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    suu_sui_cidal

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    書きかけですが支部にあげようとしていたネファを途中公開します
    R15くらいです あまり品がない 推敲段階なのでお見苦しいかも

    未読で問題ないですが前作「汝〜」と地平が同じです

    #ネロファウ
    neroFau

    ふたり静か(仮) 流されやすいのと押しに弱いのは違うんだよなあ、とネロはここにきて何度目かの確信を得ていた。膝を組んでわずかに前に屈み、膝に肘が当たる具合に片腕をだらんと下に垂らし、指先でグラスの上部を掴んで揺らす。どちらかと言うまでもなく、寛いだ姿勢だ。
     隣のファウストは普段からあまり脚を組まない。せいぜい肩幅くらいに開脚するのが関の山で、グラスをぶら下げるように持つことなどない。膝に肘をつくくらいのことはする。酔いが回ると両肘をついて祈るように手を組んで、そこに顎を乗せていたりだとか、そういう姿勢だ。だいたいそういう時、ファウストはぼうっとしていてあまり喋らなくて、横顔がなんとなく幼く見える。これを数回見てしまうと、昼間に本気で怒って凄まれてもまあ好物を作ってやればなどと思うのだ。

     特定の相手とのギブアンドテイクが心地よく成り立つことが、こうまで自分の心に平穏をもたらすものかとネロは自分でも意外に思っているし、たぶんそのことじたいに救われてもいた。
     ファウストは頑固で譲らない部分が多々あるものの、真っ当な押しには幾分弱い。強がりを言い当てられたり、多少見当違いだとしても気遣いや善意に基づいて行動しているとわかるものの言うことは、なんだかんだで飲むことが多い。何にでも真正面から責任感を以って向かうタイプだ。
     ネロの方は、責任感なんてほぼないに等しい。だいぶん年下の魔法使いたちが自分を慕ってくるのは可愛かったし、作ったものをニコニコ食べてくれればいい気もしたが、それだけだ。自分が寄りかかるのも、誰かに寄りかかられるのも困るし、何か災いが降りかかってきたら身軽なまま避けたい。
     ネロは自分が流されやすい人間であるという自覚がある。他人と深く関わって、過去に舐めたのと同じものを味わいたくない。自分は他人を捨て置いて逃げてしまう程度の人間なのだという苦い思いは、噛み砕いたさき、ネロの喉の奥にずっと居座ったままなのだ。


    「行儀が悪いよ、ネロ」
     足を組んだうえ上体をべたりと腿の上に倒したネロを、ファウストは柔く咎めた。ネロは酷い姿勢のまま視線だけでファウストを見上げたが、やはりその目に憤怒は少しものっていない。
    「あんたって悪いやつとかやな奴に見られたいのかと思ってたけど」
     違うんだな、と立ち上がりがてらネロが言うとファウストは気まずそうに眉を寄せた。
    「…僕はロクでもない呪い屋だよ」
    「そういう奴ってさ、俺相手に行儀がどうとか間違っても言わねえと思う」
    「そう?」
    「本当にロクでもない奴ってさ、他人がどうなろうと知ったこっちゃないんだよ。こっちにまずい部分があっても注意なんかしないね。何ならそのままどっかで恥かかせて笑い種にしようって魂胆だ。お願いだからこうしてくれって言ってさえ、目下の奴の話なんて聞いちゃくれねえとか」
    「見てきたように言うな、きみ」
    「先生さあ、俺はともかくヒースやシノたちがどうなろうと知ったこっちゃないって、本気で思えるか?」
    「どうかな。心配は口先だけで、本当は思っていないかもしれないよ」
    「そりゃ悪いや、敵わねえ」
     ふふ、はは、と二人して笑う。実際、この先に踏み込めば何かあるんだろうな、と互いに思っていて、今となっては多少踏みこんでも良いのだろうな、とも予測はつくけれど、そうはならないのだ。だいたい、ネロにとってこれは単に意趣返しだった。一昨日かそれくらいに、「本当に卑怯な奴は後悔なんて少しもしないだろうね」とファウストに言われたことへの。
     そうしてその言葉に、「どうだかな。後悔なんて口先だけで、ある日突然フラッといなくなるかもしれないぜ。もう全部嫌になったからとかなんとか身勝手なこと言って」と何でもないようにネロが返した時に見せたファウストの寂しそうな、まるで苦いものでも食べた時の如く一瞬だけ奇妙に歪んだ表情を、できれば忘れてしまいたいという一心でもあった。

