     「これ、どうしたの。……ひょっとして自分でこれ作ったの?」
     「あぁ、的場は自分でも色々買うだろうから被らないようにと思って考えてたらマカロンがいいんじゃないかなと思ってな。初めて作ったがなかなかの出来だと思うから食べてみてくれないか」
     「わかった……いただきます」

     航海は凛生の勧められるがままにマカロンを口にした。茶、緑、ピンク、紫、白――色とりどりのマカロンは食べる前から美味しいだろうとは思っていたが、いざ口に入れると生地はさっくりとしていて、中のガナッシュも甘すぎることはなく、ちょうどいいバランスとなっていた。

     「なにこれ、ほんとに初めて作ったの?見た目だけじゃなくて味もお店みたいなんだけど。色々と種類もあるし」
     「そうか、それならよかった。的場がそう言うなら間違いはないからな、色々こだわって作った甲斐があったよ」
     「確かに甘いものは好きだけど、別に専門家ってわけじゃないからね。でも、これだけのものが作れるなんて流石天才は違うね。……僕も用意したんだけどいいかな、桔梗が用意したものには及ばないけど」

     航海は凛生が用意していたものが思っていたよりも手の込んだものであったことに驚きを隠せないでいた。自分が用意したものなんてそれに比べたら大したことはないから申し訳なさを感じつつも、航海は凛生に用意していたお菓子を渡した。

     「これは……クッキーか?」
     「そう、チーズ味のクッキー。これなら甘いものが苦手な桔梗でも食べられるでしょ」
     「そうだな、……早速一枚頂いてもいいか」
     「どうぞ。桔梗のなんだし、好きにしたら」
     「じゃあ頂くよ。……うん、チーズの風味がしっかりとしているからこれなら食べやすいな。的場、ありがとな」
     
     自分が思っていた以上に喜んでいる様子を見て航海は安堵の表情を浮かべた。
     「そんなに喜んでもらえたなら選んだ甲斐があったよ、というか僕もそれ、味見してないから一枚貰ってもいい?」
     「あぁ、かまわないぞ」
     「僕が言うのもなんだけど、ほんとにいいの?ありがとう」
     
     

     翌朝、航海は朝食を食べていたら、万浬に声をかけられた。
     「航海君、おはよう。結局昨日は無事貰えたの?」
     「万浬君、おはよう。うん、昨日新曲の打ち合わせの時に無事マカロンを貰えたよ」
     「マカロン⁉また洒落たもの用意したねぇ、手作りなんでしょ?」
     「うん、お察しの通り手作りだったよ。流石天才だね、お店レベルの仕上がりだったよ」

     航海は急に声をかけてきてどうしたのだろうと会話を続けていた。
     「流石凛生君。……ところで、バレンタインに送るお菓子には意味があるって話、知ってる?」
     「なんとなく聞いたことはあるけど……まさか、マカロンにも意味があるの?」
     「そうみたい、俺もたまたまネットの記事に書いてあるのを見ただけなんだけど、“特別な人”って意味があるみたい」

     その話を聞いて航海は顔を真っ赤にし、その後の万浬の話の内容も全く耳に入らず、どこか上の空な状態で一日を過ごすこととなった。
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    ゆきんこ

    DONE大遅刻ですが、りおわたが付き合って初めてのバレンタインです。
    特別な人へ「もうそんな時期か……」
     食料品の買い出しに来ていた凜生はそう呟いた。
     買出しに行ったスーパーではバレンタインが近いこともあり、沢山のチョコレートが売られていた。このところ大学での定期試験やレポートに追われていたため、もうバレンタインの時期が近づいていることに気が付いていなかったのだ。
     
    「折角だし、的場に何か用意してやるか。しばらくはバンド活動に専念できるしな」
     そう言って凛生は頼まれていたものだけを購入し、航海に何を渡すのかを考えるため早々と店を出た。

     *

    「それにしても的場は自分でも何か色々と買うだろうからできればそれと被らないようにしないとな」
     夕食を終えた後、自室に戻った凛生はそう言って航海にどのようなものを渡したらよいか参考にするため、スマートフォンで調べ始めた。話題になっている製品やレシピ、ラッピング……航海がより喜んでくれそうかつ、彼の買うであろうスイーツと被らなそうなものは何かについての答えを模索していた。学生の身である為あまり高価なものを渡す訳にはいかないし、万浬に知られた日にはいくらプレゼントとは言え流石に怒られてしまうだろう。それに有名な品を選ぶと航海自身が購入したものと被る可能性が高くなってしまう……。
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