     なあ先生、たかだか俺相手に傷付いたような顔なんかしないでくれないか。そんな顔を見せられたら、俺はあんたといる自分を好きでいられなくなる。

     そんな、とんでもなく身勝手な言葉が喉まで出かかることはあっても、ネロの舌の上に乗ることはついぞなかった。ネロはファウストとの間の、気やすくても近すぎない距離感を気に入っているのだ。その距離にはあるべき敬意があり、不安がなく穏やかで、何よりフェアだ。
    自分が与えられるものの外側の話になると、途端に臆病になってしまう自覚がネロにはある。しかも都合よく忘れることは不得手ときているから、余計だった。少し唇を噛んだあの苦い顔が頭を過ぎると、どうしたって居座りが悪くなる。結局、自分にはあれをどうすることもできない。自分に向いているわけですらないそれを気に病んでしまうことの意味が、わからないわけではない。たぶん深入りしすぎているのだと、ネロはぼんやり自覚している。
    いつもこうだ。いつも、気付いたら取り返しのつかないところにいて、こんなふうに思っている。そんなに死にたきゃ殺してやるとか、そんなに傷つきたいなら、いっそもっと傷つけてやるとか。

     ファウストは気づいていないだろうが、ネロがファウストと寝たのはある種の自棄だった。酒でも食事でもだめなら、自分に残されたものがそれくらいしか思いつかなかったというのは言い訳で、そういうつまらない男だとわかってほしいというような、やはりこれも相手任せの甘えがあった。執着しはじめた相手との行為に滲み出るネロ自身の焦りとか躊躇いを、嫌悪してくれれば話は早かった。
     結論からいえば、そうはならなかった。ファウストは本人の申告通りの経験の薄さ故なのか、察知してほしいところはうまいこと察知しなかったし、ネロの方はネロの方で、こんな、硬く閉じられた鍵穴を少しずつ開いていくようなセックスは初めてだった。どこか別の部分で意地になっていて、すっかり柔らかくなったそこに沈みこんだ頃には、達成感と心地よさでどうにかなりそうになっていたのはむしろネロ自身のほうだった。
    頭や腹を撫でられるのを心底心地いいと思ってしまった頃には、たしかにあの顔をうまいこと忘れられた気がした。ファウストに撫でられて心地良さそうにしている猫を思い出して、自分があれくらいの枠に入れたのならいいなと、また無責任なことを考えたりする。ファウストの苦い表情を思い出すと、痛みを堪える顔と快感に呑まれないようにしている顔も同時に浮かんだ。
     そしてまた気付く。あれは、自分ごときに傷つけられるようなものではないのだと。

     なあ先生。たかだか俺相手に傷ついたりしない、強くて優しい先生。
     互いを深く侵さない安心感に友だちなどと名前をつけているけれど、実のところネロには「友だち」とか「親友」とかそういうものがわからない。何なら「仲間」と「家族」でさえも曖昧だ。その線引きを曖昧に、ネロ自身がしてきてしまった。ファウストが他人との関係に癒しや甘ったるさや、あるいは駆け引きを、望んでいないとわかっているから気楽でいられるだけで。
     この関係に、感覚に、沈んでいるのはどちらだろう。傷つけられないことに、傷ついているのは? 向けられた優しさの順番を考えるのは、果たして。

    「する? きょう」
     隣にいるファウストの髪の毛をかき分け、覗いた頬に軽く触れて訊く。不思議なくらい、あまり断られたくないと思っている自覚があった。少し前まではそんなこともなく、別に断られたからなんということもなかった。別に時間も機会もいくらでもあるわけだし、だいいちこれはさしたる目的もない、同性どうしのセックスである。
    「…君がしたいなら」
     頬に当てた手に、少し冷えたファウストの手が重なった。些かこちら任せの返事が、その仕草だけでちょっとした強がりだとわかる。愛おしい、たいせつだ。この冷えた手の持ち主を、自分は大事にしたい。とびきりの食材に施すような、興奮と熱意をもって。



     食事のいいところは、食べたらなくなってしまうところだ。食事のあとのきれいになった皿を見るのが、一等好きかもしれない、とネロは思う。ソースがパンで拭われていたら、尚嬉しい。たまに育ちがいいらしい連中は、それをやるのに一言断ることもあった。行儀が悪いけどやっていい? とこちらに訊いてくるのはファウストとか、フィガロとか、シャイロックとか。ラスティカは、意外にも何も訊かずにそうした。
     白いシーツの上に転がった馳走は、食べても食べても目の前からなくなってはくれない。いつも美味そうな肢体をネロの眼前に晒して、繋がりたい気持ちを満たしてはくれるけれど。
     互いに同じところで深く溺れた満足感を、どうしてか隣が空になったベッドで目を覚ます寂しさが上回るようになる。朝目が覚めて、回らない頭で自分の体の横の空間に何か残っていないかを無意識に探して、しかしそこで見つかるのは砂を撒いたあとのような、シーツのざらついた感覚だけなのだ。まるで砂漠のようだ、と思う。与えて、与えられて、ちゃんと自分は受け取ったはずなのに、カラカラに乾いて知らぬ風に舞っている。

     なのでその日、ファウストが行為の後に隣で微かな寝息を立てはじめたのに気づいた時、ネロは嬉しいとも意外ともつかぬ気分が疼いて、寝付くことができなかった。そうして特に、寝ている間も何も起きなかった。意外だった。必ず夜のうちに布団を抜け出して、ネロが目を覚ます頃には部屋に気配の残滓すら残っていないのが常であったから、何があっても寝ているところを目撃されるのを避けているのだと確信していたし、そこを「踏み込んではならないところだ」と決めてさえいたのだから。
     しかしその日ファウストは確かに朝まですやすやと眠り、ネロが仕込みにいくよりも早い時間に身体をシーツから起こして上げた瞼を瞬き、ネロと目を合わせた。ネロの寝たふりが一瞬遅れてしまったために、パチリと視線がかち合う。
    「おはよ」
    「おはよう、ネロ。…君はよく寝られた?」
    「いや、一晩中起きてた?」
    「は?」
    「ずっとあんたの寝顔見てたから」
     ネロが正直に言えば、ファウストは馬鹿じゃないの、とわずかに笑いながら目線をそらして立ち上がる。
    「何も楽しくなかっただろう。何かこう、きみにとって不快なことはなかった?」
    「不快なことって?」
    「うなされていてうるさかったとか、いびきがひどかったとか」
    「いや? 死んでんのかと思うくらい静かだし、なんもなかったよ。寝言一つない。そんなに疲れてた?」
    「おまえ、昨夜の自分がしつこかった自覚がないのか?」
    「まあ、ないと言えば嘘になるけど」
     ファウストはそれには何も答えずに、指を鳴らしてカソックとアクセサリーを身に纏った。どこかからサンダルウッドの芳香がして、浄化の魔法を自分にかけたのだとわかる。
    「しつこいのは嫌いか? 先生」
    「さあ? それはきみの方がよく知ってるんじゃないか」
    「…都合良く解釈しとく」
    「それでいいよ」
     今度こそファウストは帽子を目深に被り、魔法を使って部屋を後にした。自分の隣、僅かに体温の残る空っぽのシーツをネロは今一度撫でて、そこにいつもの孤独が居座っていないことに気付く。そこに確かに彼が居て、傷つけずに与えあった記憶がある。
     これでいいのかもしれない、とネロは思った。どうしてなくなってくれないんだと思いながら、居なくなられたら死にそうに寂しくてたまらないなんて、どうせ相手には言えやしないのだから。

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